112話 ~酒場にて~
「あんな……恐ろしい死に方じゃあな」
「……恐ろしい?」
「おっと、悪い。飲みの席で話す内容じゃなかったな」
なんでも、男性は自警団として、ザング一家の死にざまを目撃しているらしい。
まさかの、現場を直接見た人間だ。
この機を逃してなるものかと、勢いこんで尋ねた。
「い、いえ……その、町の方としてはあまり語りたくないかもしれませんが……聞かせて頂けるのでしたら。こう見えても色々町や町を旅してきたので、耐性はありますし」
「……そうかい? ま、ドクロの服着てるネエちゃんだし、度胸はあるのか」
ガッハッハ、と豪快に笑った男性は、ハムをフォークでつつきつつ、声を潜めた。
「ひと言で言えば、内臓がなかった」
「……えっ」
「いや、内臓だけじゃねぇ。目ん玉も舌も、おそらく脳みそも、だ」
「……そ、それは……」
ゾワッと鳥肌が立った。
呪い。そう言われるのも納得できるほど、おぞましい死にざまだ。
「あそんちの一家、三人全員がそれだ。……びびったよ。ヤバイ魔物が、町ン中に入り込んだんだろう、って話だ」
「ヤバイ……魔物」
「ああ。つっても……それも見つかってねぇんだがな。しばらく警戒してたが、その後は何も起きねぇし、逃げちまったんだろう」
「確かに……一カ月経ってるんですもんね……」
ひとの仕業にしてはあまりにも悪辣すぎる。
しかし、魔物の仕業にしては、三人だけ殺して姿が見えないのもおかしい。
悩む私の前で、男性はガリガリと頭を掻いた。
「まあ、ある程度町の周辺へ警戒はしてるが……まあ、ちょっとな。あそこんちの孫がなぁ……」
「……お孫さん? ああ、その方は生きてるんですね」
不意にザンギスの名前が出たので、驚きを隠しながらしらばっくれると、男性は微妙な顔で頷いた。
「あいつは、三人が死んだ時はどっか出かけてたらしくてな。……そんで今、やたら町の皆を目の敵にしてやがる。おおかた、町の誰かが殺しの犯人だとでも思ってんだろ」
「そ、それはまた……」
「あんな所業、ふつうの人間ができるかっつーんだよ。恨みや妬みくらいで、あそこまでのことはできねぇ。あんな……あんな、様は……」
男性は、呻くように呟くと、そのまま黙り込んでしまった。
(そ……壮絶……!!)
彼の語り口調は、とてもウソをついているようには思えない。
ザンギスは「町の人たちが共謀している」と言っていたが、それは彼の思いこみか、もしくはほんの一部が関わっているくらいではないだろうか。
(とはいえ……内蔵を抜き出すなんて……いったいどういう意図で……?)
魔物がやったとすれば、一番ありえそうなのは食糧か。
しかし、人間が魚を食べるときは、逆に内臓を抜き出して外見を食べる。
今回の場合、死体そのものは残っていたのだ。逆、ということがあるのだろうか?
人間がやったとすれば、ありえそうなのはイケニエ、とかだろうか。
しかもこれも、人間まるまるひとりを差し出すならともかく、内臓だけを抜き出す意味がわからない。
「お、思い出したくない話を聞いてすみません……でも、本当にそれは呪いみたいですね……」
「人間のすることじゃあねぇよ。でも……魔物がやったにしても、中身だけ取ってくなんて聞いたこともねぇ……だから怖ぇんだよ。平和な町に、妙な影があるのが」
男性は酒をガバッと煽った後、据わった目でこちらを凝視してきた。
「だから……あんたらのことも怪しんでた。あそこんちの一家の死に関わってるんじぇねぇかって」
「えっ!? わ……私たち、ですか!? でもひと月前、私たちここに居ませんでしたけど……!?」
まるで予期しない疑いにガタンとイスを立ち上がるも、男性は冷静だった。
「もうなんだっていいんだよ。理由がつけられんなら、どうだって」
彼はジィっと半眼で、自分と向こうで酔っ払いの相手をしているエリアスを眺めた。
その瞳の中に危険な色を感じ取り、ヒュッと喉が鳴った。
「だが……まあ、あんたと話をしてみて、人殺しするようなヤツじゃないのはわかった。忘れてくれ」
男性はフッと目を閉じた後、今までにない柔らかな声色で言った。
どうやら、お眼鏡にかなったらしい。
カチカチに張っていた緊張が一気に抜けて、ストンとイスに座り直す。
「まあ……今、一番突っ走りそうなのはザングんとこの孫だな」
「ああ……亡くなった薬屋さんの」
「町のヤツが心配して家に行っても、すぐに追っ払いやがる。その割に、外部から来た商人や冒険者に声かけてなんかしてやがるみてぇだから、あんたらも気をつけろよ」
「あ……は、はい」
「いや……もう、声かけられてるか?」
男性の目が、スッと再び細められた。
なにもかも見透かすような視線に、あちゃあ、と頬を叩いた。
「なんだぁ。もうすっかり、バレてましたか」
変に取り繕っても、不審度が増すばかりだろう。
苦笑いしつつ目の前の水を煽ると、男性は目を見開いた後、ゆるりと肩をすくめた。
「ふつうバレたらもっと慌てるもんだぜ……変わりモンだな、あんた」
「あはは。まあ、別に悪いことしてるわけじゃないですし……ちょっと後ろめたくはありましたけど」
「なかなか肝が据わってんな、あんた……いやまあ、そんなけったいな服着て町に来た時点でわかってたが」
「……あ、あはは……」
あ、やっぱり、この服っておかしなヤツに見えるんだ。
改めて突き付けられたガイコツ服のヤバさに傷つきつつ、少し気を抜いて男に尋ねる。




