勉強会③
「こんな話はパシー先輩にしかできなくて」
口が軽いやつだと思われたくないので言い訳しといた。
ヴィクトルがサイコパスではなさそうという有益な情報をゲットした。助け甲斐がある人じゃないとモチベがね。次期公爵というだけでペイはできると言ってもだ。
「君の友達の告発は勇気ある行動だけど、他寮の僕らができることは特にないだろうね」
「告発? ……そうですね」
告発ではない。被害者のロドニーはそもそも自分の環境が取り立ててひどいと気づいてない。俺が一人でどよめいていただけではある。そしてパシー先輩にちくっているだけである。
うーん、でもなんかさっきから反応を見るに、第一寮の現状はよろしくはないがままあることなのかもしれないな。あわわ、ここは修羅。
「でも、レッドフォード先輩の様子は気になるなぁ。ここの会長やってもらわないと。ボート部も部長になるって話出ていたのに」
「へー、ボート部だったんですか」
「大会でいい成績残しているエースだよ」
ボート部か。そういえば母さんが昔ヴィクトルと俺が川遊びしていたって言ってたもんな。いまだに思い出せないが、なんかちょっとつながったような。
俺が3個目のケークサレに手をつけようとしたところで、がやがやした集団が入っていた。中心にはいかにもな貴族っぽい雰囲気をした四年生、オルグレン先輩がいた。なにやら点数の話をしている。
「おや、来たなら教えてくれないと。俺の華麗なダーツ捌きを見せてやれたのに」
すごぶる気分良さそうに近づいてきた。ぐわっとくる匂い。うわ葉巻吸ってたな。
パシー先輩は適当に流して、ヴィクトルの話をした。オルグレン先輩は興味がない素振りを見せながら割と真剣な顔をして考え込んで、意見をくれた。
「手紙を送ったらどうだ? お前が書いてワーグナーが持っていけばいい。雑役生の仕事だっていえば、面倒がって手出ししづらくなるさ」
朝のミサの時間、俺は眠気を噛み殺しながら立っていた。隣ではニックスがさらに隣のやつと小さな声で話している。
睡魔に打ち勝つため聞き耳を立てたところ……ん? 部活の話? 俺も興味があったので口を挟んだ。
「君はもう入るところ決まったのか? 乗馬クラブ見にいくって言っていたよね」
「ああー」寮の部屋が同じそいつは頬をぽりぽりと掻いた。確か苗字はレニングだったような。
「体験入部したかったんだけど、殿下がいて。すごい人だかりだったんだ。また別の日に行くよ」
「殿下か」
入学してこの方、学校のトレンドワード首位争いをしている単語だ。対抗馬は雑役生。ちなみに俺調べ。
昨日、オルグレン先輩とパシー先輩との会話でも”殿下”というワードは出てきた。
先輩は俺が第一寮に入り込むための計画を好き勝手いい感じに喋ってくれたが、最後にやれやれと首を振った。
「まあ、手紙渡すだけにしておけよ。そういえば、ワーグナーは殿下と親しくないのか?」
「……お見かけしたこともないですね」
先輩二人は目を丸くした。
「冗談で言っているんじゃないんだよな……?」
「殿下ってどんな方なんですか?」
「え、まさか俺たちが教える側になることがあるのか……」
オルグレン先輩はわざとらしくのけぞった。
「殿下は、うむ。警戒心の強い人だな。態度はでかいが」
「お前が話しかけてもずっと梨の礫だからなあ。あの気まずい雰囲気を何回も味わいたくないんだけど」
「殿下の隣にいるアルドリッチ。殿下の乳母の息子だったか? あいつはずっと側について回っているくせに、橋渡し役もしない。殿下の真似事のように黙っているだけだ、役に立たない」
はあ、とオルグレン先輩はため息を吐いて眉間の皺を引き伸ばした。妙に演技がかって見える。
「なるほど、親しくなるには時間がかかる方なんですね」
俺は最大限オブラートに包んだ。
殿下の性格は聞く限りでは気難しく壁を作るタイプらしい。まだまだ王の器には程遠いようだ。まだまだこの国を任せられないな。しばらくは現王の治世が続きそうだ。
「だから、頼んだぞワーグナー。殿下は何が好きなのか探ってきてくれ」
と言いながら、オルグレン先輩は給仕が持ってきたケークサレを俺の目の前に置いた。俺がまだ三皿目に取り掛かったばかりなのがわからんのか。
いや、待て、そもそもなんで追加しようとするんだ? 前回俺がアイス食ってたときはいなかったはずだ。まさか、パシー……チクったのか。俺が食いしん坊だって偽の情報を流したのか? 俺は食いしん坊ではない、せっかく好意でお出しされたから食べているからであって決して食い意地は張っていない。
俺の物申す目線に、パシー先輩は一つうなづいて、給仕を呼んだ。何を言って……? 違う、おかわりではない。頼むな。うわ来た。




