96話 ~終劇、そして~
「あ、あんた、これ……!?」
「す、すいません……! なんか、こう、力を込めたらこうなっちゃってぇ……!」
「……ちょっと、貸して」
エリアスは、金色に輝く剣をおそるおそる握ると、驚いたように目を見開いた。
「これ……特別な魔力を感じるわ」
「と、特別な魔力……?」
「ええ……とにかくこれ、使わせてもらうわね」
エリアスは力強く頷くと、まさに今、ヴィルクリフと激闘をくり広げている魔物へ向けて、スッと切っ先を伸ばした。
「ヴィルクリフ! 下がって!」
「?! っ、了解っ!」
何事か察したヴィルクリフが、刀を抱え、すばやくその場から飛び退った。
瞬間、エリアスが輝く剣を携え、魔物の頭部にむけて、勢いよく切りかかった。
「さっきは、よくもやってくれたわね!!」
宵闇の中、キラリと輝く刀身。
エリアスの体がしなるように宙で躍動して、目にも止まらぬ速さで剣が振り下ろされ――
ザンッ!!
重い斬撃音と共に、ボトッ、と魔物の首が落ちた。
「おおっ! エリアス、やるのぉ!」
子どもたちの避難と子守を終えたテルルが、両手を叩いて走り寄ってきた。
「す、すごい……エリアスさん……!」
あまりにも、あまりにもあっけない魔物の最後だった。
見事な太刀筋だ。
素人目で見ても、まるで映画のワンシーンのような光景だった。
魔物の首が大地に転がり、コウモリの胴体がドテッと宙から落下した。
薄気味悪い紫色の血が、ドクドクと大地に広がっていく。
あれほど恐ろしかった魔物なのに、死してしまえばあっけなかった。
「ハッ、いいところは持ってかれちまったな」
ホッとしたような表情をしつつも、ヴィルクリフが口先だけの皮肉めいた言葉をかける。
「いや……これは、あたしだけの力じゃないわ」
エリアスが、まるで夢見心地のような表情で剣を見下ろしている。
さっきまでのあの黄金の輝きは、すでに消え失せていた。
魔物を切断した後、元通りの剣に戻ったようだ。
「これは……きっと、ハナの」
「いやー!! あんた、スゲェなぁ!」
エリアスが、銀の刀身を見つめてなにか言おうとした途端、わらわらと人が駆け寄ってきた。
いったいなんだ、と思えば、一度集落の外に避難した、商人や子どもたちだ。
「あのバケモンを一刀両断とは! 名のある剣士様かい?」
「え、いや、あたしはそういうんじゃ」
「本当に、本当にありがとうございます! そっちの黒髪の人も!」
「ちょっ……お、オレはなにも」
「ここで一生を終えるのかと……ありがとうございますぅ……!」
エリアスと共に魔物に立ち向かったヴィルクリフも囲まれて、口々に礼を伝えられている。
これはお邪魔虫かも、と察して、スススッとその場を離れると、テルルもいっしょについてきた。
「ふむふむ。二人はよくがんばっておったしのぉ」
「実際すごかったですもんね。ピンチに陥ったエリアスさんを助けたヴィルクリフさんに、剣で魔物の首をとったエリアスさん! ヒーローですよ!」
「うむ。しかし、そこに本来はお主も混ざって褒められるべきではないか?」
テルルが、ジーッと私を見つめてくるが、テヘ、と首を振ってごまかす。
「いえいえ、私はあの二人のように、敵をどうこうしたわけじゃないですし」
「いや、エリアスの剣の魔力はお主の……っと、あちらがどうやら、落ち着いたようじゃな」
テルルが、ふと顔を向けた方向。
ダイゴロウとオルディアの二人、それに皆の避難誘導から解放されたノルンという同行者が、ゆっくりとした足取りで歩いてきた。
怪我は治っているようだが、一応聞きとりはしておいた方がいいかもしれない。
そう思い、テルルと共にそっと近づいた。
「あ、あのー……お体は大丈夫そうですか?」
「なによあんた……あ、あんたは、さっきの!」
男性に寄り添うオルディアが、ハッと目を見開いた。
反面、途中から合流した長身のノルンは、状況がわからないらしく、私と彼女を困ったように見比べていた。
そんな中、男性――ダイゴロウが、ノルンの支えを固辞してスッと目の前にひざまずいた。
「この人は……おれの、命の恩人だ。本当に助かった。ありがとう」
ダイゴロウはしっかりとした口調で言うと、そのまま頭を下げてきた。
「そんな! 顔を上げてください! お礼は受け取りましたから」
年上の男性に、目の前で土下座されるのはあらゆる意味でショックだった。
慌てふためく私の前で、オルディアも彼の体を支える。
「ちょっと、ダイゴロウ! 無理しちゃダメだってば!」
「いや、大丈夫だよ、お嬢。血も止まってるし、怪我はもうどこにもない……この人のおかげでな」
「いえいえ、本当に、ご無事でよかったです」
心底感謝の念を向けられ、たじろぎながら頷いた。
「よかったのぉ。ハナは、回復に関しては天下一品じゃ」
「ちょ、て、テルル」
「難易度の高い回復魔法を……やっぱり、変人ってのは特殊な力を持っているのかしら」
まじまじと服装を上から下まで眺めてから、オルディアはまったく遠慮せずに言った。
あまりの物言いに、ノルンが慌てて彼女の口をおさえる。
「オルディア様。言い方、言い方」
「むぐっ、なによ、間違ってないじゃない。こんなヘンテコな服着てるんだもの、変わり者でしょう!」
「……なんというか。気持ちいいくらい、正直な方ですねえ」
怒りや困惑を通り越して、もはや感心するほどだ。
しみじみとそう応えると、ノルンとダイゴロウの二人が、苦笑交じりに頭を下げてきた。




