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テニス部②


 まさか学校内に購買があったとは……。


 大食堂を過ぎて曲がったところ、絶妙に俺の足の運ばなかった場所にそれはあった。


 広告がペタペタ貼られた小さな店がポツンと立っていて、昼休みを満喫しているやつらが屯っている。雑役生がよく使いに出される場所でもあるらしい。

 時間帯のせいか人が多いので、とりあえずショーウィンドウから中を覗いてみる。


「おお」


 なんかちょっと駄菓子屋を思い出して懐かしい気持ちになった。意外と日用品とかも置いてたりするのが余計にそれっぽい。ほおー!

 今まで値段のわからんものばかり食べてたから、商品を持って行って、会計で硬貨を出している姿が新鮮に見える。


 ……硬貨を出している。


「あんまり興味がない感じ?」


 先導してくれたレニングが背中をつついてくる。それにつられて他のやつもつついてくる。


「不味そう?」


「そういうわけじゃないんだけども」


 金がないから結局買えないんだよなあ。見るだけ悲しい。






 せっかく借りたし読まねば。いつテューダーに抜き打ちテストされるかわかんないし。


 そういう気持ちで神学の授業が始まる前、図書館で借りた本を開いていたら、ロドニーの知り合い三人衆が今日もやってきた。俺がドア前をキープしてから挨拶をする固定メンバーだ。先に来ててもわざわざこっち来てくれる。


「えへへ、おは——”初心者のための聖典読解”!? なぜワーグナーくんがこのようなビギナー向けを!?」


 控えめそうな雰囲気を出しつつ、声は意外とでかい。そういうところロドニーと似てるな。


「物事を発展させて考えるとき、僕たちはしばしば基礎を蔑ろにしてしまうからね」


「納得しかない……」


「上物にばかり手間をかけて、基礎を疎かにしたらすぐ崩れちゃうからね」


「深すぎる……」


「自分の顎に肘で触れることはできない」


「神に感謝……」


 こいつら絶対俺を見てないだろ。俺を通して別のもの見てるだろ。


「でも、聖典という文字が入っている本を持っているのはとても素晴らしいことです」


 宗教関係のものを持ってるって喜んでる。不気味だ。


 似たもの同士は集まるってよく言うけども、どういうノリなんだ?

 この三人衆は教会関係の子供らしい。でも俺に妙な好意を向けてるやつばかりでもない。逆に厳しい眼差しを向けてくるタイプもいる。「信仰心の欠如」とかいう物騒な単語が聞こえてきたこともあった。双方とも実害はないが地味なストレス要因だ。

 本家本元のロドニーと久しぶりに話してみるか。色々聞きたいことあるし。




 なんてことを考えていたが、下級生にのびのびできる自由時間はあまりない。ロドニーをわざわざ探しに行く時間はなく、偶然の出会いに賭けるが運もなかった。

 結局、クラブ活動の時間まで持ち越しだ。


 同じ部活でよかった。コンプトン先輩を追っかけてテニス部に入っただけだが、これは棚ぼただったかも。


 部室がどこかわからなかったので、寮の部屋で運動着に着替えてテニスコートに向かった。時間には間に合ったけどすでに結構いる。入部届を出すの早かった一年はもう参加しているようだ。まだ正式な開始日じゃないはずだけど、みなさんアクティブですね。


 すぐになんの説明もないままコートの整備に巻き込まれた。それが終わると名も知らぬ先輩に泥で汚れたボールの箱を渡された。洗って綺麗にしろって。使い古されて先の広がったブラシと一緒に。

 石灰で指が白くなってたし、ちょうどよかった。



 ……とはならんわ!

 これなかなか落ちないんですけど、昨日今日の汚れじゃないだろ。押し付けられた!


 俺の心は勢いよく退部に傾いた。

 なんのために入ったんだっけ? いや、俺はそもそもなんのために生きてるんだ? 手を動かしながら呆然としていると、横から声をかけられた。


「あー、洗ったのはこっちのカゴに入れて。乾かすから」


「わかったよ」


 周囲を見て認識を改める。他にもいるのに主語が小さかったな。俺たちはなんのために生きて……。


「今日来た新入部員、来い!」


 つんざくような声が聞こえてきた。びしょ濡れの手を絹のハンカチーフで拭いながら、呼ばれた場所へ向かう。今日はオルグレンの姿が見当たらない。コンプトンも。


 できるだけさりげなく周囲を見渡していると、すごくこっちを見てくるやつがいた。

 ロドニーだ。


 あっそうだ、ロドニーに聞きたいことがあったんだった。ショックで頭から抜けてた。児童労働の存在を許容できる脳みそしていないもんで。


 本日のニューカマーは今の所俺だけらしい、ただの本人確認だった。名簿を持った三年は値踏みするような視線をこちらに向けた。


「いい生地のベストだな。一年で生意気なんじゃないか」


 引っ張って裏地まで検分してくる。皺ができるだろ。これが新人いびりなのかただのマチズモ的挨拶なのかわからない。もしやハイブリッドか?


「クリケットもラグビーもできないからってこっちに流れてくるやつがたくさんいるんだよ。目立とうとするなよ、大人しく指示されたことだけやってろ」


「もちろんです」


「顔合わせの日は必ず来い」


 それだけ言って解放された。もうちょっと何か欲しい。

 下級生の人権について考えたい事案が多すぎる。ボール洗いに戻るために消極的に歩いていると、ついてくる気配がある。


「……」


「……!」


 俺が止まると、後ろの気配も慌てて止まった。

 また歩き出して、相手の警戒が緩んだ瞬間にバッと振り向いた。思った通りロドニーが身を隠しながらついてきていた。


「いいテニス日和だね」


 今日も朝から素敵な曇り空だ。


「わっワーグナーくん! もうぼくなんかに話しかけてくれないって思ってた……っ」


 の割には存在感出しまくってましたよ。




所用で一週間ぐらい更新止まります。

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