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手紙②


 ただのじゃりじゃりしたミルクティーを飲みながら厭世的な気持ちになった。ワクワクするのは最初の二口ぐらいまでだった。甘すぎる。飲めたもんじゃねえ。

 俺は喉が渇く飲み物が嫌いだ。飲み物を飲んだら飲み物が欲しくなるって、構造に欠陥があるだろ。


 同室の一人が持っていたマフィンを等分にして分けてくれた。こっちの方が甘くないぞ。


「意外とワーグナーも言うんだなぁ。優しいだけだと思ってたのに」


「ちょっと迫力あったな」


「ん? 僕何か言ったっけ」


「しらばっくれるなよ」


 ブーメラン論法は連発すればゴミを見る目で見られようになるが、初回はまだ人権があるらしい。何回ぐらいまでいけるかな。


「はは、まあ僕たちのナイスガイを馬鹿にされて黙っているわけにはいかないだろ」


 反対派は黙らせないと。だって俺が推薦したんすよ、こっそりね。


「あっニックス」


「どこ行ってたんだ?」


「ちょっとな」


 食堂で和気藹々していたら、さっきから姿の見えなかったニックスが帰ってきた。

 名実ともにリーダーになったなガハハ。友人が権力を持つと色々融通が効きそうなので、とても心の安寧に良いですね。


「ワーグナー、荷物が届いてるから寮監室に取りに来いってさ」


「ああ、ありがとう」


 底に溜まっている砂糖をティースプーンにかき集めてぱくついた。


 さて、送った手紙に書いていたほしい物リストは揃っているだろうか。


 俺はニックスと入れ替わるように部屋を出て、玄関に向かった。配達物を受け取って、ついでに手紙も回収する。自分の寝台に載せてナイフを使って早速開ける。食べ物の匂いが最初にした。


 カーディガンと外行き用の服、お菓子の箱、フルーツケーキの入った丸いブリキ缶。燻製肉。おニューの石鹸。俺のがさついた髪も元通りや!

 ごそごそ掘ってみるとなぜかカタログ本が数冊入っていた。重かったのはこれのせいか。そして一番欲しかった現ナマはなかった。こっそり2回も書いてたのに!


 解せん気持ちを抱えながら、母からの手紙で関係ありそうな部分をざっと読む。


『——外に出るときは従者を連れて行けばいいのだから、現金を持つ必要はありませんよね。

 目録を入れておいたので、わざわざ外出する必要もないと思います。

 用事があればタウンハウスに連絡するように。話はしておきましたから。

 勉強と毎日のお祈りを欠かしてはいけませんよ。それから——』


 俺は手紙を手放し、ふらふらとベッドに倒れ込んだ。


 今世大人抜きで外出なんてできたことがない。お恥ずかしながらいい歳こいて、初めてのお使いもまだなのである。そして現金に直接触れるのは好ましくないという貴族特有の考え方のおかげで、俺が所持しているお金は全くなかった。


 来週日曜から解禁される外出許可が、寄宿学校にぶち込まれた日からの唯一の楽しみだったのに。


「…なのに文無し……。ああー。生徒がいちいち家から使用人持ってこれるわけないだろ何を言って……。知らないか……」


 母さんはそもそもずっとカテキョ頼りの教育を受けていたらしい。エイデン校の話を父さんが俺にしてても、「えっ何故そんな狭いところでわざわざすし詰めに?」みたいな顔ずっとしてたし。


 ……なんとか立派な貴族になるための社会学習という方向性から小遣いをせびろう。

 自分の責任で市井を歩き回る経験。筆記用具などを急に壊して、学校内で買わなきゃいけない可能性。現金を持ってないとダサいイメージがつくという風評の捏造。


 それらを汚く捏ねた後、丁寧な言葉に直して、可愛い天使ニールくんはお手紙を書いた。


 正直、母さんが納得したところで間に合うかはわからんが……。来週は無理でも再来週がある。外に出て屋台の熱々フィッシュ&チップスを食いたいという、俺のささやかな野望はいつか必ず叶えてみせる。


 その下に妹からの手紙があったので開いてみる。


『フィンがからかってくるのがへりました。おにいさま大好き。いつ帰ってきますか?』


 よかったね。前回の手紙で弟の気を逸らすことに成功したようだ。

 フィンこと弟の手紙がその下にあった。


『兄上の部屋のベッドでジャンプしてたら寝台の脚一本とソファ折っちゃって怒られました。部屋探検してたら模擬剣あったので借りてます。あと服もカッコ良かったから着てます。あとコレクション見てたらちょっと壊しました。兄上ごめん。隠したのでまだ気づかれてません』


 俺の部屋めっちゃ荒らされとる! 何してんだクソ弟!

 急にしてきた頭痛に悩まされながら、とりあえず全部の手紙に目を通す。


『フィンがおにいさまの部屋に入ってるってすごく言ってきます。助けてください。おにいさまがいなくて悲しいです』


「……」


 あのさあ……。


 愚弟には模擬剣をプレゼントして、立ち入り禁止を言い渡そう。妹は……わからん、時間が解決してくれないか…。だってお前の尊敬するお兄様は今、一文無しで個人所有しているものなんか何もな——。


「!」


 俺は机の引き出しに視線をやった。中には拾ったものの未だ登場機会に恵まれていない松ぼっくり三兄弟がいる。もっともエレガントな広がりを見せているものを返事を入れた封筒に同封した。めっちゃぼこってしてる。これを俺だと思って励みにしてください。


 ……類似点を考えてみたけど何もないな。



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