77話 ~地下へ~
「え、エリアスさん!? だ、大丈夫ですか!?」
「こ、声が大きいわ……って、あれ? ハナ?」
こちらを見るエリアスの顔色は、わずかに白っぽく血の気が少ないものの、意識はハッキリしているようだった。
「よかったぁ……! しばらく、意識失ってたんですよ……!!」
「しばらく……? あ、ああ、水晶玉が光って……って、ええ? ここは?」
ようやく状況がつかめてきたエリアスが、キョロキョロと周囲を見回している。
つられて周りを見て、まだ杖が宙に漂っているのを発見した。
「あ、杖……!」
取ろうと手を伸ばすも、杖はスゥーっとスライドし、ヴィルクリフの頭上に移動する。
まさか、と見守る前で、再びペチンッ、と今度はヴィルクリフのおでこをひっぱたいた。
「……い、痛ッてぇ!!」
ヴィルクリフはバネのように勢いよく起き上がり、額をおさえた。
「なんっなんだよ……っ、あれ? ここは」
「ヴィルクリフさん! 目が覚めましたか!」
「あ……? ああ、ハナか……ん?」
目を開いた彼は、そのままこちらを見て固まった。
「……え、あれ? ヴィルクリフさーん?」
ヴィルクリフの前に、手をひらひらさせてみる。もしかして、なにか副作用でも――? と懸念した私の前で、彼はプルプルと小刻みに体を揺らし、そして、
「……ぶふぉっ!」
ごふっ、と咳き込むように噴き出した。
「お、おい……ハナ! お前いったい、なんちゅー服になってんだよ!!」
「えっ……!? あっ!!」
指摘され、ハッとする。
そうだ、せっかくの貰い物のローブは爆破され、今はボロきれ状態なんだった。
「ちょっと……あたしも思ったけど言わなかったのに……!」
当然ながらエリアスも気づいていたようだ。
さすがに、これで人前をウロつくのはマズイ。超マズイ。
ヴィルクリフを引っぱたいた後、気が澄んだのかベッドの上にポトリと落ちた杖を拾い、目の前で念じる。
(ま、まともな服……グランチェスタさんからもらったような、無地のシンプルローブに……!)
先日テルルに教わった通り、想像する。
シンプルな黒の、無地のローブを――!
パアッ
白い光が体を包み、布がふわりと形を変えた。
「なんで?」
体を見下ろし、呆然とつぶやく。
確かに、さっきまでのボロ布きわど状態は脱した。
脱したが、ファッションとしては異様だった。
「あんたそれ……なに? 穴ぼこファッション……?」
「まあさっきよりはマシだけどよぉ……」
目の前の二人もドン引いている。
どうやら、服装を魔法で作り出したことより、そののちの服装の方が衝撃的だったようだ。
今まとっている服は、エリアスの言った通り穴ぼこ――というか、服のあちこちが切り取られたようなデザインだった。
無論、ヤバい部分はちゃんと隠してくれているものの、前衛的すぎて目を逸らさざるを得ない感じだ。
某奇妙な冒険の五作目に出てくる、暗殺チームのメロンさんのような服、と言えばわかりやすいだろうか。
簡単に言うと、変態ファッションである。
「まぁそれはいいとして……ハナ、ここはどこ? あたしたち、なんでベッドに寝かされてるの?」
「あっ……ああ、ここ、アスタリカさん……えっと、エリアスさんのお姉さんのお屋敷です。モルールーの町……でしたっけ? そちらの近くにティアラで飛んだみたいで」
「姉上の……!? え、じゃあ姉上もここに……!?」
「えっと、実は今、このお屋敷火事が起きていまして……ちょうど避難しているところで」
と、混乱しきりのエリアスとヴィルクリフに、あらかたの事情説明を始めた。
「はあ……まあ、運が良かったっつーことか? まさかお前の姉ちゃん家だとは」
「まったくね……でも、火事なんでしょう? 今はまだ平気だけど……地下だし、崩れる危険があるんじゃ」
「そうですね。アスタリカさんたちももう外に出たはずです。私たちも、早く外へ……!」
まだ戸惑っている二人をなだめつつ、部屋を出る。
そして、目の前の階段を見上げた段階で、ふと、
(ここ……8部屋もあるけど、他の部屋に人がいたり……?)
そんな考えに至り、足が止まった。
「おい、なにしてんだよ、ハナ」
「いえ、その。もしかして他に残された人がいるんじゃないか、と」
まだ扉の閉じられたままの七つの扉に視線を向ける。
あまりにも厚いドアは、まったく中の様子がわからない。
「他に……? そうね、確かにそうだわ」
先に階段を上り始めたエリアスも、足を止めて戻ってきた。
「あっ、お二人は早く上へ! 私が確認していきますので」
「はあ!? お前を見捨てていけっつーのか!?」
あわあわと二人を戻るように急かすも、逆にヴィルクリフに怒られてしまう。
「えっと私、炎耐性もあるみたいなんで……実際、ここにくるまで屋敷の中を通ってきましたけど、いくら消えかけとはいえ、火傷のひとつも負ってませんし」
「だからって、あんたひとりで残すわけないでしょう。ただでさえ、今まで寝ててロクに役立ててないんだから」
「ったく、悔しいが、エリアスの言う通りだな。……この扉をチェックすりゃいいんだろ? 三人で見てけばあっという間だろ」
「お二人とも……すいません」
「謝ってるヒマあったら、さっさと中をチェックするぞ!」
バタバタバタッと二人は散って、残る部屋のドアを開けている。
早い。実行力があり過ぎる。
遅れてなるものか、と、近い部屋のドアを開けていく。
(ここは……ただの空き部屋かな)
パタン、パタン、と二つほど開けたところ、どちらも使われている様子のないからっぽな部屋だった。
振り返って二人を確認すれば、向こうが開けた部屋も同様だったのか、こっちをみて首を横に振っている。
(さぁ、ここがラストだ)
一番奥の左側。なぜか、他の扉に比べると年季が入っているノブをゆっくりと押し開ける。
「あっやべっ」
ゴトンッ
よほど摩耗していたのか、ノブごと取っ手が取れてしまった。




