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異世界転移したら無敵になったけど、服が拒否されました  作者: 榊シロ


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41話 ~毒~

「よい、しょっと」


 プチッと枝からとったブドウは、つややかに光を反射している。

 色合いは濃いムラサキで、はじけんばかりに実がプリプリしていて、非常においしそうだった。


「……あれ、爆発しない?」


 いつぞやの魚のように、木っ端みじんになるか、と半ば覚悟していたのに。

 もしや、生き物じゃないから、だろうか。


 私はがぜん、元気になった。

 果物は、昔っから大好きだ。せっかくこうして何種類も実っているのだから、全部食べ比べしてみたい!


 そんな思いで、今度は黒っぽい桃もどきを木からむしる。


 すると、


 ボシャッ


「うわっ!?」「えっなに!?」「……Oh」


 その果実はものの見事に爆散して、手のひらの上から水分ごと蒸発して消え去ってしまった。


 他の二人は勢いに驚いてこっちを見るし、さっきもいだブドウもどきは地面に落ちた。二度ショック。


「えっ……なんで??」

「こ、こっちが聞きたいんだか!? いきなりどうしたよ!?」


 両手をからっぽにして呆然と突っ立っている私を見て、ヴィルクリフが、ズカズカと近づいてきた。

 その手には例のブドウもどき。どうやらもう食べ始めたらしい。ちょっとかじった跡がある。


「いやぁ、なんか急に爆発しちゃいまして」

「爆発って……オレの刀といっしょじゃねぇか!」

「わ、わざとじゃないんですって! ねぇ、エリアスさん」


 と、桃もどきをいくつかむしっていたエリアスへと視線を向けた。


 彼なら、私といっしょにいた時間も長いし、爆発のシーンもちょくちょく見ている。

 だから、突然起こる仕方のないことなのだと、苦笑しつつ同意してくれるだろうと期待して。


 ――が、しかし。


「え……エリアス、さん……?」


 彼は泉のすぐそばで、うつぶせに倒れ伏していた。


「ちょっ……どうしたんですか!?」


 慌てて彼のそばに近寄った。しかし、エリアスは私の呼びかけにはまったく反応を返さない。

 金色の髪の毛が地面に広がって、すらりと長い手足がくんにゃりと弛緩している。


 ――眠っている? いや、それにしては。


 あわてて肩をつかんで、エリアスをひっくり返す。


「いったい……うっ!?」


 彼の顔は、まっ白だった。

 閉じられたまぶたはピクリとも動かず、赤い唇は血の気を失っている。


「うそっ……どうして!?」

「ま、まさかこの果物のせいか……!?」


 ヴィルクリフが、エリアスの傍らに落ちた桃もどきを拾い上げる。

 そこには確かに、かじった形跡があった。


「え、これを喉に……!?」


 まさか、白雪姫現象!?


 と混乱した頭で考えたものの、ほんの直前に起きた爆発のことが脳裏をよぎった。


「も、もしかしてこれ……毒!?」

「ど、毒ぅ!?」


 私の発現に、ヴィルクリフが慌ててそれを放り出した。


 そうだ、毒!


 以前、私が爆発させてきたものは皆、(服は例外として)毒やらギロチンやら刀やら、なにがしらか危害を加えてくるものが大半だったはずだ。


 こっちのブドウもどきが爆発しないということは、この桃もどきは、危険!!


「でもっ、ど、どど、どうすれば……!?」


 吐き出させるか!?


 でも、胃の中のものを今更戻させる方法なんてわからない。

 その上、素人の考えでヘタに処置をして、手のほどこしようがない状態になってしまったら――!?


「オイッ、ハナ! オレを治したときの力、使えないのか!?」


 ヴィルクリフが、エリアスの体を抱き起しつつこちらを見た。


「内容物を吐き出させる努力はするが……あの力が使えるなら、その方が確実だ!」


 彼は、脱力しきったエリアスの腹に後ろから腕を回し、グッ、と内臓を圧迫し始めた。


 グッ、グッ、と何度かやっても、エリアスは咳ひとつ反応を返さない。


 まずい、本格的に、やばい!!


「そっか……!! すぐ、やってみます!!」


 いくら治癒魔法といえど、解毒作用まで兼ねているかはわからない。


 でも、こんな――こんなことで、死なせてたまるか!!


 手のひらに、意識を集中させる。

 体の周りを浮遊していたなにかが、じわりじわりと集ってくる。そんな感覚。


 助けたい。いや、ぜったいに助けてみせる!


 まるで死体のようにグッタリとしたエリアス。

 その首に、両手を近づける。触れる。


「……っ、吐き出せ、ッ!!」


 ヴィルクリフが、グッ、と彼の腹部を圧迫する。

 人形のように、エリアスの体が力なく揺れた。


「エリアスさん、戻ってきて……!!」


 触れた指先から、白い光がほとばしる。

 光は、彼の首、そこから下って腹、そして、エリアスの体全体をまばゆく覆って――、


「ぐっ……ゲホッ!!」


 プハッ、とエリアスが息を吹き返した。


「ゴホゴホッ……うぇっ……え、なに……??」


 彼の口から、ポロリ、と黒っぽいカケラがこぼれる。


 目をパチクリとさせたエリアスは『なにがなんだかわからない』といった様子で、目の前の私と、後ろで体を支えるヴィルクリフを交互に見つめた。


「よ、よかったーっ!! エリアスさん!!」

「ぐぇっ、ちょ、ハナ!?」

「……よかったな、本当に」


 半泣きで抱き着いた私と、しみじみと頷くヴィルクリフ。

 私たちに挟まれて、エリアスはまったく状況が飲み込めていないようだった。


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