98話 ~招待~
「めっちゃ食って、めっちゃ寝たわ」
「すごい久々に、こんなにゆっくり休んだわねぇ」
翌日の昼過ぎだ。
それぞれの寝室からやってきた二人が、ふわあとあくびしつつ、リビングへとやってきた。
「たしかに……前の町でも、火事の後はなんとなくバタバタしていましたしね」
「英気を養うのは重要じゃな。色々、土産ももらったしのぉ」
すでにリビングでテーブルを囲んでいたテルルも頷いた。
昨夜――いや、実質今朝まで続いた宴では、あれもこれもそれも、と、感謝の品々を大量に渡されたのだ。
残念ながら、自分が着用できる衣類はなかったものの、長旅に役立つ寝袋のようなものや、長期保存のきく食料品、あとはちょっとした貴金属なども。
命を救ってもらった礼として、タダでもらえたのだ。これといった金稼ぎの手段がない身としては、非常にありがたかった。
「しっかし、結局この町のヤツらは、おれたち旅人……外部のヤツとはいっさい接触なしか……徹底してんな」
「どうやら、商人とは入口のところでやり取りしておるようじゃが、中には入れておらんようじゃのぉ」
「昨日みたいに魔物が活発化してるとなると……やたら入れるのは危険なのかしら。それにしても、潔癖なほどだけど」
二人はテーブルに腰掛け、テルルと私がこしらえた即席サンドイッチを頬張っている。
沸かした湯をコップに入れて出していると、ふと、テルルが思いついたように言った。
「そうじゃのお……もしかしたら、生け贄なのかもしれんなあ」
生け贄。物騒なその響きに、うわっ、と思わず身を引いた。
「それって……その、そういうこと、ですか?」
町を封鎖して、別の集落で過ごさせる。
そこに魔物が現れて、旅人や商人を襲う――そのこと自体が、いわゆる出来レースというか、村側が仕組んでいることの、可能性。
「わからん。ここを任されていた警備の男は動揺しておったし……あれが演技ということはなかろうが」
確かに、受付の男は非情に動揺していた。
それに、昨夜の宴にもちゃっかり参加していたし、言動にウソ偽りは感じなかった。
「言われてみりゃあ、ありえそうな話だな。生け贄ほど御大層な話じゃなくとも、魔物の注意が町からこっちにズレてくれりゃあいい、くらいのもんか」
「それもそうだし……ねえ、そもそも、あの町自体が魔物に乗っ取られてるとか、そういう可能性だってあるんじゃない?」
腕で体をぎゅっと抱きしめながら、エリアスが眉をひそめた。
「つまりその……もう、町の中は……」
「……っていっても、確かめる手段はねぇな」
ヴィルクリフが、チラッと高い壁のある町を見た。
彼の言う通り、もし町が魔物にすでに占拠されていたとしても、中に入ってどうこうする手立てはない。
「あ、でも……町の入口にいたの、一応、人でしたよね? 会話もちゃんとできましたし」
確か、アスタリカが『魔物が人に成り代わる』事例がある、と言っていた。
しかし、さすがに町すべてが魔物化するほどのものだとしたら、この世界はとっくに滅んでいるはずだ。
「そうじゃのぉ……まあ、考えすぎ……だと、思っておこうかの」
テルルも、微妙な表情で頷いた。
現状、無理やり中に押し入るわけにもいかないのだ。一休みして、先の町へ向かうしかない。
そう結論付けて、四者四様、なんともいえない気分で、旅立ちの支度を始めていた時だった。
「お、おい、ちょっといいか!」
ドンドンドン、と激しく家のドアが叩かれた。
「悪いんだが、ちょっと話があるんだ!」
聞こえてきたのは、この集落の受付をしていた男性の声だった。
皆で顔を見合わせた後、扉を開ける。
そこには、おそらく急いで走ってきたのであろう、ヒィヒィと息を切らした、あの男性の姿があった。
「え~っと……あの、なにかありました?」
あまりに急を要す雰囲気に、昨夜のことが脳裏に浮かぶ。
まさか、またなにか魔物でも出現したんじゃないか。
不穏な想像をする私の前で、彼はやや困り顔で頷いた。
「じ、実はな……うちの町長が、あんたらに会いたい、と」
「え……ち、町長?」
思わず、四人で互いに目配せし合う。
魔物化しているかも、なんてウワサしていた町の、町長。
わざわざ呼び出してくるなんて、いったいどんな理由なのか。
「なんでも、魔物を追い払ってもらった件について、詳しく聞きたいと。……どうだ? もちろん、礼はするって言ってたが……」
そう言う男性に、不審な点はなさそうだ。
どう答えようか、と迷う私の前に、ズイッ、とエリアスが進み出た。
「ええ、お受けするわ」
「あっ……え、エリアスさん!?」
「そうじゃのお。何事も、ふところに飛び込んでみねばわからぬしなぁ」
慌てる私の横で、テルルも同意する。
確かに、今のままではなにもわからない。
若干の不安はありつつ、私も頷くと、ヴィルクリフもサッと身支度を整えた。
「こっちの準備はいいぜ。じゃ、サッサと案内して……」
「……ちょーっと、待ちなさい!」
私たちが準備万端で出かけようとしたタイミングで、バァン! と家のドアがしなった。
「あなたたち! もうここを出るのかしら!!」
「あ……オルディア、さん?」
腰に両手を当て、ふんぞり返っているのは、昨日散々泣きわめいていた少女だった。
目の下の腫れはすっかり治り、勝気そうな表情にツインテールがよく映えている。
「お嬢、恩人にそりゃあ」
「お礼はちゃんと伝えたし、感謝の品だってもう渡したわ! 今は、平等な立場よ」
「……そ、それはそうかもしれない、けど……」
彼女の後ろには、すっかり回復したらしいダイゴロウと、ノルンと呼ばれていた男性がいる。
二人とも申し訳なさそうな表情で、オルディアとこちらを見比べていた。なんとなく、彼らに頭を下げる。




