84話 ~火事の後3~
「あたしはすでに、家族が城から追い出された時、隊長を続けるって大見栄を切ってるのよ。家に戻っても、のうのうと手伝いを……なんてとても言えないわ。ちょっと休んだら、どこかで仕事を探そうとは思ってたのよ」
「そ、そうだったんですか……いえでも、その、私と一緒だとご迷惑が」
「なに言ってるのよ、今更じゃない。それに、迷惑ならあたしの方がよっぽどかけてるわ」
エリアスは、パチン、と軽やかに赤い瞳でウインクすると、柔らかい声で言った。
「だから……ご同行させてもらおうかと思ってるの。もちろん、足手まといじゃなきゃ、ね」
「そんな! 足手まといはむしろ、この私の方で……ハハ……」
現状、ろくに使えるのは回復魔法のみ。
その上、着用できる衣類がそろいもそろってヤバイものばかり。
さらに、厄介ごとを引き寄せている恐れ有り。
自分で考えていて悲しくなってきたので、それ以上振り返るのはやめる。
首を軽く振った後、二人に向かって大きく頷いた。
「ありがとうございます! とっても心強いです」
「いいえ、こちらこそよ」
「あー……あとよ。そっちの隅で黙ってるヤツはいいのか?」
「えっ?」
ヴィルクリフが、顎で示したテーブルの隅。
無言のまま、イスの上で体育すわりをした白い子ども――否、テルペロンの姿があった。
「あっ……テルペロン様……」
「いいのぉ……皆、友情をはぐくんでおって……」
ぼそぼそと漏れ聞こえるのは、恨み節だ。
確かに、完全に蚊帳の外にしてしまっていた。
「ほ、放っておいてすいません……! テルペロン様は、きっと同行してくれるものだと思っていたので……!」
「ほー……? じゃ、わしが同行しないって言っていたらどうしてたんじゃ」
「えっ……だって、テルペロン様、私から離れたらその、ヤバいんじゃ……」
「弱みを握っておるから安心、と? なかなか、悪役のような考え方をしておるのぉ」
「うぅっ、き、機嫌直してくださいよー……」
トントン、と俯くテルペロン様の背中を叩いていると、やりとりを見ていた二人から、疑問の声があった。
「そういやぁ……お前、ソイツのこと、ふつうにテルペロンって呼んでるけど、まさかあの鳥なのか?」
「この場に、見慣れない子どもがいて不思議だったけど……テルペロン鳥様って、人型になれるの!?」
「あ、そっか……二人は、テルペロン様のこの姿を見るの、初めてでしたっけ」
不思議そうな視線をテルペロンに向ける二人に対し、拗ねる彼の肩を叩いて振り向かせた。
「神鳥テルペロン様の、人をかたどった姿です。滅多に見られないそうなので、激レアですよ」
「人の姿を取るというのは、力が減っている証拠じゃ。あまり誇ることではない」
「もーっ、かっこいい見た目だからイイじゃないですか」
うだうだ文句を垂れるテルペロンの背中を揉んでいると、眼前の二人もウンウンと頷いた。
「まさか……テルペロン様の人の姿が見られるなんて! さすが、うちの地方で伝説と呼ばれるだけはありますよ」
「そうだな、見た目若いのに威厳がスゲェよ、うん」
「……伝説……威厳……」
エリアスとヴィルクリフに褒められて、テルペロンはビクッと肩を揺らした。
「そ、そうですよ! テルペロン様、長く生きてるんでしょう? 私たちのことなんて、歯牙にもかけない余裕をお持ちですもんね!」
続いて私もおだてると、彼は一瞬視線を床に向けた後、フンッと小さく鼻を鳴らした。
「……そう簡単に、ノせられるものか。しかし、まぁ、お主らの必死のご機嫌取りに免じて、拗ねるのはこれくらいにしておこうかの」
「あ、あははは……」
テルペロンはゆるゆるとため息をついて、体育座りにしていた足をスッとほどいた。
「話を聞いていたが、お主ら二人とも、このハナと共に旅をする、ということでいいんじゃな?」
「まあ……他に行き先もねぇしな」
「ええ。一度、うちの実家に寄りたいとは思うけど」
「ふむ。わしも、コイツの傍でしばらく魔力をもらわねばならん。つまり、四人旅になるということじゃな。よろしく頼む」
そうして、改まっての顔合わせが終わり、そっと息をついた。
(拒絶されるかも……って、思ってたけど)
異世界からやってきた、などと抜かす女だ。
いくら、彼らを手助けしたとはいえ、身の上話を聞いて、しかもそれがアレほど荒唐無稽であれば――正直、受け入れてくれる可能性は、半分以下と思っていた。
優しい人たちだ。
それは、ここに来る道中ですでにわかっていたことでもある。
それでも、改めて――嬉しい。
三人が、ああだこうだ、と今後の予定を話しているのを、なんとなくニコニコしつつ眺めていると、
コンコンコン
部屋のドアがノックされ、向こうからくぐもった声がした。
「……私だ。アスタリカだが」
「あっ……す、すぐ開けます!」
借りている特別室の持ち主の声だ。
慌てて立ち上がり、ドアを開けに行く。
「ああ、ハナか。話は終わったのか」
「は、はい。一通り……」
こちらの返答に頷くと、アスタリカは部屋の中にゆったりと入ってきた。
そして、エリアスとヴィルクリフに視線を向けると、
「ヴィルクリフくん、そして、エリアス。この度は、うちの火事に巻き込んですまなかった」
二人を前にして、深々と頭を下げた。
「ちょっ……あ、頭を上げて、姉さん!」
「そ、そうだよ。そもそも、地下に炎は来てなかったし」
突然謝られた二人は、あわあわと立ち上がった。
「いや。保護しようとしたのに、かえって危険な目に遭わせてしまった。このハナが来てくれなければどうなっていたか……」
「……え、ほ、保護ですか?」
気にかかった部分を尋ねると、アスタリカは顔を上げた後、しっかりと頷いた。




