8.覚醒
「はぁ、はぁ、ようやくここまで辿りついたっすね」
ミギブが泥だらけになった服の袖で額の汗を拭く
「ああ、あの広場は間違いなくハイオークに見つかった場所だ。つまりあと少しでダンジョンの出入口にたどり着ける。ここまでの会敵はD級が二匹にE級が三匹か。まあ、俺様の実力があれば楽勝だったな!」
額から血を流し、身体の至る所を怪我したグリードが笑う。
そんなグリードを見てミギブが小声で
「あっしのサポートとソラを囮にして奇襲をかけての勝利じゃないですか。圧勝とは程遠いっすね」
そう漏らした。
「ん? 今なんか言ったか?」
「いーえ。なにも言ってません」
「そうか。まあいい。それより早くあの広場を抜けるぞ! 見渡す限り魔物の姿はみえねぇ! 今なら楽に突破できる」
「確かに臭いもありません。ただ、一応念のため周りを用心しながら進んだほうがいいとは思いますが」
「おい! そんな甘いこと言ってんじゃねぇ! もたもたしてたら魔物がこっちに寄ってくるだろうが!! ゴールはもうすぐそこなんだ。さっさと行くぞ」
そう言って一歩踏み出すグリードに、ソラが恐る恐る手をあげる。
「あ、あの〜。ずっと疑問に思ってたんですけど、なんでこの部屋だけこんなに広いんですかね。他にも広場はあったけど、凄いこじんまりしてたので気になって」
「あ゛あ゛! 今はそんなことはどうでもいいだろ! さっさと行くぞウスノロがっ!!」
「ちょっと待ってください旦那! 確かにソラの言う通り、言われてみればおかしいっすよ。ここはダンジョンです! きっと何か理由があるんですよ!」
ミギブが静止するがグリードはその声に耳をかさずズカズカと広場を進む。
「ほらみろ何もねぇじゃねぇかこの腰抜け共が! そんな小せぇ肝っ玉してるからいつまで経ってもお前らは雑魚なんだよ。早く来い置いてくぞ!」
ミギブとソラはお互いに目を合わせるが、ミギブがついたため息をきっかけに2人は広場の中へと足を踏み入れる。
するとそれとほぼ同時にミギブとソラがたった今いた場所に、岩の壁が現れる。さらに広場のあちこちにあった出入口も一つを残して全て岩の壁に閉ざされた。
「え? え? なんですかこれ?」
キョトンとした顔をして辺りを見まわすソラにミギブが鋭く叫ぶ。
「罠だ! ボーッとしてないで早く走れ! この手のタイプの罠はいったい何が起きるかわからない!!」
その言葉にソラはハッとした表情で急いで出口に向かって走り出す。
そして広場の中央らへんで呆然と立っていたグリードにもすれ違いざま声を投げる。
「何やってるんですか旦那。早く走ってください! 何が起きるかわかりませんよ!!」
「おい! 俺に命令するな!! まず何が起きてるか説明しろ!!」
そう言って、ミギブとソラの襟元を掴む。グリードに引っ張られる形で二人が尻餅をつく。まさにその時だった。
部屋中の至る所に魔法陣が出現し、その魔法陣から犬の形をした黒色の獣と青色の獣が発生した。
「な、なんだよ!? ブラックウルフにアイスウルフだと!? どっちもD級の魔物だが20匹近くいるぞ!?」
「ああ、終わった。旦那、この部屋が他の部屋より大きかったのはこのためだったんですよ。発動条件はわかりませんが、この部屋には条件を満たすと大量のモンスターが出現するように罠が張られてたんです。旦那がうかつに飛び込むからこうなったんですよ。ちゃんとあの時確認していれば」
「てめぇ! 俺のせいだっていうのか!! ぶっ殺すぞ!!」
「殺したかったら殺してください。あいつ等に体中を食い破られて死ぬよりは旦那に殴り殺されたほうが大分マシだし楽です。獣に食い殺された奴を昔見たことがありますがアレは地獄なんてものじゃないですよ」
「チッ、このヘタレが。本当だったらこの場で制裁してやりたいところだか、お前の加護はこのダンジョンでまだ使い道があるから勘弁してやる。だがここから出たら覚えてろよ」
「旦那。ここから出るのは無理な話ですよ。いくらあっしと旦那が連携したって倒せるのはよくて半数です。あっしらアイツらに喰い殺されて人生終わりですよ」
「おいおい何言ってるんだ。二人じゃないだろ。ウスノロも入れて三人だろ」
「旦那こそ何を言ってるんですか。ソラが戦闘したことなんてないじゃないですか。ほら、今だって魔物の群れにビビっちまって震えてる。あんな奴に何が出来るっていうんですか?」
「なーに、ちゃんと出来ることはあるさ。おーいソラく~ん。ちょっとこっちおいで」
グリードが不気味な猫撫で声でソラを呼ぶ。ソラがグリードのもとへ震える足でやってくると懐から赤黒い液体の入った瓶を取り出した。
「ぐ、ぐ、グリードさん。ど、ど、どうしましょう魔物が、魔物がたくさん。って、え?」
そしてその瓶の中身をソラの頭にぶちまけ、ソラを思い切り蹴り飛ばした。
「おい! ミギブ走るぞ!!」
「どういうことですか旦那! アレはなんなんですか!」
「昨日狩ったレッサーウルフの血だ!」
「レッサーウルフの血? まさか旦那、ソラをアイツらの餌にするんですか!?」
「そうだよ。だから言っただろ切り札があるって。レッサーウルフの血は魔物を引き寄せる。万が一の時を考えて持ってきておいて正解だったぜ」
そう言って笑うグリードにミギブが驚愕に顔を歪める。
「いくらソラ相手とはいえあまりに酷すぎますよ! 獣系統の魔物の獲物の殺し方の凄惨さは旦那だって知ってるでしょ」
そう言って踵を返そうとするミギブの腕をグリードが掴む。
「おい、お前の加護はこの先に必要だ。そもそもお前が戻って何になる。そんなことしても無残に死ぬだけだ。死体の数を増やしても意味ねぇだろうが! 俺らに出来ることはアイツは勇敢に戦って死んだってみんなに伝えて盛大に弔ってやることだけだ。ここで3人とも死んだらそれすら出来なくなっちまう。いいかミギブ合理的に考えろ。今この場でどう行動するのが冒険者として正しいのか。お前に何が出来るのかをな」
その言葉に苦渋の表情を見せる。そして逡巡したのちに
「すまねぇ、ソラ」
小さくそう言って再び出口に向かって走り出した。
「そうだ。それでいい。そんな顔するなよミギブ。アイツは腐っても英雄の息子だ。もしかすると運よく生き残ることもあるかもしれねぇじゃねぇか。まあ、万一にもそんなことはねぇだろうけどな! 最後に冒険者らしく魔物と戦って死ねたんだ。あいつだってきっと本望だよ。がハハハハ」
広場にグリードの笑い声が響くなか黒と青、二色の狼たちがソラを取り囲みジリジリとその距離を詰めていく。
「うそ、うそでしょ!? グリードさん! ミギブさん! 助けてください! どうして!? なんでどうして誰も助けてくれないの!? やだ、やだ、まだ、まだ死にたくない!! 死にたくないよ!!!」
顔をぐちゃぐちゃにして、泣き叫ぶソラの声が広場に木霊する。しかしそこに手を差し伸べるものは誰もいない。
そしてグリードとミギブが広場の出口に辿りつくと同時に腹をすかせた一匹のブラックウルフがとうとうソラのもとに鋭い牙と爪を見せつけ飛び掛かった。
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