101話 ~森の中~
「っていっても、その状況じゃまだ油断できねぇな……そういう風に化ける魔物が、どの程度いるんだか」
「そうだな……我々はまだこの状態を続けるつもりだが、一般の商人や旅人に害が及ぶのはしのびない。集落の方も、魔術の柵を増やしていくつもりだ」
ヴィルクリフの進言に頷いた町長は、人心地ついたのか、お茶をズズッとすすりつつ、
「それで……きみたちは、モルールーから来たんだったか。北に向かうとなると、次は……町までは距離があるな。途中の村に寄ることになるだろう」
「あ……ハイ、そうですね。お休みもしたいですし」
「道中に、ポットルカという村がある。もしそこを尋ねたら、ザングという男を尋ねるといい。変わりなければ、薬屋をやっているはずだ」
「ザングさん……ですか?」
「ああ。この村の町長の紹介といえば、いろいろ融通してくれるだろう。……わしにできる礼と言えば、それくらいしかないからな」
町長は、フッとさびしそうに笑うと、立ち上がった。
「あまり長く留めるのは、旅の邪魔になるだろう。……きみ、彼らを送って差し上げなさい」
そうして、町長からはさらに礼の品々を渡され、そのまま女性に町の市場へ案内されて、別れた。
「……なんか、アレじゃのう。早合点だったのう」
「ええ……アレでしたね。考えすぎでしたね」
送り届けられた町の市場のそばで四人、なんともいえない表情で向かい合った。
『実は町長が魔物!』とか『町中はすでに魔物に占拠されている!』とか考えていた自分たちが、けっこう失礼かつ的外れだったことに、ハア、とため息をつく。
「いや……まあ、とりあえず魔物は倒したし、次の町へ向かいましょうか」
「そうじゃのお。ひと晩休めたし、食料などもたっぷり貰えた。もう、この町でやることも今のところないしのぉ」
テルルも、ポンポンと腹を撫でつつ頷いた。
「そうねぇ。じゃ、北へ進みつつ、ザングって人がいる村を探す?」
「ですねえ。とりあえず、次の目的ができたのはありがたいですし」
人の姿に化ける魔物。
すでに町に入り込んで被害が出ているとなると、他の町や村も危機感を高めているかもしれない。
この町の町長の知古かつ、薬屋だというザングの名前を知っていれば、少しは警戒を緩めてもらえるだろう。
そんなことを考えつつ、同行者のひとりに目を向ける。
先ほどから、なぜだかムッツリと押し黙っている人物に。
「えぇと……ヴィルクリフさん? どうかしましたか」
「あー……いや」
普段であれば、ああだこうだと会話に参加してくるのに、今はやけに静かだ。
テルルとエリアスも疑問に感じているのか、視線がいっきにヴィルクリフに集中した。
彼は「あ~」などと言いつつ、ガリガリと頭を掻いて、口を開いた。
「さっきの町長が……ザング、って言っただろ? その名前、ちょっと聞き覚えがあってな」
「……聞き覚え? 知り合いなの?」
「いや……それが。こう、ハッキリ思い出せないっつーか……で、さっきからずっと考えてたんだが」
両腕を組み、ヴィルクリフはうんうんと唸る。
「なんだろーな……こう、喉に骨が引っ掛かった感じっつーか……たしかに聞き覚えがあるんだが……」
「ふっ、ヴィルクリフ。ボケるにはまだ早いぞ」
「ボケてねぇよ! くーっ、もどかしい!」
ヴィルクリフは頭を両手でガシガシと掻き乱しつつ、だぁっと顔を上げた。
「あー、ダメだ。歩きながら考えるわ。もう次に向かうだろ?」
「ええ、そうですねえ。まあ、もしヴィルクリフさんも知っている方だとしたら、ご協力も仰ぎやすくて助かりますね」
少なくとも、門前払いを食らうことはないはずだ、たぶん。
よし、と気合いを入れて町から出ようとしたところ、ぐぅ、と同行者三人の腹が鳴った。
「コホン。……そうね、とりあえず飯食べてから出ましょうか」
「あーそういや、起きて呼ばれてすぐこっちに来たんだったか」
「ふむ、エネルギー補給は大事じゃな」
照れくさいのか、コソコソ言いつつ歩いて行く三人に、
「ちょっ……! お、置いてかないでくださいって……!」
慌てて、その後ろを追いかけたのだった。
「なんか……その、多くありません? 魔物とやらの、数」
北へ移動する道中の、森の中だ。
幾多の魔物に囲まれつつ、苦笑いで皆に問いかけた。
今回初戦闘となるテルルだが、やはり神鳥というのは伊達ではないらしい。彼曰く神力と呼ばれる力を使い、襲い来る魔物をバッシバッシと光の槍で突き刺していた。
私の仕事は、誰かが傷ついたらすぐ回復。
ほぼほぼ傍観で、戦闘は三人に任せっぱなしだ。
守られるのも申し訳なく、人間爆弾となって魔物に突っ込もうとしたものの、
「ちょっと! それ危ないからやめなさい!」
「つーか、回復役が飛び込んでどうする!」
「いつもわしらが守られてるんじゃから、こういう時くらい任せておけ」
と、意外に紳士な三人にいさめられ、彼らのサポートに回っていた。
改めて見てみると、剣を使う二人であるが、エリアスとヴィルクリフの戦い方はだいぶ違う。
エリアスは、いかにも城の騎士団長然とした、キレイな太刀筋で魔物を屠る。
一方ヴィルクリフは、刀に似た形状の武器を使い、バッシバッシと跳んだり跳ねたりしながら切り伏せていく。
囲まれた魔物たちを三人がそれぞれ退け、ひと段落したところで、冒頭の私のセリフに反応があった。
「たしかに多いわね……今までとは、比べ物にならないくらいに」
額の汗を拭いつつ、エリアスがふぅっと息をついた。
「まあ、弱い相手だから構わねぇが……これだけ多いとなると、一般人は、とても外をウロチョロできねぇな」
ヴィルクリフも、刀についた血液をぬぐい落しつつ、手ごろな石の上に座り込んだ。




