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異世界転移したら無敵になったけど、服が拒否されました  作者: 榊シロ


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85話  ~火事の後4~

「ああ。……ハナ、キミには謝罪だけでは足りんな。何度礼を言っても足りぬくらいだ」

「え、えへ……い、いいえ、お役に立ててよかったです……?」


 思わぬ賛辞にドギマギするも、その後アスタリカから衝撃の言葉が投げられた。


「私はキミを疑っていた。……魔物ではないかと」

「へっ!?」


 魔物。まさか、人とすら思われていないとは。


 衝撃で固まる私をよそに、テルペロンが鋭いまなざしをアスタリカに向けた。


「魔物が……人に化ける、と?」

「ああ。最近、魔物が人に成り代わる……という事例が起きていると耳に入っていたんだ。そのせいで、壊滅した村がある、と」

「魔物が、人に成り代わる……」


 脳裏に、この場所に飛ばされる前に見た村のことが思い出される。


 壊滅した村。

 あれはまさか、人に化けた魔物に滅ぼされた村――?


「だから……テルーリカも。私の執事もそうではないかと思ったんだが……アレは、違うな」


 彼女は遠い目をしながら、ひとり言のように呟いた。


「あいつは……本物だった。間違いなく。私が独立した頃に引き抜いた執事で……長年、そばにいてくれた。身のこなしも、言葉も、間違えようがない。特に最後の声と表情、あれはとても……魔物のする顔じゃなかった。だからあいつは、人間のまま……私を裏切ったんだ」

「……アスタリカさん」


 たんたんと語るアスタリカの目は細められ、握りしめられたこぶしは固かった。


「あいつは……一年前、妻子を揃ってはやり病で亡くし、今は天涯孤独となっていた。なにも失うものがなかったんだろう。ただ、せめて……なぜ裏切ったのか、理由だけは知りたかったが……」


 ゆるゆると首を振り、アスタリカは続けた。


「いや、すまない。うちの事情をつらつら聞かせて申し訳なかった。……きみたちは、そんな事情に巻き込まれた被害者なんだから。……そうだ、エリアス。お前は実家に行くと言っていたか」


 話題を無理やり変えて、彼女は不自然なほど明るい声を上げた。


「この町からであれば、何か所か町を経由していけばたどり着く。地図を渡しておこう」


 アスタリカは、小脇に抱えていた丸められた地図を、エリアスへと手渡した。


「まあ、お前も幼い頃、母上と父上に連れ回されていた辺りだ。地図などなくともわかるだろうが」

「いえ、助かるわ。ありがとう、アスタリカ姉様」


 エリアスは、筒状に丸まった地図をそっと撫でて、どこか居心地悪そうに肩をすくめた。


「あまり長居をすると迷惑かけちゃうし、必要なものを買ったらここを出るつもりよ。家が焼けてしまって、姉様も忙しいでしょうし」

「ハハ……まあな。しかし、町民の近くで暮らすというのもいいものだ。息子も、友人たちの近くで過ごせるのを楽しみにしているし、な」


 アスタリカは、ようやく気さくな笑みを浮かべた。


 不審者&弟たちの襲来、それに屋敷の火災。

 その上、自身の大火傷と腹心の部下の反逆、そして自殺。


 ここ数日で彼女に襲いかかった心労は、計り知れない。

 原因の一端を担ってしまった自分たちは、サッサとお暇するのが吉だろう。


 アイコンタクトをヴィルクリフとテルペロンへ向けると、彼らも大きく頷いた。


「じゃ、お別れも終わったみたいだし……オレらは町へ行くぞ」

「そうじゃの。食料品や旅荷物を買っておかねば」

「あー……そういえば、野宿用の品物無いですもんね」


 と、立ち上がったところ、


「そうか、行くのか……じゃあ、これを」


 アスタリカは寂しげにほほ笑み、手のひらサイズほどの小袋を差し出してきた。

 

「姉様……これは?」


 エリアスが、困惑の表情で袋と彼女を見比べる。


 これ、受け取っていいんだろうか。

 迷う私たちの前で、彼女はあっけらかんと言った。


「なに、金だよ」

「えっ……か、金? お金ですか?」

「詫び金だ。旅の資金に役立てるといい」


 アスタリカは、そのままエリアスに向けて、その袋をポンと放った。


 彼が反射的に袋を受け止め――ようとして、ガクッと一瞬姿勢を崩した。


「お、重ッ……!! ちょ、これ、いくら入ってるの!?」

「なに、彼女に命を救ってもらった礼も入っている。安いくらいだよ、それでも、な」


 アスタリカは、スッと視線をこちらへ向けた。


 皆の視線が、自然と自分に集中する。

 四人のまなざしを受け、ものすごい気まずさを感じた。


「え、いや、そんな……そ、その、身に余る光栄、です……?」


 どう謙遜すればいいかわからず、わけのわからない言葉を発する自分に、アスタリカはケラケラと笑った。


「確かなのは、息子と私が救われた、という事実だ。屋敷こそ燃えてしまったが……そんなもの、今後の働きでどうとでもなる」


 彼女の、鋭くも優しさを秘めた瞳が、窓の外、町並みへと向いた。


「中央と、父様の収める町の境であるこの辺りは、人の行き来は多いが平和だった……しかし、ここ最近、妙な報告も多い。くれぐれも……気をつけろ」


 そう言って、再びこちらを見て、彼女は深々と頭を下げた。


「くり返しになるが、命を助けてもらったこと、感謝する。……なにかあったら、私はキミたちの助けに向かう」


 と。





「さーて、必要なモンはこんなとこか」


 町の出口にて。

 ヴィルクリフが、ぐるりと肩を回した。


「しっかし、その……テルペロン鳥? 様は、スゲェ能力持ってるんだなぁ。さすが神様」


 彼が、感心したようにテルペロンを誉めそやす。


 というのも、アスタリカにもらった金銭を使い、食料品やら旅用品やらを買い込んだ後、それをすべてテルペロンが収納したからだ。


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