62話 ~服2~
(服……このファンタジー世界観において問題ないような……いたってふつうの服……!!)
警備隊に通報されず、町の人からもヒソヒソされないような、マトモな服――。
(魔法……魔導士……ローブ……そうだ、ローブだ!!)
ピカッ、と脳内に電球が浮かんだ。
魔法使い、魔導士といえば、ローブだ。
黒色の、シンプルで、地味なローブ!
(コレだ……! ローブなら、さほど難しい構造じゃない……形状的にはポンチョみたいなモンだし……!!)
手に持った羽根に、グッと意識を集中させる。
羽根がほどけて、ふわふわの綿毛が服を形作っていくようなイメージ。
集中。集中。
体に流れている魔力を、一点に集中させる――!!
「……ハアッ!!」
ぽふんっ
軽快な音と共に、手元が光る。
だんだんと光は服の形になっていき、そして――。
「あ、はは……で、できたっ!!」
ひらひら、と、眼前に服が舞う。
両手でガシッと握りしめ、バッ、と開く。
「や、やったー!! まともなものができ……あれ??」
『……まとも……??』
横から、疑問の声が上がった。
ローブはできた。できた、が――。
「……なんか、めっちゃ光り輝いている……というか、ゲーミングしてるんですけど……!?」
月明かりの元、両手で広げたそのローブは、異質だった。
一見、子どもがお遊戯会で着るような銀色のローブ――と思いきや、明らかに発光しているのだ。
そう、発光している。
それはもうド派手に。クリスマスツリーかくや、という感じで。
しかも、よくよく見ると丈も短い。これは羽根が足りなかったからかもしれない。
「これはひどい」
これを着用して、通報されることはないだろう。
絶妙に寸足らずではあるものの、一応、全身を覆ってはいる。
ただ、なにか、大切なものを失う――そんな気はする。
『着るのか……それ』
「うっ……まぁ……今のエプロン姿よりはマシ……だから……」
フリフリ水色裸エプロンよりはマシだろう。
本当に『マシ』程度であるし、マイナス100がマイナス50になる程度の違いでしかないが。
バサッ、と上からゲーミングローブをまとい、いそいそとエプロンを脱いだ。
「あ~……エプロンをしまっておく袋がない……!」
『む、預かろうか?』
「へっ?」
『一応、神鳥じゃからのぉ。モノを出し入れできる空間というのを持っておるのじゃよ』
「ほほぅ、そういう便利枠……」
なにもかもが理不尽な世界だと思っていたが、まさかのサポートだ。
確かに、よくある転生モノでは、そういう『異次元ポケット』的なモノがよく出てきていた気がする。
「あっじゃあお願いしまーす……あ、えっと、ティアラと黄金バナナもお願いしていいですか?」
『ティアラはともかく、この黄金バナナは手放してもいいのではないか?』
「いやー、どっかで高値で買い取ってもらえるかもしれませんし」
『バナナをか……まぁ、構わんがのぉ。じゃ、保存するぞ』
と、神鳥はひとつ頷くと、クチバシの先でコツンコツン、とアイテムをつついた。
「えっなにを……うわっ!」
ピカピカッ、とティアラとバナナ、そしてエプロンは白く光ると、あっという間に姿を消した。
その場に残ったのは、呆然とするゲーミングローブを着た私と、神鳥の二体だけ。
「おぉぉお……」
『よし、これでいいじゃろ。……お主のその姿は見慣れんが……とりあえず、町中を歩くことはできるようになったの』
「そうですね……とりあえずは……はぁ……」
深々と、ため息をつく。
一回目だし、よくできた方――か? とりあえず、服の形としてはできた、と思いたい。
「初回がこんなだったですけど……何度も回数を重ねれば、ちょっとはマシになっていきますよね?」
『……まぁ、たぶん……きっと……』
「えっ、なんでそんなフワフワした感じなんです?」
『回数をこなせば、確かに経験値は貯まる……が、まぁ、センスというモノがあるからな……』
「えてこれ、私のセンスじゃありませんから! 私、もっとシンプルな黒い地味ローブを想定してましたから!!」
それなのに、いったい全体どうしてこんなド派手ローブになってしまったのか。
わめく自分に対して、神鳥はさも興味なさそうに毛づくろいした。
『まぁ、しょうがない。時間も時間じゃ。今更宿を探しても仕方がない……もう少しして日が昇ったら、屋台か市場のある中央広場にでも向かうかのぉ』
「おお……いきなりひと目のあるところへ……」
『コソコソしとったら、その方が怪しいじゃろう。堂々としておれ、堂々と』
「うぅぅ……ハイ……」
神鳥は励ますようにツンツンと指先をつついた後、肩の上にヒョコリと乗った。
「あっ、ところで、テルペロン様はどうしてここに? その……バルシュミーデ家で保護してもらった方が安全なんじゃ?」
『言ったじゃろう? 神力が尽きそうじゃ、と。あそこにいたら、知らぬ間に力が尽きて、消え去ってしまうわ』
「あー、そういえば……ということは、テルペロン様はずーっと私といっしょにいなきゃならないんですねぇ」
『そういうことじゃのぉ。神力を自力で生成できるほど、わたしはまだ回復しておらぬし』
「ああ……そう、ですか」
よかった、と。不謹慎ながら、胸を撫でおろした。
エリアスも、ヴィルクリフもいなくなり、また一人きりに戻って。
この地にすっぱだかで放り出された当初の心細さ――当時はいっぱいいっぱいでそれどころではなかったが――が、じりじりと心を焼いていたのだ。
しばらくは、テルペロン鳥がそばにいてくれる。
そう思うと、嬉しい。
ニコニコと機嫌がよくなった私を見てか、神鳥は肩にとまったまま、羽をそっと畳んだ。
『……本当に、変な女じゃの、お主は』
「えっ……ど、どこらへんが……??」
『なにもかも変じゃろ、お主は』
「くっ否定したい……否定できない……ジレンマ……」
路地裏でのんびり空を見上げながら、夜はさらに更けていくのだった。




