78話 ~放火魔~
「オイ。……オイ」
「いやー、あはは……あ、エリアスさん。アスタリカさんには、ちゃんと後で謝っておくので」
「まあ……緊急事態だし仕方ないでしょ……うん」
決定的瞬間を見た二人の呆れた視線を浴びつつ、開いたドアの向こうへと目を向ける。
「えーっと、ここにもなにもな……アレ?」
他の部屋と同様、からっぽの空き部屋。
そう思った視界の端っこに、チラリとなにかが飛び込んでくる。
一歩中に入って、視界の隅にあったそれを正面から見据えた。
キラキラと七色の光を発する、その四角いかたまりを。
「……うーん……なんか……家宝的な何か……??」
宝箱だった。
それはもう、宝箱といえばこんな感じだろう、と思い浮かべる一般人の想像にだいたい合致するであろう、典型的な宝箱であった。
「え……エリアスさん! なんかすごいモン見つけちゃったんですけど!?」
「すごいモンっていったい……って、うわ」
慌ててエリアスを呼び出せば、彼も例の箱を見つけて、ギョッと身をのけぞらせた。
「これはまた、あからさまに怪しいモノを見つけたわね……」
「アスタリカさんに確認せず、開けない方がいいですよね……?」
二人してうーんと悩んでいると、ヴィルクリフも後から入ってきた。
「いやいや、上、火事になってんだろ? なら、逆に身内のエリアスが持ってってやった方がいいんじゃねぇか?」
「……うーん、それも一理ありますね」
「そうねぇ。中身が重要そうなモノなら……というか、その箱に入ってる時点で明らかに重要ね……」
「よし、じゃあ開けてみようぜ」
私たちがまごまごしている間に、思い切りのいいヴィルクリフが、ガッと宝箱のフタを開けた。
「お……おお?」
中に入っていたのは、数冊の紙の束だった。
紙は古びていて、あちこちに染みや汚れが見て取れる。わずかに、古紙独特の香りがした。
「紙か……なんか重要そうだな。ほらよ」
ヴィルクリフが束を一瞥した後、ポイッ、とエリアスに放り投げる。
「ちょ、もう……ってこれ、勇者文字じゃない」
紙をパラパラとめくったエリアスが、聞きなれない言葉を発した。
「ゆ、勇者文字……ですか?」
「ああ、ハナは覚えてないのよね。これ、昔大魔王を倒したっていう選ばれ詩者たちが使っていたっていう特別な文字なのよ。だから、この世界では普及していない、特殊な文字なの」
「あー、それマジで存在すんのか。なんつーか、伝説とか空想上の話だと思ってたわ」
選ばれし者たちが使っていた文字。
ごくり、と喉がなる。
(それ……もしかして、日本語なんじゃ……?)
いや、しかし。この世界の言語は、私にとって日本語として認識されている。
たまにカタカナ語を使うと、エリアスたちに不思議がられることはあるものの、基本言葉は通じるし、看板などには漢字だって使われているのだ。
「えっと……ちょっと見せてもらっても……?」
「ごめんなさいね、ハナ。勇者文字だし、読めないにしても姉上に許可とらないと。たぶんけっこうな機密情報だから」
「あっそうですよね」
パッと両手を上げて、申し訳なさそうなエリアスから離れる。
あんな宝箱に入っていたのだ。きっと、バルシュミーデ家の重大情報なのだろう。
「紙だし、燃えないように気をつけろよ。……他の部屋にもなんもなかったし、上行くか」
逃げ遅れの人がいないかの確認は終わった。
後は、何事もなくこの屋敷を出るのみだ。
「よし。じゃ、さっそく行きましょう!」
カギを片手に、先陣をきって階段を上っていく。
もう少しで、地下から脱出だ。
「っと、よし! 1階に出ました……よ……」
と、ひょこりと頭を頭上に出した瞬間だった。
「いたぞ!! 放火犯だ!!」
「……ええーっ……」
特殊な服装に身を包んだ人たちにガバッと囲まれて、哀れっぽい声が出たのだった。
「えぇと……ですから、ワタクシは地下の二人を助けようとして、地下へ入ったわけでして……」
「助けようと? とどめを刺そうとした、の間違いだろう!」
場所は、プスプスと焼け焦げた臭いを漂わせるアスタリカの屋敷前。広場のようになっている広い式だ。
屋敷の火事を確認しにきた野次馬たちの真ん中に正座をした状態で、ひとり、私はつめ寄られていた。
「そんなわけわからん変態服を着ていて、助けるだと!? キサマが火傷を負っていない時点で、これ以上もなく怪しいわ!!」
「いやっこれはちょっとした手違いっていうか……や、火傷はそういう体質ってだけで……っ!」
おそらく、この世界の警察だか消防にあたるであろう特殊な服装をした人間が、ザッと見て20人。
彼らが私を犯人と決めてかかってアレコレ言ってくるのだから、どう話しても言い訳のようにしか聞こえないだろう。
頼みのエリアスとヴィルクリフは、地下から出てすぐ、治療の為に連れいてかれてしまった。
どうやら、火事の犯人に殺されそうになった被害者、という扱いのようだ。
必死に弁明しようとしてくれたものの、数の暴力であっという間に連行されてしまい、今この場には私しかいない、というわけだった。
(うーん、不利な条件が揃いすぎている……)
この町の住人ではなく、来たばかりの旅人。
なんかすごい変な服着てる変態。
関係者でもないのに火事の現場に突入している。
怪しさでスリーアウト、といったところだろうか。
「貴様……アスタリカ様を殺したんだろう!!」
集団の後ろから、ズイッと進み出てきたのは、執事服の男性。
前日、アスタリカから、と言って申し訳なさそうに金銭を渡してくれた、あの使用人だった。




