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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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三六六 一つの物語の終わり


 ラドリア精鋭養成所。


 夜、コンミーザは中庭の森のベンチに腰掛け、一人佇んでいた。


 伏し目がちな表情は、何かを憂えているようにも見える。


 リザド・リ・リザドに向かった護衛隊から、〝南ガルウォの戦いにおいてドラゴンを倒し勝利した〟という一報はあったが、その後の動向については何も知らされていなかった。


 統治兎神官たちはドラゴンが倒されたことを知ると、その地位と権力を守るために爬神教を否定し、謝罪するなどして、人々の心を繋ぎ止めることに躍起になっている。


 過去の過ちを謝罪し、神への信仰を正しくすることは間違ってはいない。


「だけど・・・」


 コンミーザはそう呟き、権力にしがみつく統治兎神官たちのその様を嘆かわしく思う。


 統治兎神官たちはコンミーザに愛想は良いものの、コンガレを中心に、コンミーザの知らないところで話し合いをしているようだった。


 コンミーザにはそれが気になっていた。


「何を企んでいるのかしら・・・」


 コンミーザはため息をつく。


 夜も更け、施設内は寝静まっている。


 真っ暗な中庭の森から見上げる空には満天の星々が煌めいていて、冷たい空気を胸一杯に吸い込むと、心のモヤモヤも少しは晴れるような気がした。


「あれは・・・」


 コンミーザは男子寮の方に仄かな光を感じ、視線をそこに向け目を凝らした。


 コンミーザの視線の先にはボンヤリとした光に包まれた男の子がいて、ぼーっとした感じで神殿に向かって歩いていた。


「トマス?」


 コンミーザは驚いてトマスの後を追う。


 コンミーザが弓術場の横を抜けて神殿前に出たとき、トマスは神殿の入り口の開いた扉から中に入っていくところだった。


 トマスには不思議なところがある。


 コンミーザはそれをわかっていたし、霊力のある者なら誰でも感じていたことではあるけれど、今、コンミーザが目にしている淡い光に包まれたトマスは、ただただ神秘的だった。


 トマスを追って、コンミーザも神殿の中に入っていく。


 真っ暗な神殿内。


 トマスは神殿の奥の通路を歩いていた。


 コンミーザはトマスを包む光を追って前に進む。


 トマスは通路の奥で立ち止まると、突き当たりの壁のどこかを押すような仕草をみせた。


 すると、


 ゴォオーーーっと音を立てながら壁の一部が下がり、そこに秘密の通路が現れた。


 それを見て、コンミーザはトマスがどこへ向かっているかを察知した。


 トマスは迷いなくその通路に入っていく。


 コンミーザも迷わずその後を追う。


 トマスは通路を奥へと進み、導かれるように戦士の間へと入っていった。


 そこは服従の儀式に備え、シールの眠る柩が置かれていた部屋で、ミカルらがリザド・シ・リザドへ発った後、統治兎神官たちが探しても見つけられずにいた部屋だった。


「トマス、待って」


 コンミーザは思わずそう声をかけ、急ぎ足になる。


 コンミーザが戦士の間に入っていくと、真っ暗な室内で、淡い光に包まれたトマスだけが浮かんで見えた。


 部屋の奥の壁には腰くらいの高さの祭壇があり、その祭壇の前に、蓋のされた純白の柩が一つ、ポツンと祭壇と平行に置かれていた。


 トマスはその柩の傍に立ち、右手で柩に触れていて、無表情のままその柩を見つめていた。


 誰の柩かしら・・・


 コンミーザはそこにある柩を不思議に思う。


 シールの眠る柩は服従の儀式において捧げられたはずで、他の柩の存在については何も知らされていなかった。


 トマスはコンミーザの気配に気づくと、コンミーザの方に微かに顔を向け、


「みんな、死んじゃった・・・」


 そう呟いて、無感情の目から涙を流した。


「トマス・・・」


 コンミーザはトマスのその神秘的な姿に胸を打たれ、言葉が出てこなかった。


 トマスはゆっくりとコンミーザに振り返ると、


「みんなが帰って来るまで、僕がお姉ちゃんを守らなきゃ・・・」


 と、虚ろな眼差しで呟くのだった。


「トマス、なにいってるの?」


 コンミーザが驚いて聞き返すと、


「物語は・・・まだ終わっていないんだ・・・」


 トマスはそう言い、虚ろな表情のその目に微かな悲しみの色を浮かべた。


 コンミーザにはトマスが何を言っているのかまったく理解できなかったが、全身に鳥肌が立つほどに、ゾクゾクッとする感覚を覚えるのだった。


 戦士の間は、冷たく、音もなく、時間さえも止まっているかのようだった。


 その戦士の間で、トマスの触れる純白の柩が、トマスの言葉に反応するかのようにボンヤリと光るのだった。


 


 


 タケルとアジの死から数ヶ月後のことである。


 新世界橋に突如として現れたサムイコク軍兵士たちに、イスタルの住民は何事かと驚いた。


「行けぇえええ!」


 セジはサムイコク軍の先頭に立ってそう叫び、兵士たちに突撃を命じた。


「わぁあああああ!」


 兵士たちは雄叫(おたけ)びを上げながら一斉に突撃していく。


 このとき、セジ率いるサムイコク軍は新世界橋を渡り、イスタルへの侵攻を開始したのだった。


 そしてこの数年後には、賢烏族の国々はその覇権を争って〈戦乱時代〉を迎えることになる。


 こうしてドラゴンを象徴とした世界は終わりを告げ、新しい世界は始まったのだった。


お読みいただきありがとうございました。

「ラビッツ」の評価が500ptを超えましたら、続編である「アフター・ラビッツ」の執筆に取り掛かりたいと思います。

ぜひ、高評価よろしくおねがいします。

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