土曜日
ようやく週の終わりにたどり着けた。
土曜は午前で授業が終わる。
ロドニーは本当に授業ちょいちょい一緒だった。会ったら軽く挨拶する仲になった。俺がロドニーの方を見ると大抵視線が合うのが、理由はわからないがちょっと怖い。
昼食の後、勉強会まで時間はあったのでクリケット部に顔を出すニックスについていった。
クリケット。この国で大人気なスポーツである。
広いグラウンドに野球部の姿がないのが面白い。端っこを見てもダイヤモンドは形成されておらず、その立ち位置にクリケットがあるわけだ。カルチャーショックを感じる。
クリケット部の部員が屯する建物の手前の掲示板には、他の部の部員募集のチラシが貼ってあった。ここから離れたところも乗馬クラブやボートクラブはあるそうだ。
ニックスについていったら、整えられた芝生の上で、すでにそれらしき部員がストレッチを始めていた。
「ジョン、来たな」
妙に眼光鋭い大男がやってきた。
「よろしくお願いします!」
俺の横でニックスは90度頭を下げた。大男は鷹揚に手を挙げた。
「おお……」
俺はこっそり感嘆の声を上げた。何だがちょっと懐かしいノリだ。大男は俺のつま先から頭の天辺までを見て勝手にうなづいた。そして勧誘してきた。
「ジョンの友達なだけはある。軟弱な自分を変えたいと思うのは心が強い証拠だ。当日は基本受け付けていないんだが、入部届を持ってきてやる」
「先輩、ワーグナーに見どころを感じましたか!? さすがです」
そりゃあんたやニックスと比べたら軟弱だろうけど、今のところ平均値だと思う。
「いえ、見てまわってる最中です」
「入るんじゃないのか」
「まだその、せっかくですが…」
なんか圧感じるな……。圧はかけない方がいい。浮動票を逃すからな。
「クリケットはモテるぞ」
「……っ」
耳寄り情報だが、ここは男子校という罠がある。クリケット部は陽キャでノリも良くてリア充の集いでモテモテかもしれないが、学外に出なきゃ女子に会えない。モテで釣るのは割りに合わない。
俺ぐらい頭がよかったら引っかからないが、俺じゃなかったら引っかかっていただろう。孔明の罠である。
「自分のような若輩者には贅沢なことですので…」
俺は直角に頭を下げつつ後ろ向きで撤退する。ニックスは捨てていく。あばよ。
グラウンド周辺をぶらぶら歩くが興味が惹かれるものはなかった。
「テニス部もあるんだな」
テニスコートの付近には人がたくさんいた。たぶんテニス部の関係者なんだろうけど……。試合しているコートの周囲でわいわい騒いでいるだけの人がやけに多い。何をやってるんだろう。
クリケットのように厳しそうな雰囲気はなかった。
グラウンドでやっている運動部を眺め終わったがピンとこない。あとはボートクラブと乗馬クラブ……。ボートはまあ見なくていいかな。家でやったことはあるけど、のめり込むほどの熱意は生まれなかった。
「うーん文化部も見てみるべきなのか」
声楽部が有名なのは知ってる。他は何があるんだろう。
時計台に目を向けると、そこそこ時間が経っていた。初めて行く場所だから時間に余裕を持って行動しよう。
勉強会からのご案内と一緒に同封されていた地図を開く。簡易に書かれたものだった。学園の敷地の奥にある林の中に、星マークがつけられている。大雑把だな、迷ったらどうするんだ。
学舎の歩廊からそちらの方面に道なりに進む。最初はあった石畳も道が分かれるたび狭くなり、道半ばでまばらになり、林に足をかけたときには靴底は土草を踏みしめていた。
一体この地図の縮尺はいかほどなのか気になるが、ちくちく歩くしかない。
道を間違ったのかはたまた嘘の手紙かと思い始めたころに、唐突に目の前に直線に整えられた生垣が現れた。
生垣の隙間を見つけて入る。直線的で幾何学的、バロック庭園のようだ。犬や馬のトピアリーもトリミングされたばかりに見える。ミニサイズの庭だがよく手入れされているのが一目でわかった。
中央をそのまま進んでいくと、噴水があって、その向こうに封蝋のシンボルになったっぽい木が一本植えられていた。
「これがジューンベリーの木?」
なんだろうなあ、と思ってじろじろ眺めてみる。幹から細い木だ。思ったより大きくも派手でもない。うーん、いうほど封蝋似てるかな?
前世はスギかスギ以外かという環境で生き抜いていたからか、スギ以外の木はわからん。嘘だ、興味がなかっただけだ。
さらにその奥に、重厚な教育棟とは少し趣の違う、カントリー風の三階建ての屋敷が見えた。外観に余計な装飾はない、いわゆる瀟洒な建物である。このお洒落さ、神戸とかにあった異人館を彷彿とさせる。
エイデン校の創始者一家がかつて暮らしていた屋敷だそうだ。今では勉強会とかいう変なクラブの部室になっている。落ちぶれたもんだな。




