117話 ~夜の宴②~
「どっかのアホと違って、気が利く人だったからな、ついついあれこれ頼りにしちまってよ」
「……ああ? おい、誰のこと言ってんだぁ?」
「さあな。んじゃ、寝室に運んでくるか。あんたらはそのまま続けててくれ」
そういうと、ザンギスはエリアスの肩を持ち上げた。
「ばーか、一人じゃ運べねぇだろ。おれも手伝うっての」
「アホが。酒でも飲んでろよ」
「強がりはいいんだよ。気が利かねぇなりに手伝ってやるよ」
と、ヴィルクリフも立ち上がり、二人でエリアスを支えると、そのまま寝室へ消えていった。
「ふむ。では、奴らの分まで食べてしまうか」
「テルル、そんなに食べられないですよね」
「クッ……まあの。しかしおぬし、酒は飲まんのか?」
「いやぁなんか……お酒に反応して、爆発起きるんじゃないかって思って……」
「まったく、その体質は大変じゃな。……あ、そうじゃ。奴ら二人が戻ってきたタイミングで発動させて、驚かせてやったらどうじゃ?」
「……爆発の規模にもよりますけど、町中から人が集まってきちゃいません?」
などと、くだらない話でわちゃわちゃ盛り上がりつつ、他の料理に口をつける。
揚げたてのカツも美味しく、手羽先も柔らかい。
腹は減らなくとも、不思議と胃が受け付けて、ぱくぱくと遠慮なく口に入れていく。
食欲旺盛なこちらの姿を、テルルは半眼で見つめてくるが。
「おぬし……後、どれを食べてないんじゃ?」
「えっ? えっと……たぶん全部、ちょっとずつは食べてますね」
「すごいのぉ、全制覇か」
「不思議ですねぇ。前はこんなに食べられなかった気がしますけど」
「魔力を垂れ流しておる分、活力の元はいくらあってもいいのかもしれんのぉ」
バクバクと料理を食べている間に、ヴィルクリフとザンギスの二人が戻ってきた。
「おお、よく食ってるな、ハナ」
「まぁバンバン食ってくれ。残しちまってももったいねぇしな」
ザンギスにも歓迎され、よし、と気合いをいれてバクバク食べていると、ヴィルクリフがドカッと横に座った。
「おい、ハナ。なんでなんも飲んでねぇんだよ」
「え? あ、いや、爆発するかなぁと……お酒なんで」
「ああ? 酒は毒じゃねえだろう」
「それが……なんか、爆発基準が分かんなくてですね……ほら、もしかしたら、酔わせる成分に反応するかな、とか」
「ま、いいから飲んでみろって」
「え、ちょ、ヴィルクリフさん!? 実はめっちゃ酔ってません!?」
見たところ顔色はいつも通りだが、なんか絡み方が面倒くさくなっている。
テーブルに置かれたボトルを片手に、空になっていたエリアスのグラスに注ぐと、頬に押し当ててきた。
「ちょ、の、飲みます! 飲みますから! っていうかそれ、エリアスさんのですけど!?」
「ああ? んじゃハナのは……って、あ、これおれが半分のんじまったわ。いいだろ、あいつ寝ちまったし」
「ハッハッハ……いやあ、見ものじゃのぅ」
テルルは止めてくれることもなく、二ヤニヤとこちらの様子を見つめるばかりだ。
「ば……爆発しても知りませんよ!?」
「は? 爆発?」
ザンギスが、なにを言っているのかと目を剥いてこちらを見る。
「まあ、酒が飲めるか飲めないか、見ておくことは必要かもしれんのぉ。今後の為にも」
「……まあたしかに」
なにが爆発のトリガーになるか判断しておくのはいいことかもしれない。
念のため、三人からスススッと若干距離をとってから、口につけよう――として止め、試しに、一滴手のひらに落としてみた。
(……手に乗せて爆発しないなら、大丈夫かな?)
なんだ、やっぱり警戒しすぎか。
肩の力を抜いて、よし、とワイングラスに口をつけ、液体に舌が触れようとした瞬間だった。
パリーン
軽い音を立てて、ワイングラスが爆発した。
「…………」
「…………」
「…………」
「……え、なんだ、今の」
皆が沈黙する中、状況がわからないザンギスだけが、ポカンと大口を開いた。
やっぱりアルコールはダメか。
「えへへ……やっぱダメでしたねぇ」
苦笑いしつつテルルとヴィルクリフを見ると、彼ら二人は、なぜか急に厳しい目つきで、割れたワイングラスを見ていた。
「なあ、テルル」
「ああ……そうじゃ。やはりな」
「えっ? なに? どうしたの、二人とも」
彼らはなにやら目配せをすると、ガタッとイスから立ち上がった。
「おい……ハナ。お前の爆発が作動する条件、言ってみてくれ」
「え? いやー、私もハッキリわかってないですけど……食べ物に関して言えば、体に害があるもの……ですかね?」
なにを改めて、と疑問を浮かべつつ答えると、呆然としていたザンギスがギョッと目を見開いた。
「が、害……!?」
「え、あ、いや、たぶんこれ、お酒なんで! お酒って酔わせる成分が入ってるじゃないですか。たぶん、それに反応して……」
ザンギスを安心させようと笑う自分の肩に、テルルがそっと手を置いた。
「ハナ。違うんじゃ」
「はい?」
見上げたテルルの表情は険しく、今さっきヴィルクリフが持っていたボトルを、ジッと凝視している。
「おぬしのグラスに入っているのは、先ほどのワインではない。……最初ザンギスがわしに言っていた、ぶどうジュースの方なのじゃ」
「……えっ」
「そういうこった。おれが、あいつの席から一本とって、お前のグラスに注いだんだよ」
ヴィルクリフが、静かな声でボトルを取り上げた。
「つまり……それに酒は入ってないんだよ」
「え……ということは……」
この爆発の力は、アルコールに反応したわけではない。
では、逆に、いったい何に反応したのか?
「そのぶどうジュースに『なにか』入っていた、というわけじゃ」
テルルの言葉に、思わずガタンとイスを立った。




