64話 ~杖の店~
「えぇと……あっ、ここだ!」
あの後、どんよりと落ち込みつつも、ウロウロと町中を歩き回って、ようやく、目的の魔道具専門店へとたどり着いた。
正直、町中を歩いていたらひたすらに目立った。めっちゃヒソヒソされた。ただ、通報されなかったから、もう、ヨシとするしかなかった。
「なんとか、杖と……あれば、魔法のローブ的なものを買って……世も末な服をどうにかしたい……」
『気にしておるのぉ』
「そりゃあ、するでしょう!」
まあ、彼女の言うことはもっともなのだ。
こんなド派手なローブ、町の中ですら目を引くのだから、例えば魔物がはびこる森とか山では、狙ってくださいと言わんばかりだろう。
いくら無効化できるとはいえ、わざわざ標的になりにいくドMプレイをしたくはない。
だから、着替えた方がいい、というのは善意だろう。
ただ、どんなに的を射た正論であっても、直接言われるとへこむ、というだけで。
「し、失礼しまーす……」
杖専門店の門構えは、一見さんお断り、と言わんばかりの重厚さだ。
いかにも高級店、な雰囲気にビビりつつ、大きな黒い扉を押し開ける。
「お、おお……」
ドアの向こうは、薄暗かった。
魔法使いの居城、と言われて想像するようなほの暗い空間に、ぼんやりとロウソクの光があちこちに灯っている。
敷かれている絨毯はビロードで、裸足の足がふかっと沈んだ。
見渡す限り、店員さんの姿は見えない。
このまま進んでいいのかな、なんて思いつつ足を踏み入れると、パタン、と自動でドアが閉まった。
「いらっしゃいませ。どうぞ、ごゆるりと」
「うわっビックリした!」
耳元でフッと声がした、と思えば、ドアの横のベルから、女性の声が発せられている。
元の世界の、スピーカーのようなものだろうか。さすが魔法の杖の専門店、と感心しつつ、そーっと足を進めていく。
なかの暗さに慣れてくると、店内の異様さがより露わになった。
本屋のようにズラリと並列にならんだ陳列棚は、天井に届くほど大きなものばかりだ。
そして、そのどれもにミッチリと杖やら謎のアイテムやらが詰め込まれていて、素人ではとても判別がつかない。
「わー……すごーい……」
『ふむ……たしかに……これほどの種類とは……』
「どこから見ればいいんですかねぇ……って、あれ? 人の声……?」
当然なら、他にも客はいるようだ。
あまりの品数の多さに圧倒されつつ、ゆっくりと通路を進んでいく。
店はかなり奥まであるようで、よくよく見ると棚の上に注意書きがあり、魔法特性や使用用途ごとに分かれて陳列されているようだった。
「め、目立たないようにそーっと行こう……」
暗い室内で、ローブはこれまた異様に光り輝いているが、逆に輝きすぎてそういう飾りに見えなくもない。
なにも気にしていませんよ、という風にスススッと、目当ての初心者用の杖コーナーを探していく。
ある程度進むと、さっきの声がより大きく聞こえてきた。
「それで……どんなのがいいんだ?」
「やっぱり、可愛らしいモノがいいわね。飾りがついてたら最高かしら」
「ふーん……じゃあ、この辺か?」
ワイワイと、楽しそうに話す声に、ん? と首をかしげる。
「なんか、聞き覚えがあるような……」
『……む。さっきの三人組ではないか?』
「ゲッ」
とっさに棚の資格に身を隠し、ソローッとスキマから声のする方をのぞく。
テルペロン鳥の言う通り、棚の向こうには、自分のローブに忠告をしてきた例の三人組がいた。
どうやら、ツインテールの少女の杖を選んでいるらしく、彼女を囲んでいろいろ話し合っているようだった。
「あの子たちのところ……丁度、初心者用のコーナーみたいだけど……」
『まぁ、少し待つしかあるまい』
「ですねぇ……違うところでも見てるかあ」
さすがに、ズカズカと彼らの中に入って行く勇気はなかった。
先に、魔法の衣類コーナーでも探すか、とその場を離れようとすると、
「店長……この子……オルディア様の魔力測定……お願いしたいんですが……」
と、今までずーっと無口だった男性が、ふと声を上げた。
しかし、周囲に店員らしき姿はない。
なんだろう、あれ、と思わず視線を向けると、彼らのそばのロウソクがユラリと揺らめいた。
『はい、魔力測定ですね』
入店したときと同じ声が、揺れるロウソクの方からしたかと思えば、
「……お待たせいたしました。魔力測定を行いますね」
と、うす暗い闇の中から、三角帽子がニョッキリと現れた。
今まで、誰もいなかった空間なのに。
ギョッとして目をみはる目の前で、丸メガネをかけた三つ編みロングヘアーの女性が、無表情のまま三人の前に姿を現した。
顔はやけに白く、黒いローブと黒い髪、そして黒い帽子で、まるで顔だけが闇の中に浮かんでいるかのように見える。
(う……ちょっと、不気味……めっちゃ美人だけど……)
ホラーの演出のようないで立ちにひるんでいると、神鳥がふむ、と頷いた。
『ほお、魔力測定か……あの手にもっている水晶を使うんじゃろうか』
「水晶? ……あ、ほんとだ」
店長の女性は、ローブのスキマから透明な水晶玉を取り出した。
まさに占いで使うような、いかにもな水晶だ。
魔力測定っていうと定番だよなぁ、と頷きつつ、彼女たちの様子を見守る。
「力を抜いて楽にやるんだよ」
「……オルディア様、がんばれ……」
「うっ、わ、わかってるわ……!」
少女はツインテールを揺らしつつ、そーっと、壊れ物に触れるかのように、水晶に触れた。
すると、水晶の真ん中から湧き出すように赤い光が放たれ、暗い店内をふわっと明るく照らし出した。
「なるほど……なかなかの魔力量ですね」
店主の女性が、メガネの奥の瞳をらんらんと光らせた。
「そ、そうでしょう!? パパとママは……認めてくれなかったけど。名門だもの……当たり前、よね」
少女は表情を輝かせた後、シュン、と眉を下げて両手を握った。
「お嬢、おれたちはあんたがすごいってことをわかってる。炎属性だろ? すごいじゃねぇか」
「うん……赤、キレイ、だった……」
おつきの二人が、彼女の肩をポンポンとたたく。
どうやら、彼らにもなにか複雑な事情があるようだ。




