100話 ~事情~
ただ、それがかえって、不気味さを感じるところでもある。
「……さ、ついたぜ。ここだ、町長の家は」
ぼんやり考えを巡らせている間に、案内の男性が、ひとつの家の前で立ち止まった。
レンガ造りの、がっしりとした家だ。入口には取次役らしい妙齢の女性がひとり立っている。
「町長からの依頼で来た。彼らが、魔物を倒した四人組だ」
「えっ……こ、この……えっと、妙な服を着た女性も……ですか?」
女性が、私を見て明らかにうろたえた。
穴ぼこファッションだけど、今。でも一応、きわどい部分は隠れてるし、裸エプロンよりはマシだし。
私が脳内で言い訳を考えている間に、案内の男性がヤレヤレと首を振った。
「町の外じゃそういう服が流行りなんだろ。今、情報がねぇししゃあねぇって」
「あ……そ、そうですよね。そういうこともありますよね……あ、すみません皆さん。どうぞお入りください」
鎖国状態なのが幸いした、とホッとする。
そこからは女性に案内が変わり、室内へ招かれた。
大きな部屋に通され、四人でソファに着席する。まだ、町長は来ていないようだ。
(魔物を倒した……って言っても、倒したのエリアスさんとヴィルクリフさんなんだよなぁ)
エリアスの件に、魔力を込めたのは間違いない。
しかし、それで魔物を倒したのはエリアスだし、その直前に手助けしたのだってヴィルクリフだ。
あの魔力だって、たぶんちょっと切れ味がよくなった程度。それでこうして招かれるのはちょっと申し訳なさがある。
なんて思いつつ、四人でチラチラとアイコンタクトをしつつ、町長が現れるのを待っている、と。
「おお……きみたちが、魔物を打ち倒したという四人か」
扉からヨロヨロと入ってきたのは、町長というよりも長老、と言った方が正しいのではないかという、かなり老齢の男性だった。
「あなたが……ここの町長さん、ですか?」
「左様。……あなた方……いや、あの集落に集った方々には、ずいぶんと不快な思いをさせてしまっただろう」
ずっ、ずっ、と片足を引きずりながら、男性は目の前のソファに座り込んだ。
年齢にして、七十を超えているだろうか。
白むひげが首まで伸び、垂れた目が人の好さを感じさせる。
(想像してた町長と……違う、なあ)
鎖国的なことをして外部をはじいている町長なら、もっと攻撃的な、意地悪そうな人が現れると思っていたのに。
彼は、片手に携えていた杖をそっとテーブルに立てかけると、おだやかなまなざしでぐるりとこちらを見た。
「なぜ、我が町がこうしたことをしているのか……まず、それからお話させていただこう」
さきほどの女性がお茶を用意したのを見計らって、町長は語り始めた。
「この町が、こうして旅人や商人が訪れるのを制限している理由は、たった一つだ。……十日前、町人が襲われたからだ。旅の商人に、な」
「えっ……旅の商人に、襲われた?」
それは、殺人鬼的な人間だったのだろうか。
私が今の話に考えを巡らせている間に、町長は決定的な言葉を放った。
「いや、正確に言えば、旅の商人に化けた魔物に、な」
「……人に化けた、魔物!?」
思わず、皆と顔を見合わせた。
アスタリカが、チラリと漏らしていた発言と合致する。
「最初はわからなかったのだ。襲われた人間は、血をすっかり抜かれた状態で見つかった。……あまりの殺害方法に、まずは怨恨の線が疑われた」
たんたんと町長が発言するのを、女性が痛ましそうな目で見つめている。
「だが、殺された人間……少女が、前日、旅の商人を案内していたのを目撃した者がおってな。町の調査隊がその者に事情を聞こうとしたところ、本性を現したのだ」
「本性……魔物として、襲ってきた、と?」
「ああ。……調査隊は半分が重傷を負った」
壊滅的な被害だった、と町長はため息をつく。
町の中に魔物が入ってきていたのだ。それは、さぞパニックに陥ったころだろう。
なにも言えずにいると、ふと、テルルが口を開いた。
「すまんが、ひとつ聞いても?」
「……ああ、きみたちには聞く権利がある」
「さきほど、血をすっかり抜かれた状態だと……もしや」
「ああ。……きみたちが昨日、倒した魔物。おそらく、同じ個体であろう」
テルルの問いかけに、町長は深く頷いた。
「あれは、人の血を吸い、化けるようだ。逆に言えば、ある程度人の血を摂取せねば、化けられないらしい。我々は必死にあの魔物を町から追い出し……そして、二度と入ってこられぬよう、旅の者たちを締め出しておったのだ」
「なるほど……それで。でもあの魔物、空を飛んでいましたよね? あの柵で防げたんですか」
「柵に使われている木は、町の魔術士が魔力を込めたものだ。あれだけの数があれば、そうそうに入ってはこられん。……集落の方にもいくつか使っていたのだが、なにせまだ十日。数が足りておらんかったんだな」
「……そういうこと、ですか」
結局、テルルが言っていた”生け贄”というのはあながち間違ってもいなかったようだ。
町の人たちが、それを意識していたかどうかは別として。
(……と、待てよ? コウモリの姿をした、魔物……?)
ふっと脳裏によぎったひとつの記憶。
コウモリ。そんな感じの羽を生やした、人間に似た魔物を以前、見かけなかっただろうか。
確か、そう。エリアスと、初めて出会った時の、戦場で――。
「キミたちがアレを殺してくれたおかげで、ようやく我々も安心できた。心から、礼を伝えたくてな」
町長は、ソファから立ち上がると、深々と頭を下げた。
「本当にありがとう……何度礼を伝えても足りないくらいだ」
「そ、そんな……頭を上げてください、町長さん」
足をガクガクさせつつ礼を言う町長に、慌てて座るように促す。




