114話 ~今後のこと~
おそらく魔物は、人間のことをエサかオモチャくらいにしか思っていない。
すべて殺すか、すべて食う。それができなかったのは、なにか理由があったからだろう。
前の町では、娘を殺された町長が必死になって町を守っていた。
旅人をエサにする――という非道な方法ではあったものの、だからこそ、あの町は生き残っていたのだ。
けれど、ここは。
この町は、違う。
「魔物に見せかけた、人間の犯行……?」
「もしかしたら、よ。なんの根拠もないわ」
エリアスは、眉を下げて頬に手を当てた。
「少なくとも……この町で、人の仕業と思っている人は少ないわ。こんな残虐な犯行……魔物がやったと思った方が安心だもの」
「そうですね……だって、もし人間がやったとすれば……町の人が怪しい、ということになってしまう」
言いつつ、酒場で会った男性のセリフが脳裏に浮かんだ。
『もうなんだっていいんだよ。理由がつけられんなら、どうだって』
魔物か、外部の人間がやった。
それが一番、彼らの心が休まる。
「……動機は恨みでしょうか」
「もし犯人が人間で、かつ知り合いだとしたら……まあ、そうでしょうね。他の人たちが生きているという以上」
「……ザンギスさん、かわいそうですね」
酔いつぶれて眠ってしまった薬屋の孫を思い返す。
真偽はまだわからない。
だが、魔物が犯人であれ、町人が犯人であれ、この町は彼にとっては安寧の地ではないだろう。
「そうね……本当なら、ここを離れて暮らすのが一番だとは思うけれど……」
エリアスも、キュッと眉をひそめた。
彼の思い詰めた様子を考えると、たとえ進言しても『はいわかりました』とは言わないだろう。
「明日は、ヴィルクリフとテルルに情報収集してもらって、あたしたちはザンギスの話でも聞きましょうか。もし誘導できるなら……この町から出ることも考えてほしいもの」
「そうですね……ザンギスさん自身が、次狙われるかもわかりませんし……」
今日得た情報は、果たして役に立つだろうか。
帰り道をエリアスと共に歩きつつ、うーん、と考え込んだのだった。
「……この町を、離れる?」
「あ、いえ……ご家族が亡くなったこの町に居続けるの、つらくないのかなぁと思いまして」
とげとげしい反応のザンギスに、慌ててフォローの言葉をかけた。
次の日の朝、テルルとヴィルクリフが朝市に買い出し兼偵察に行った合間、なんとなはしにザンギスに問いかけたのだ。
この町から離れる気はないのか、と。
エリアスが「話の切り出し方へったくそねぇ」と後ろで呟いているのを苦笑いで誤魔化しつつ、話をつなぐ。
「あと、その……いずれ、ザンギスさんの身に危害が及ぶかもしれませんし」
「そりゃあ……まあ、な。でもな……逆に、それを待ってるっつーのもあるんだよ」
「……待ってる?」
ザンギスはガリガリと頭を掻いた後、テーブルにどっかりと腰を落ち着けた。
リビングの向かいにエリアスと共に腰かけ、話を聞くことにする。
「おれがここにいりゃあ、ジジイとうちの親を殺したヤツが、また来るかもしれねぇだろ?」
「あ、危ないんじゃ……だって、相手は内臓を引きずり出すような、とんでもない倫理観のヤツですよ……!?」
あまりにも危険すぎる。
私が声を裏返すも、ザンギスはスッと目を細めて、
「こちとら、長年傭兵稼業やってたんだ。……仇のひとつくらい、取ってやりてぇんだよ」
ザンギスは、部屋の片隅に置かれた彼の獲物――使い込まれた槍を見つめながら、続けた。
「この町で、ジジイはめちゃめちゃ貢献してきたんだ……その分、恨んでるヤツもいるだろう。だから……あんたらに依頼したんだ。怪しいヤツが居たら、教えてくれよ」
彼は私とエリアスをジッと見つめた後、立ち上がった。
「さて、ヴィルクリフたちがそろそろ戻ってくんだろ。朝メシの支度するから、手伝ってくれよ」
「あ、は、はい……」
確かに、逆の立場として考えても、身内が誰だかもわからない相手に、無残に殺されたのだ。
のこのこと他の町に逃げる――なんて、簡単にできるわけもない。
やはり、犯人を――魔物にしろ、人間にしろ、見つけないと。
エリアスとアイコンタクトしつつ、食事の準備を手伝いにキッチンに向かったのだった。
「おれは、アイツの……ザンギスの犯人捜しを手伝ってやりてぇと思ってる」
家主のザンギスを交えての五人の朝食を終え、ヴィルクリフと二人、洗濯物を外で干しながらの会話だ。
彼は両手を擦り合わせながら空を見上げ、過去をなつかしむように続けた。
「年が近いっつーこともあって、傭兵時代、よく一緒になったんだよ。あぁいう性格のヤツだから、お互いよくケンカしたし張り合ったりもしたし」
「なるほど……お二人とも負けず嫌いっぽいですもんね」
「まだ十代だったからなぁ。散々お互い殴り合いしたもんだぜ。……ま、その頃から、高名なじいちゃんの話は、おれもよく聞かされてたが」
パンッ、とシーツを物干し竿にひっかけつつ、彼は続けた。
「なかなか堅物なじいちゃんらしくてさ。傭兵辞めて家業を手伝えってしょっちゅう言われるっつってた。いずれ後を継がねぇと、とはよく愚痴こぼしてたな」
「へえ……傭兵稼業よりも安全だし、よさそうではありますけど……」
「瞬間的に稼ぐなら、傭兵稼業の方がいいらしい。それに、頭の方もな……やっぱ、調合とかって難しいみてぇだから」
なるほど、と頷く。
グラム単位の調合や、薬効に応じて種類を変えて――というのは、とんでもない勉強量が必要だろう。




