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47.DAY2 大切な人

クライフ発見から2日目の昼頃。小さな部屋のドアがバタンという大きな音と共に勢いよく開いた。



「ソラさん! お加減はいかがですか? ソラさん!?」



 扉を開けると同時にその大きな目を白黒させてその場で凍りついた。



 ルナの視界に飛び込んだのは部屋の隅でぐしゃぐしゃの毛布を肩にかけたまま壊れかけの人形のように涙を流し表情をなくしたソラの姿だった。



 その姿を見て、彼が昨日のことをどれほど悔やんでいるのかがわかる。それと同時にソラの心が限界だということも。



「……ルナ、さん?」



 色をなくした瞳でボーッとした様子でこちらを見るソラに思わずルナはソラに駆け寄りギュッと抱きしめる。



「ごめんなさい。1人にしてしまってごめんなさい。ソラさんに私を食べさせてしまってごめんなさい。加護(わたし)さえいなければソラさんがこんなに傷つくことはなかったのに……」



 痛いほど強く抱きしめるルナにソラは不思議そうな顔を見せる。



「なんでルナさんが謝るんですか? 悪いのは僕なのに」


「いいえ。ソラさんは悪くありません。悪いのは全部私です。だって私はいずれまたニーズヘッグがこのナイトランドを襲う日が来るのを知っていたのにそれを黙っていたのですから!」



 その言葉の意味を考える。でもふやけた頭で考えてもその答えは出てこない。



「すいません。言ってることがよくわからないです」



「それは私が存在する理由が世界樹(お母様)を襲うニーズヘッグから世界樹を守るためにあるからです」



 そこでルナは何かを決意するように身につけたドレスの左胸を強く掴んだ。



「ニーズヘッグは遥か古来より世界が変わる節目に突然現れる厄災です。その目的は世界に存在する世界樹を破壊すること。なぜそんなことをしようとするのかはわかりません。でも世界樹はその(マナ)で魔物の発生を抑制します。もしこの世から世界樹がなくなれば魔物の出現頻度、生息分布は爆発的に加速します」



 ソラは想像する。もしそのようなことが起きたら世界がどうなるかを。そして世界樹がなくなったら起こるもう一つの被害を。



「そしてご存知の通り世界樹は命の実を宿して加護を人に与えます。世界樹が世界から消え去ったら人は加護を手に入れることができなくなり、戦う力の大半を失います。魔物が跋扈(ばっこ)する世界で加護をもてない人族。その先に何が起こるかは想像できるかと思います」



 大量に現れる魔物。力を持たない自分達。そんな世界が訪れたら何が起こるか。そんなものは想像にたやすい。



「……滅び」



「その通りです。そして世界樹はいずれ訪れるニーズヘッグの襲撃に備えて世界の節目に特別な実を実らせます。その実は自我を持ち、その力は特別、そして強大な敵に抗うことが出来る力。それが私です」



 その言葉に驚きもするがある意味納得もしてしまう。キスするだけで倒した魔物の加護を手に入れることができてなおかつ人の加護をコピー出来る。



 ここまでの力が普通なわけがない。


 だが納得すると同時に心には別の想いが込み上げる。



「ごめんなさい。こんな弱い僕がそんな大事なルナさんを食べてしまってごめんなさい。ルナさんももっと違う人に食べられたかったよね」



 それは謝罪の気持ち。世界の運命を左右する力を自分みたいなニーズヘッグの前に立つ事もできない存在が手に入れてしまった。



 言い換えれば人が魔物に立ち向かう牙を自らが折ってしまったようなものだ。



 ソラの言葉にルナのエメラルドの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。



「そんなことはありません! 私はソラさんに食べられてよかったです。いいえソラさんじゃなきゃ嫌です! ソラさん以外には私を食べて欲しくありません!! 一加護に過ぎない私にこんなに優しくしてくれて、どんな人にも親切で自分より他人の幸せを優先できる。こんな素敵な人世界中探してもソラさんしかいません!!!」



「でも僕はクライフとは戦えない」



「ええわかってます。安心してくださいあんな黒い鳥くらい私がかるーく捻ってやります。実は私結構強いんですよ♪ なのでもし今度わたしがこの家に帰ってきた時はまたデートしてください。ソラさんを泣かせるような輩は私が全部倒しますから、だから、だから、お願いですソラさんそんな辛そうな顔をしないでください。私はソラさんにはいつでも幸せな笑顔を浮かべていて欲しいんです」



 その言葉にソラの心の奥に暖かい何かが灯ったような気がした。



 自分がどんな表情をしていたのかはわからない。ただそれはそれはヒドイ顔だったのは確かだろう。



 でもルナはそんなソラを見て



「もう少し一緒にいたいですが、一刻も早くソラさんをいじめたニーズヘッグを倒したいのでいってきますね」



 柔らかく笑って静かに部屋から出ていった。



 引き止めるように無意識に伸ばした手は何もつかめず空気を抱いた。部屋の端っこにかけられた鏡に映った自分の顔は今までとは違う種類の涙で濡れていた。

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