107話 ~ドロゼーア~
『魔女様と、エリアスの二人の無事はわかったのですが……もしや、他に同行の方がいらっしゃいますか?』
「えっ?」
『旅のさなか、ご一緒になることもあるかと思いまして……もしそうなら、改めてわたくしからご挨拶させて頂けたら、と』
ピカピカと、お守りが呼応するように輝く。
(……どう、しよう)
同行人は、いる。
しかし、姫様に紹介できるかというと――。
チラリ、とヴィルクリフとテルルを見やった。
彼らが同行した流れが問題だった。
ヴィルクリフは元々エリアスを殺そうとした暗殺者だし、テルルに至っては人ではない。
悩む自分の前で、ヴィルクリフはふわぁと大あくびしているし、テルルもめんどくさそうな顔で片手を拒否のそぶりで振っている。
これは、説明しない方が良いヤツだ。
そう結論づけた私は、エリアスがしゃべりだす前に、キッパリと言った。
「いえ、姫様。私とエリアスさんの二人だけです」
『……そうなのですか? 魔物もそうですが、野盗なども今は多いと聞きます。サミコスの次というと、ドロゼーアの村が近いでしょうか』
まさに。
これから向かう村の名前に、しっかりと頷く。
そこから、二言三言簡単な会話を交わして話を終えると、お守りはフッと光を失った。
「姫さんとの話は終わったのか?」
黙ってのんびりと木を眺めていたヴィルクリフが、焦れたように声をかけてくる。
「ええ。やっぱり全体的に、魔物の数が増えているみたいですね」
うんうんと頷きつつ言えば、彼はジットリとした目つきを向けてくる。
なにか言いたいことでも? と首を傾げると、ヴィルクリフは半眼になった。
「……おれとテルルのこと、ふつーにごまかしたよな、オマエ……」
「い、言えるわけないじゃないですか! あの心優しい姫様に、あなたの母がエリアスさんを殺すために遣わせた殺し屋と、今は一緒に行動してます、なんて!!」
「そうじゃのぉ……わしも、王国やらなんやらとはあまり関わりたくないしのぉ」
「そうねぇ……伝説の神鳥もいます、とか言ったら大事になりそうだしねぇ……」
唸る私に、テルルとエリアスも深く頷きつつ同意した。
「まあ、騙しているようで、気が引けるといえば引けるんですけど……でもねぇ、やっぱりお姫様には、言えることと言えないこと、ってモンが」
「お前の今の恰好なんて、姫様には見せらんねぇもんな」
「……。森の精霊に認められた、って、光栄なことだとは思うんですけどねぇ……」
ヴィルクリフのカウンターパンチに、ぐぬぬ、とこぶしを握る。
精霊はファンタジー世界の住人で、人間界のファッションなんて知るよしもない。
だから、これはしょうがない。仕方ない、のだけれど。
姫と話をしたことで気が晴れたような、逆にドッと重くなったような、なんともいえない気分になりつつ、次の村へと急いだのだった。
「ああ、前の町から紹介で……大変だったでしょう。どうぞお入りください」
次の町の、玄関口。
もしかしたら門前払いかも、と覚悟して挑んだ受付はアッサリ通り、無事に四人とも入ることを許された。
「悪いな。でも、前の町が今はあぁだろ? ここも大変じゃねぇか」
「いえいえ、むしろ、そのおかげでこのドロゼーアへ訪れる商人さんや旅の人が多いので、うちとしては助かっているんですよ」
「ああ、なるほど。その分、流通が潤うわけね」
こそこそとエリアスとヴィルクリフの影に隠れつつ、世間話として情報を収集する彼らのやり取りを見守る。
「しかし、サミコスの町も、そろそろ封鎖を解除するという話が出ておるようじゃなあ」
「あら、それは残念ね。旅人さんたちがいっぱいお金を落としてくれるの、助かってたんだけどなぁ」
ニコやかに対応する受付口の女性は、まったく魔物や魔女に関する話を出そうとしない。
これは、こちらから話を出さない方がいいだろう。お互いにそうアイコンタクトを交わして、そのまま堂々と町の中へ入りこんだ。
「前のサミコスの町の話……伝わってないのか?」
「そうねぇ……危機感のかけらもなかったし……」
「それに、道中の森があんなことになっていたというのも、まるで知らん有り様じゃったな。実際、町の中もおだやかそのもの、という感じじゃ」
首を傾げつつ、テルルは町の中をぐるりと見回した。
受付の女性の言う通り、前の町で行商できなかった商人や旅人が流れてきているのだろう。
町の市場は賑わっているし、行き交う人々の表情も明るい。
「平和なのは、とりあえずいいことですね。私たちも、次の目的の為にいろいろ準備しないと」
「それもそうね。とりあえず、あたしの実家に行くことだけど……まだ距離はけっこうあるから、必要な物資を買い込んでから、ここで一泊して次へ向かう……ってことでいいかしら」
「ま、まだあんまり疲れてねぇけどな」
「しかし、夜に活動するのは少々難儀だしのぉ……いくら、人工照明がいるとはいえ……」
「……さすがに、道を照らすほど明るくはなりませんよ、私」
などと戯れ言を交わしつつ、まずは町の宿へと向かったものの――。
「え……い、いっぱい……!?」
「そうなんですよねぇ……いやぁ宿泊客がここんところ多くて……申し訳ないんですが、他をあたってください」
「ほ……他、って……」
この、さほど広くない町の中。
そこの宿屋みっつすべてに断りを入れられ、四人して顔を見合わせた。
「……どうしようかしら」
「うーん……せっかく村に来たってのに、また野宿か」
エリアスとヴィルクリフは、なかば諦めの表情で肩を落とした。
正直、私としてはどっちみち徹夜だから関係ないのだが、仲間たちが疲れを癒せない、というのは頂けない。
うーん、とその場で悩んでいると、テルルがふと手を叩いた。




