109話 ~殺害の証拠~
室内に招かれて、簡単に事情説明をする。
エリアスの実家に向かっている最中だということ。
前の町で魔物を討伐して、それでここを紹介されたこと、などなど。
ザンギスは、わかったようなわからないような顔で聞き終えた後、ヴィルクリフに水を向けた。
「はーん、なるほど……つーかお前、溺愛してた弟はどうしたよ? 連れてきてねぇのか?」
「まぁいろいろあって、暗殺されかけてな……死んだことになってっから、弟は安全な城に置いてきたんだよ」
「暗殺って……そりゃまた御大層な……」
事情を知ってる自分たちは、うーん、と黙り込むしかない。
そんなこちらの顔を順々に見比べた後、彼はポリポリと頭を掻いた。
「だいたいわかったよ。……訳アリご一行、ってことか」
「そーいうこと。お前にゃ迷惑かけねぇよう、明日には出てくからよ」
「別に構わねえよ。見ての通り、このうちにはおれしかいねぇしな」
ザンギスは肩をほぐすようにコキコキ鳴らした後、ため息をついた。
なにか、事情があるのだろうか。
室内を見回せば、雑多な男性のひとり暮らし、といった風で、薬屋の面影もない。
なんとたずねようか悩んでいる間に、ヴィルクリフがトン、とテーブルにこぶしを乗せた。
「つーかお前、なんで傭兵辞めてんだ? まだ目標の資金に全然届かねぇ……って別れるとき言ってただじゃねぇか。それに、爺さんは亡くなったにしても、親はどうした?」
鳴らしていた肩をすくめ、ザンギスはふと天井を見上げた。
「親も死んだよ」
「……えっ?」
「一か月前だ。ジジイと一緒にな」
ザンギスは、グッと握りこぶしを作って額に押し当てた。
その様子を見たヴィルクリフが、言葉を選びつつ、尋ねた。
「……おい。まさかとは思うが……」
「殺されたんだ。……ジジイと、うちの親は」
ギリッ
奥歯を噛み締める音が、静まり返った室内に大きく響いた。
「殺、された……?」
しばしの静寂の後、思わず漏れた私の声が、波紋となった。
「えっと……ど、どなたに……いえ、魔物に、ですか?」
真っ先に浮かんだのは『殺人』だ。
しかし、この世界では魔物による害の方が一般的かと、慌てて言いなおす。
そんなこちらに対し、ザンギスは閉じていた目を開けて、静かに頷いた。
「魔物……ってことには、なってる」
「……おい。ずいぶん、含みがある言い方だな」
「ああ……なんせ、おれがひさびさに町に帰ってきて……古くからの仲間と酒場に行って戻ってきたら……家族全員、殺されてたんだからな」
グッと下唇を噛みしめて、ザンギスは声を振り絞った。
「離れてた時間なんて、ほんの三時間程度……そんな早業、あり得るか?」
「魔物の種族次第だけど……町の中に入って、殺して、逃げてとなると……確かに早いわね……」
エリアスが、言いにくそうに言葉を選びつつ答えると、ザンギスは頷いた後、フッと息をついた。
「前の町でも、ヤバイ魔物がでたって話だろ。だからおれも、違和感がありつつも、魔物がやったんだって納得してた……」
ザンギスは、壁にかけられた家族写真をジィッと見つめてから、再び口を開いた。
「でも……うちの周囲のヤツらにいろいろ話を聞いて回ったら、どうにもおかしいんだよ」
「……おかしい?」
「見てねぇんだよ、誰も。魔物の姿、影すら」
ザンギスは、ヴィルクリフと目を合わせ、
「あり得ねぇだろ。人を三人殺して、近場の誰一人気づかなかった、なんてこと。悲鳴も、返り血も、この家の中だけで……外にはいっさいなかったらしい。家の中は、ヒデェ有り様だったってのに……」
「……ザンギス」
「ジジイと、母さんと、父さん……みんな、ひでぇ有り様だった。忘れられねぇ……夢に、何度もでてくるんだ……」
彼は両手で顔を覆い、へなへなとテーブルにつっぷした。
しばし、声にならない嗚咽が響く。
(……姿がない、魔物?)
脳内に、透明人間とカメレオンの映像が浮かんだ。
このファンタジー世界、そういう力をもった魔物、もしくは某魔法学校でいう、透明マントのような道具があってもおかしくはない。
おかしくはない、が。
もっと、よりあり得そうな可能性がひとつ。
「まさか……町の人、が?」
思わず、そんな言葉が口をついた。
「町の人なら、人目につかない道もわかるでしょうし……短い時間で犯行をして、魔物の仕業に見せかける……なんてことも可能……?」
殺人を隠すのであれば、魔物のせいというのは、体のいい罪のなすりつけ先だ。
そう思って口に出すと、テルルがコテンと首を傾げた。
「人の犯行と、魔物の犯行では、あきらかに違うのではないか? 偽ろうとしても、そう簡単にごまかせるとも思えんが……」
「まあ、それもそうですよねぇ」
この世界では、魔物がいるのが当たり前なのだ。
人と魔物では知能指数も違うだろうし、そう簡単に騙せるものでもない。
考えすぎたか、と思って頭を掻くと、意外にも、ザンギスは大きく頷きを返してきた。
「いや……実はな、おれもそう思ってんだよ」
「は? ザンギス、お前、いくらなんでも」
ヴィルクリフがあきれ顔で否定しようとしたものの、彼はイスから立ち上がり、
「証拠がある」
スタスタとリビングの奥へ進み、ドアを開けて手招きしてきた。
「この部屋を見てくれ」
そこは、寝室のようだった。
ベッドが部屋の隅に四つ置かれた、狭い部屋。
見る限り、特段おかしなところはない。
皆で顔を見合わせると、ザンギスが部屋の真ん中、敷かれた丸いラグを持ち上げた。
「えっ……こ、これって……」
思わず、言葉を失った。




