115話 ~今後のこと②~
「あいつは、おれと同じで基本戦うしか能がねぇ男だったよ。たまーに、実家から送られてきたっつー大量の本をイヤイヤ読んでたがな。……しかも、結婚を約束した相手も居たみてぇだ。ただ……今の様子を見るに破局しちまったのか……」
「……そ、それは……」
「傭兵時代、おれの方が先に辞めちまったが……まさか、こんなところで再会するなんてなぁ……」
ヴィルクリフはしみじみ呟いた後、顔を伏せた。
「家族を失うっつーのは……つらいことだ。親が死んだときは……本当に悲しかったし、めちゃめちゃ苦しかった」
「……ヴィルクリフさん」
孤児だ、と言っていたヴィルクリフ。
親のことを覚えていないのかと思っていたが、死の時の記憶はあったのか。
言葉もなく見つめる私の視線に気づき、彼は「気にするな」と言わんばかりに、片手をぴらぴらと振った。
「ま、昔のことだ。おれの親は病が原因だったから、恨む相手はいねぇしな。ただ……ザンギスのヤツは違う。家族を殺した相手に、復讐するつもりなんだろう」
ひらひらと風になびく洗濯物を見上げ、ヴィルクリフはグッと拳を握った。
「人間の内臓を抜き取って殺すような相手なんざ、ひとりじゃ身に余る。……手伝ってやりてぇんだ」
いつもよりも小さな声で、しかしハッキリと宣言したヴィルクリフに、静かに頷いた。
自分は、勇者や賢者のつもりはない。
この世界の人間でもないし、聖人ぶって誰も彼もを助けるつもりはない。
しかし、今までさんざん世話になってきたヴィルクリフの友人を助けないほど、恩知らずでありたくはなかった。
「なんとか、犯人を……魔物にしろ人にしろ、見つけてあげたいですね。故郷の町で、周りを疑いながら暮らすなんて……辛すぎる」
針の筵でひとり過ごすのは、精神的にとんでもない苦痛だろう。
事情が分かるから余計に、同情してしまう。
「悪いな……おれのわがままで」
「お、殊勝なヴィルクリフさんとは珍しいですね」
「……お前、な!」
「あはは。……ヴィルクリフさん、ザンギスさんと本当に仲がいいんですね」
すべての洗濯物を干し終えて、外の丸太の上でひと休みする。
その私の横に腰かけて、彼は少々気恥ずかしそうに頭を掻くと、ぼそぼそと言った。
「まあ……しょっちゅう家族の愚痴を言ってんのがめんどくさいヤツだったが……今の姿を見てると、それもアイツの愛情表現だったんだろうな」
あまりにもかたくなな態度の、ザンギスの様子を思いだす。
ダイイングメッセージに『ニゲて』と書いてあったというのに、ザンギスはむしろ、立ち向かう方へ意志を固めていた。
(……待てよ、ダイイングメッセージ……?)
ふと、妙な引っ掛かりを感じた。
なにか、おかしい気がする。
でも、あと一歩、なにがおかしいのかわからない。
「おい、ハナ?」
「あ、ごめんなさい。洗濯物終わりましたし、中へ戻りましょうか」
なんだか心にひっかかる。
もんもんとした気持ちを抱えつつ、空っぽになったカゴを抱え、家の中へ戻ったのだった。
「ふぅむ、なるほどのぅ」
昼食を終え、テルルといっしょに、町の井戸へ水を汲みに来ていた。
ヴィルクリフとエリアスは町で情報収集――とはいかず、ザンギスの家の手伝いをしている状況だ。
というのも、彼が、あまり私たちが町中をウロウロするのをイヤがっているからだった。
ザンギスにしてみれば、親と祖父の仇がいると思っている町の中。
適当な作り話をされたり、危害を加えられたりするのを恐れているようだった。
「なんか、こう、喉につっかかるような違和感を感じるんですよね」
午前中、自分が感じた違和感をテルルに話してみると、彼は神妙に目を細めた後、頷いた。
「そうじゃな……三人の死に方と例の書き残しについての違和感、ということじゃろ?」
テルルがバケツに水をくみ入れつつ、サラリと言った。
「死に方と……書き残し……?」
言葉にされて、あれ、と気づく。
彼らの死に方と、ダイイングメッセージの不思議に。
「あ……!」
言葉にされて、ようやく気付いた。
彼らの死に方と、ダイイングメッセージの不思議さに。
内臓を抜かれ、血も抜かれるなんてグロテスクな殺され方をした彼らが、いつ、どんなタイミングで、ダイイングメッセージなど残せたというのだろう。
「ぎ、偽造……」
「まあ、痛めつけられている過程で残したものかもしれんが……状況を考えるに、かなり低いじゃろうな。殺してそのまま立ち去ったなら気づかぬ可能性もある。が……あの部屋で亡くなっておったんじゃろう? いくらラグで隠しても……その行動でバレるのがふつうじゃな」
確かに、殺す相手がごそごそとラグの下になにか書いていたら、目につくだろう。
ということは、これは。
バケツや水がめに水を移しつつ、恐る恐るテルルに尋ねる。
「……ザンギスさん……気づいてない、ですよね?」
「そうじゃろうな。だから、町の人を疑っておるんじゃろうし」
「ですよねぇ……ってことは……え?」
テルルの返事を聞いて、さらに疑念が浮かぶ。
町の人が、危険。
町の人が、怪しい。
そんなメッセージを書いたのが、もし犯人なのだとしたら。
(……本当の犯人は、いったいどの立場なの……?)
ゾッと背筋が凍えた。




