103話 ~森の中3~
しかし、せっかくのこの能力。
ただ、のうのうと自分が助かる為だけではなく、この世界の為にも役立てておきたい。
「あ……そうだ。私の魔力とか、この浄化の力を、なにかに与えられれば……」
エリアスの武器に力を付与したときのように、有り余る魔力を使ってどうにかできないだろうか。
私の提案に、意味が理解できなかったらしいヴィルクリフがさらに首を反対側に傾げた。
「力を与える? どうやんだよ、それ」
「いやほら……なんか、あるじゃないですか……こう、宝石にパワーを込めるとか……森だったら、泉とか木に魔力を注ぐとか……」
この世界、そういう価値観みたいなものはないんだろうか。
助けを求めてテルルを見ると、彼は自らの頬をすりすりと撫でた後、
「ふむぅ……悪くない考えかもしれんのぉ」
と頷いた。
「おっ、ホントですか!?」
「しかしなぁ……お主、そんなことやったことないじゃろ? 回復とは違う、特殊な使い方じゃぞ。できるか?」
「……うっ……!」
今まで、何度か回復魔法以外をやろうとしたことはあるものの、大抵失敗に終わっている。
運よく成功、といえるものもなくもないが、なんというか、あまり再現性がないのだ。
ううん、と腕を組んでうなっていると、エリアスが帯刀していた剣を持ち上げた。
「ハナ、あたしの剣に魔力をこめてくれたじゃない。あの感じ、再現できないかしら?」
「再現……問題はそれなんですよねぇ……」
懐から杖を取り出し、ジッ、と凝視する。
あの時は、いったいどうやったのだったか。
想像力。コウモリの魔物を倒せるほどの力を欲したはずだ。
なら、今回も想像すればいいはず。
「えぇと……じゃあ、ちょっとそこの、元気がない若木さん」
エリアスの剣を片手に、ちょうど視界に入った木に視線を向ける。
瘴気とやらにあてられているのか、この森の木は、どれもシナシナと枯れかけていて、生気がない。
その中でも、私が目をつけたのは、若木だ。まだ芽吹いて間もないような、ほぼしなびていて、かろうじて、一つ緑の葉っぱが開いているだけの、木。
(力を与えるように……この森を浄化するだけの力を……)
しゃがみこみ、手のひらの中でやや身じろぐように動く杖を、そっと大地に横たえる。
杖は一瞬ビクッとしたものの、私の真剣さ度合いを察知したか、その後静かになった。
やっぱりこの杖、意志があるんだなぁ、と思いつつ、深く呼吸する。
両手で杖に触れつつ、自分の魔力が指先から出て、杖の宝石を伝導し、そのまま土に吸収され、若木に伝うのをイメージする。
「………………」
静かに深呼吸して、力を注ぐ。暖かいなにかが体を伝って、若木にエネルギーを与えるように。
「………………」
一秒、二秒、三秒。
「う~ん……ダメみたいですね」
若木には、なんの変化もなかった。
空気が変わっただとか、葉っぱが芽吹いたり、ということもない。
あの巨大コウモリ戦のように、光り輝いたり、ということもなかった。
「そうなの……うまくいくと思ったのにね」
「まあ、ふつうに難しそうだしなぁ……」
と、剣士二人は残念そうに腕を組んでうなっている。
テルルはムムッと唇をへの字にして、私と若木とを見比べていたが、
「のお、ハナ。今、どういう想像をしたんじゃ?」
「こう……私の魔力が大地を通して、この木に移って……森が浄化される感じ、ですかね」
「うぅむ……やはり、お主は、ちと想像力が足りぬような気がするのぉ」
「えっ……今の、ダメですか!?」
割とリアルに、魔力が伝わる流れを想像したというのに。
戸惑う私に対し、テルルは首を振った。
「やりたいことは……まあ、わかるんじゃ。しかし、お主はまだ、魔法に慣れ親しんでおらぬ。流れを想像はできても、結果をうまく結びつけられておらんのじゃ」
「結果を……結びつける……」
「例えばじゃな、お主の力がその枯れ木に移ったらどうなると思う? きっとぐんぐんと背が伸びて、幹も太く、枝も何本もわかれて、この森一番の大きさになるじゃろう。そして、つぼみがつき、花開いた瞬間、空気が浄化されていく……と、こう、具体的に考えてみたらどうじゃ」
「おお……なるほど……!?」
言われてみれば、さっき自分が考えていたのは、想像ではない。ただ、魔力が流れていくのをなぞっていただけだ。
想像力。あまり得意分野ではないそれを、テルルの言葉をなぞって広げていく。
(この小さな若木に、私の力を与えたら、どうなっていくのか……)
深呼吸して両手を杖に押し当てると、杖はまるで枝木のように、すぅっと縦向きに土の上に立った。
なるほど。こうやって枝が伸びていくことをイメージするのか。
後押しされた気分になって、目を閉じる。
目の前の若木。幼児の身長にも満たない小さな木が、金色の光をまとって、ニョキニョキ伸びていく。
土から養分を、そして魔力を吸い上げて、瘴気を打ち払いながら、空へ。
幹は濃く茶色く、次々に枝葉を広げて伸びていく。若々しい緑の葉っぱが、金色の光をまといつつどんどん開いて、小さなつぼみがついていく。
こぶし大のまるまるとしたピンク色のつぼみが、たっぷりと――。
「……う、おぉぉぉお!? な、なんじゃこりゃっ!?」
「す……すごい、すごいわ! 木が、伸びて……っ!!」
ヴィルクリフとエリアスの驚きと歓喜の声が聞こえる。
ハッとして目を開くと、その視界には。
「おわあっ……で、でかぁ……!」
眼前には大木――いや、巨大樹があった。




