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異世界転移したら無敵になったけど、服が拒否されました  作者: 榊シロ


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95話  ~襲来5~

「あ……あんた、前の町で見た、イカれた格好の女……」

「……そ、その節は、どうも」

「な、なんでこんなところに? コウモリの魔物は? あれは全部夢だったのか……??」

「えっと、コウモリの魔物はまだいるし、私の仲間が戦ってますよ。あと、イカれた格好はしたくてしているわけでは」


 混乱している様子の男性に、切々と語り始めようとした時だった。


「え、ダイゴロウが生き返ってる!? ダイゴロウ!!」

「はい? えっちょっぐべっ」

「あ、お、お嬢……!」


 甲高い声がまたたく間に近づいてきたかと思うと、そのまま私を弾き飛ばした。


 ごろんごろんと勢いよく地面を転がり、ある程度進んだところで止まる。

 あっ、この体、人相手には爆発させないんだな、という知見を得た。


「ダイゴロウ……! 死んじゃったかと思ったんだからね……!!」

「すまねえ、お嬢。しくっちまって……」

「ホントよ……! 私を庇うなんて、二十年は早いんだからね……!!」


 完全に彼らの世界に入ってしまっている。

 私は思わず、さっきまで彼女を介抱していたテルルを見た。テルルはヤレヤレと言った表情で両手を上げた後、避難している子どもたちの世話へ向かっていった。


「お嬢……あんたは、おれたちの命なんだ。あんたさえ助かってくれれば、おれたちは……おれは、どうなったって」

「バカ! 大バカよ!! そんなの、私は望んでないんだからぁ!」


 ダイゴロウに飛びついたアンジェラはわんわん泣き出してしまい、収集がつきそうもない。


 というか、名前、ダイゴロウって。この世界にも、日本――というか、和の概念があるんだろうか?


 どうでもいいことを考えつつ、私は彼らから距離を取る。

 ケガは治ったし、コウモリの魔物はエリアスが引き付けている。問題はないはずだ。


「えぇと……それじゃ、失礼しまーす」


 聞こえてはいないだろうが、それだけ言い置いて、慌てて身を翻した。


(エリアスさん……大丈夫かな)


 魔物から、少し目を離してしまった。


 現在の戦況は、と思って見上げると、


「クッ……しぶとい、わね!」


 魔物と切り結ぶ、エリアスの姿があった。


 月光の下、金色の髪がたなびき、エリアスの姿を浮かび上がらせる。銀色の剣を操り、魔物の爪をはじき、かわす彼の姿は、身震いするほど美しかった。


「エリアスさん……!!」


 ハッとわずかの間に見とれた後、全速力で彼らの元へ向かう。


 互いの刃を交わしてはいるものの、それ以上には至っていない。実力が拮抗している、というべきか。


 彼が魔物を引き留めてくれているおかげで、先ほどの男性以外、現状重症者はいないようだ。


 しかし、それだって、いつまで持つかわからない。


「っ……さすがに、体が辛い、わね……っ!」


 何度目ともしれない攻撃をはじいたのち、エリアスが小さくこぼす。


 当然だ。今の時刻は真夜中。本来であればベッドで体力回復をしている最中なのに、途中でたたき起こされてしまったのだから。


 ただでさえ、野宿で過ごした数日間。

 疲労の蓄積した体で、魔物の相手をし続けるのは容易ではない。


「エリアスさん! 私も手伝います!」

「っ、ハナ!? あんた、ロクに戦えないでしょう! 下がってなさい!」

「え、で、でも……!」

「危ないから、早く……っ、あっ!」


 エリアスの意識が、私に向いた瞬間だった。

 魔物の羽の先にある爪が剣を叩き、その武器を空へと弾き飛ばした。


「しまっ……!!」

「エリアスさん!!」


 光景のすべてが、まるでスローモーションだった。


 目を大きく見開いたエリアスが、防御の姿勢をとろうとするも間に合わない。

 彼の脳天に向けて、魔物の光る牙がぐわっとかぶりつき――


「っと!! オレを忘れてもらっちゃあ困るぜ!!」


 ブオンッ、と剣が魔物の顔面を襲い、面食らった魔物は慌てて空へ逃げる。

 コウモリの逆さまの顔から血が滴り、乱入した人物をうらめしそうににらんだ。


「あっ、あんた……」

「……ヴィルクリフさん!」


 乱入してきたのは、黒髪の美丈夫だった。

 冒険者の誰かから借りたのか、見慣れない日本刀に似た剣を持ち、私たちに向けてニヒルに笑いかけてきた。


「ったく、こんなわけわからねぇ魔物相手に、人間ひとりで立ち向かうっつーのは無理があんだろ」


 しゃがみこんだエリアスの肩を叩いたヴィルクリフは、魔物に向けて高々と言った。


「つーわけで、二対一だぜ、バケモン。さあ、かかってきやがれ!」


 グルルゥゥ……


 魔物は、憎々しげにひとつうなりを上げたかと思うと、闘志を切らすことなく、ヴィルクリフに向けて襲いかかる。


 魔物の意識が彼に向かっている間にと、弾かれたエリアスの剣を拾いに走った。


(よし、これをエリアスさんに……!)


 ひざをついて小休止している彼へ剣を渡そうと走りつつ、心の中に、ふと、よどみが浮かぶ。


(……私、さっき。足手まといになってた)


 私がエリアスに話しかけてしまったから、隙ができた。

 あの瞬間、ヴィルクリフが来なかったら、彼は致命傷を負っていたかもしれない。


 自分が自発的に使える力は、回復だけだ。

 重要な役割ではあるし、それで救えた命もある。


 しかし、戦闘面だけ彼らに頼って、後ろでただ見ているだけ。それで、本当にいいのだろうか。


(私が、武器を操れたら……魔法を、もっとうまく扱えていたら……)


 テルルに言われたはずだ。


 魔法とは想像力だ、と。


 ならば、想像さえできればいいはずだ。


 力を。とにかく力を。あの魔物を屠れるくらいの、力を――!


「ハナ、ちょっと、なにしてるの!?」

「……エリアスさん? あれ、私……」


 すぐそばで聞こえた、彼の慌て声。

 無意識のうちにつぶっていた目を開くと、そこには。


「わあ……!?」


 両手で握りしめていた、エリアスの剣。

 それが、まばゆい光を放っている。


 剣の周りに細かい金色の粒子が瞬き、キラキラとふしぎに光っている。

 剣を覆うように明滅し、ここだけ真夜中じゃないかのようだ。

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