99話 ~招待2~
「彼女の言う通りですよ。お礼の言葉も、お礼の品も頂きましたし」
宴の後、改めて訪れてきたこの少女たちには、お礼品として金品を頂戴している。
むろん、最初は固辞した。しかし、このオルディアはどこぞの名家の出自らしく『むしろ辞されるのがなおれ』という考えで、それはもうしぶられにしぶられた為、最終的にありがたく頂戴した、という流れだった。
「この人に言われて、町長さんに会いに行くってところだったのよ。だから、ちょうど出るところね」
エリアスが、なにか用がありそうな彼女たちに説明する。
すると、オルディアはキッと鋭いまなざしで男性をにらんだ。
「ちょっと! なら、私たちも町に入れなさいよ!」
「えっ……そ、それはちょっと……」
急に話を振られた男性は、たじたじと後ずさった。
しかし、オルディアはさらに目つきを鋭くして、強い口調で言う。
「あら? あなたたち住民が町に入れてくれないから、私の連れが大怪我を負ったのよ? ちゃんとした町の病院で、少しは休ませたいの!」
「いや、しかし……おれの独断じゃあ……」
「なによ! ただで入れろって言ってないわ! ちゃんと必要な分のお金は支払うから」
「お、お嬢。おれは回復したし、別にいいって」
「なに言ってるの! いくら治ったっていったって、怪我した事実は変わらないわ! すぐに旅立てるわけないでしょう!」
彼女は、そう言ってフンと首を横に向けた。
態度こそかたくなだが、言っている内容は連れのダイゴロウを心配してのことだ。
口調も態度もキツいオルディアだが、男性陣二人が、彼女を大切にする理由のひとつがわかった気がする。
ほのぼのとした気分になりつつ、ひるむ男性に声をかけた。
「すみません。そういうことなので、彼女たちもいっしょにお願いできませんか? あの、私たちの連れということで、ひとつ」
「えっ、い、いや、そういうわけには」
流石に、男性は難色を示した。
まあ、もう四人旅ってことは伝わっているはずだし、ねじ込むのは無理か。
ちょっと諦めかけたところで、エリアスたちが追撃した。
「あら? じゃあ、あたしたちいかないわよ」
「そーだぜ。おれらは別に、町に寄んなくたっていいんだしな。サッサと次の町に行くだけさ」
「もちろん、彼女たちもいっしょでいいというならば、町長とやらにも面会させてもらうがのぉ」
三人は、口を揃えてツンと唇を尖らせた。もしや、オルディアの真似だろうか。
しかし、さすがにこれは、ちょっと可哀そうかもしれない。なにせ、この男性はあくまで伝達役だ。
中間管理職の心労――と、私がどうフォローしようか迷っていると、うう、と彼がうめいた。
「わ、わかった、わかったよ! 町長にはおれが言うから……はいはい、みんなついてこい! だが、遅れんなよ!」
と、どこかやけっぱちな口調で言うと、ドスドスと足音荒く家から出ていった。
「その……申し訳ありません、オルディア様が……」
ノルンが、長い髪を何度も揺らしつつ頭を下げてくる。
「いえいえ! 我々も、なんで町長さんに呼ばれてるのかよくわからないんで……でも、その、大丈夫ですか? 町の中、もしかしたら危険かもしれませんけど」
外を伺いつつ、ひそひそとオルディアたちに囁く。
「なにせ、あんな凶悪な魔物が襲ってくるなんて……町の中にももしかしたら魔物がいるんじゃないかって話してたんですよ」
「フン、その時は、まとめて一網打尽にしておしまいよ!」
こちらの忠告にも、オルディアは高らかに笑って一蹴した。
昨日やられたのによく言えるなあ、と逆に感心していると、苦笑したダイゴロウが頭を下げてきた。
「ったく、お嬢ったら……まあ、おれたちも、万全の状態ならちったぁ戦力になる。あんたらもスゲェ強ぇみてぇだし……万が一の時は、昨日の礼に、こっちが盾になるよ」
冗談か、本気かつかない口調で笑い、彼は背中に背負っている大剣の柄を撫でた。
「なにごとも……ないと、いいんですけどねえ」
ドスドスと歩いていく案内の男性の向こう、大きな柵に囲われた町。
なんとなく不穏な気配に、ひとつ、大きくため息をついた。
「いらっしゃい、いらっしゃい! こっち、果物の大安売りだよー!」
「はいはいーい! 魚、魚が安いよ! 買っていかないと損だよ~!」
わいわいわい。
男性に連れられて入った町の中は、活気に満ち溢れていた。
町人たちが元気に声を張り上げる市には、子ども連れの親子や夫婦でにぎわっている。
町というだけはあり、柵の内側はかなり広く、家々も数多く立ち並び、外部を完全にシャットアウトしているとは思えないほど、明るい雰囲気だった。
「えっと……これって、ふつうの町、ですよね……?」
「そうだなあ……まごうことなく、ふつうの元気な町だなあ……」
「ふむぅ……杞憂だったかのぉ」
「そうねぇ……この光景を見る限りじゃねぇ……」
思わず、四人でコソコソとそんなコメントを交わしている間に、後ろから来たオルディアが、声を上げた。
「あ! あれが病院みたいね!」
「……あ? ああ、そうだよ、嬢ちゃん」
案内の男性が、町の中心に位置する白い建物に気づいて頷いた。
なるほど。やはり、ひととおり必要な設備は町中に揃っているのか。納得していると、彼女たち三人はサラリと列から外れた。
「じゃ、あたしたちはここでお別れね」
「ああ、そうですよね。……それじゃあ、後ろのお二人もお気をつけて」
「おお、なにもかも悪かったな。本当に助かったよ」
「いえいえ。それでは、お大事に」
三人は、そろって病院へと向かっていく。
久々の外部客に、町の人がなにか声をかけているが、その表情は明るく、とても襲ってくるような様子はない。
(うーん、やっぱり考えすぎだったかな? でもなぁ)
かたくなに旅人を拒絶していたわりに、町の中は、そういった排斥する動きはいっさいない。




