63話 ~三人組~
「…………」
『…………』
「……あの」
『なんじゃ? ハナ』
「……めっちゃ……視線、感じるんですけど……」
町中、市場にて。
例のローブをひっかぶり、神鳥を肩にのせて、朝の市場へとやってきていた。
『モルールーの町市場』と大きな暖簾が下げられた区域の下で、大勢の人がひしめいている。
かなり早い時間だというのに、あちこちからひっきりなしに呼び込みや掛け声が聞こえてきて、非常ににぎやかだ。
人が多いということは、紛れやすいということでもある。
これなら、あんまり目立たないだろう。そう内心胸を撫でおろしつつ、ひしめく人たちの合間を縫ってやってきたのが、ついさっきだ。
そして、自分が物珍しく周囲を見回しながら歩いていると、なぜだか、周りの人たちがスッと避けるのだ。
最初は、気のせいだと思った。次は、邪魔にならないように避けてくれてるのかな? と思った。
しかし、それが五回、十回、と続いていくと、あれ? と思いだした。
徐々に、視線を出店から周りの人たちへ向けると、歩く人たちが、けげんな視線をこちらへ向けていたのだ。
(……絶対、絶対この服のせいじゃん……!!)
キラキラ、程度ならよかった。
ギラギラ、というか、ピカピカ、なのである。
夜であっても、LED照明かくや、という明るさだったというのに、朝の陽ざしを浴びて、反射する光も半端ない。
不審人物感満載。目立ちたがり屋感バリバリなのだ。
服を作りなおせばいい、と言う人もいるだろう。
やったのだ、すでに何度か。
布屋で布を買ったりして、何度も。
でも、出来上がったうちで一番マシだったのがコレだった。
十回チャレンジして、十回目になぜかレオタードが出来上がった時点でいったん諦めた。
現状、このローブでひとまず過ごすしかない、と。
「ど、堂々としてれば大丈夫だろう、って言ってましたよねぇ……!?」
『うむ。じゃがまぁ、その服なら、堂々としていればなおさら目立つのぉ』
「ちょっと、他人事みたいに……!?」
『どうどう。ここでわしと言い争っておるともっと注目を浴びるぞ。体を縮めて、コッソリ回った方がよさそうじゃな』
「うううっ、確かに」
まったくもって、神鳥の言う通りだ。
ひざを中腰にして、さも無害ですよ感を出してスススッと明るい方へ移動する。
日が高くなってくると、発光も少しはまぎれて、人の視線もやや薄らいでいった。
「うーん……しかし、どうしますかね。私、食事も睡眠もいらないんで、特に買うものもないんですよね」
『ふつうの服も着られんのだしなぁ』
「ぐっ……あ、武器でも買おうかな?」
『武器か……剣や槍が使えるのか?』
「小学生のときに、二年くらい剣道やってました」
『しょうがく……?? 剣、というと、お主剣士だったのか? しかし、二年となると……短いのぉ』
「あっ、小学生が通じないんだった……まぁ、素人レベルですね。少なくとも、実践で使いこなせるレベルじゃないです。でも、魔物とか出てきたとき、素手ってわけにもいかないし……魔法がロクに使えない身だと、なおさら」
後でヴィルクリフと合流したいとは思っているものの、任せきりというわけにもいかない。
私も、戦える準備をしなくては。
『確かにのぉ……しかし、ならば魔法を使う手助けをしてくれる、杖の方がいいんじゃないか?』
「……杖!! そっか、そういうものもあったか……!」
確かに、今まではロクに魔力を扱えていない。
神鳥の言う通り杖があれば、マトモに魔法を使う、手助けとなるんじゃないだろうか。
「ちなみに……杖って、どういうトコで売ってるんですかね」
『町の大きさにもよるが……武器屋、もしくは専用の杖屋ではないか?』
「うーん……ここには売ってないっぽいですねぇ」
朝市で販売しているのは、ほぼ食料品だ。
あとは衣類だが、見たところ、一般市民が着用するような服くらいしかない。
「……いや、これはチャンス! ここに人がいっぱい集まっている間に、空いている店で品物を物色することが可能……!!」
『注目を浴びずにすむ、という意味ではたしかにいいかもしれんのぉ』
「そうと決まれば、町の地図! 地図はいずこに……!?」
再び、キョロキョロと周囲を見回すと、市をやっている広場の入口に、大きな木製の地図看板があった。
「アレだ! よし、確認……っ!!」
入口から進んでくる人波に逆らうように進み、地図看板の前にすべりこんだ。
「っと……えーっと、武器屋、武器屋は、と……」
「……ん? なに、アナタ」
「へっ?」
地図看板を見上げ、武器、もしくは杖の店、と眺めていると、となりから不審な声が上がった。
「あっごめんなさい、お邪魔でしたか」
見にくかったか、とススッと横に移動しつつ、軽く頭を下げる。
しかし、降ってきたのは容赦のない言葉だった。
「この町、そんな変な服が流行ってるの? 世も末ねぇ」
「お嬢、都会っつーのは独創性が評価されるんだぜ。まぁ、お嬢には似合わねぇから、いつも通りの服でいてくれよ」
「まあ、そうね。姉さまにも怒られちゃうし。ねぇアナタ、いくら流行ってるとしても、その服、早く着替えた方がいいわよ」
「ヘッ……えっ……ハァ……イ」
哀れむような視線と言葉に、間の抜けたような返事しかできなかった。
突然、そんなセリフを投げてきたのは三人組だ。
一人は、これぞファンタジー世界、と言わんばかりのピンク髪ツインテール少女。
お嬢、と彼女のことを呼んだのが、茶髪のくしゃくしゃ頭で頬に一本キズを付けた壮年の男性。
そして、いっさい会話に割り込んでこない、寡黙な黒髪の、やたら背の高い男性だった。
彼女たちは、ぽかんと口を開けたままの私を一瞥した後、ワイワイと会話を続けつつ、向こうへと歩いていってしまった。
「世も末……」
『まぁ、その服が流行したら、ある意味世界の終わりじゃのぉ』
「それは……私もそう思いますけどーっ!!」
か細い悲鳴が、市場の入口で、むなしく空へと響き渡った。




