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44.交渉

「ヨルさん容態ですが予断は許さない状況ですがなんとか峠は超えました」



 ナイトランドの冒険者ギルドの別室でルナが椅子に座り項垂れるソラにそう告げる。



 その言葉に安堵の表情を浮かべるがその顔はすぐに曇る。



「ただお腹の傷はクライフの瘴気の痕跡が大きく傷痕は残るかもしれません」



 鎮痛な面持ちで述べる。



「僕のせいだ。僕が守るとか言っときながら守ってもらった挙句、ヨルちゃんを殺しかけてその身体に傷痕まで残して。はは、強くなったって勘違いしてた。僕の力じゃないのに全部ルナさんのおかげなのに僕なんてただのウスノロなのに夢見てでしゃばるからこんな事になるんだ」



「……ソラさん」



 なげやりに言葉を吐き捨てるソラになんと声をかけたらよいかわからず狼狽るルナにソラはさらに言葉を並べていく。



「そうだ。そもそも英雄の息子だからって僕が英雄になれるわけじゃない。冒険者になったのだって間違いだったんだ。人を幸せにするどころか結果は真逆。こんな僕なんか冒険者をやる資格なんてない」



「おい、ソラ。その辺にしとけ」



 矢継ぎ早に言葉を並べるソラにルナの後ろに立っていた2人の人物のうちの1人ダンテが嗜める。



 しかしソラは思い切り机を叩き勢いよく立ち上がり感情を爆発させる。



「だってそうじゃないですか! 格上のダンジョンに挑んでカッコつけて全部自分が守るとか言った挙句に逆に自分が守られて! その仲間が殺されかけてるのに身体一つ動かさずに見殺しにする!! こんなやつが何を成し遂げることができるっていうんですか!! もういいですよ!今日限りで僕は冒険者をやめま、す!?!?」



 ダンテが再びソラを嗜めようとしたとき、ソラの顔を傷だらけの太い腕が思いっきり殴りつけた。



 殴られた勢いのまま床を転がり壁に激突する。



「ふぅ。ちょっと前にヨルを『moon』から連れ出したときは多少は骨のある奴かと思ってたんだけどね。まさかこんな腐った金玉野郎だったとは。私の人を見る目も衰えたもんだ」



 ダンテの隣にいたミルが振り切った腕とゴミのように転がったソラを交互に見ながらため息をつく。



「ソラさん!?」



 吹き飛ばされたソラのもとへルナが急いで駆け寄る。



「嬢ちゃん。そんな生ゴミに近寄るもんじゃないよ。アンタまで蝿にたかられる。それより新月の祠に現れたっていうクライフもどきについての情報をおくれよ。生憎私はゴミの喋る言葉を理解できる脳みそを持ち合わせてないからね」



 にぃっと笑いながらルナを見る。強者のみが放てる威圧感をルナにぶつける。殺意が混じったソレを一身に当てられ、思わず身震いするがキッとミルを睨み返す。



「ソラさんを傷つける人に話すことなどはひとつもありません。もしそこから一歩でもソラさんに近づいたら許しませんよ?」



「ほう小便臭い小娘がいうじゃないか。これでも昔は私もそこそこの冒険者をしてたんだ。じゃあ、どう許さないのか見せてもらおうか?」



 そう言って一歩前に踏み出す。それを見てルナが魔法の詠唱を始める。



「この距離で魔法の詠唱とか遅すぎてあくびが出るね!!」



 一瞬で間合いを詰めたミルの拳がルナの腹に減り込もうとしたとき、バンッ!!!という金属と金属がぶつかるような轟音が部屋中に響く。



「これはなんの真似だい? ダンテ!」



 ルナとミルの間に割って入りミルの一撃を片手で受け止めたダンテをギロリと獣の眼差しで見る。



「それはこっちのセリフだミル。お前このナイトランドの危機的状況でまだ怪我人を増やすつもりか? お前を呼んだのはこんなことをさせるためじゃねぇ。かつてBランクの冒険者でナイトランドの荒くれ者達にも繋がりのあるお前と情報を共有することで5年前の災害を繰り返さないためだ。今ソラを責めるのは違うだろ」



「じゃあ聞くが仲間を命の危険に晒して見殺しにした挙句、なんの責任も取らずに冒険者をやめて逃げ出すなんていう奴の言葉を信じろってのかい? 私は仲間を蔑ろにする奴の言葉は信じない。だが追い詰められて命乞いしてる奴の言葉は信じる。だからお嬢ちゃんが話してくれないのなら私はあの生ゴミを半殺しにしてから言葉を吐かせる。それがナイトランドの未来のためさ」



 脅しじゃない本気の言葉。ルナはソラの方をチラリと見たあと苦渋の表情で



「わかりました」



 と一言告げた。



「ふふ、交渉成立だね。怪我しないでよかったねお嬢ちゃん」



 ミルはそういうとドカッと近くにあった2人がけのソファに座る。その隣にこめかみに手を当て、疲れた表情のダンテが座る。



 その時、ミルにしか聞こえないような小声で囁く。



「娘のように大事にしてたヨルが傷つけられて冷静さをなくしてるな。あのまま姉ちゃんとやりあってたらお前もタダじゃ済まなかったぞ」



「面白いことをいうねぇダンテ。あのお嬢ちゃんは魔道士だろう。この距離なら魔法の詠唱が終わる前に私の拳を土手っ腹をぶちかまして魔法の発動さえさせないよ」



「やっぱ冷静さをなくしてるな。それとも引退して感覚が鈍ったか? さっきの魔法、姉ちゃんはもう発動させてたぞ」



「何を言ってんだい。攻撃魔法にしろ防御魔法にしろ発動したら何かしらの事象が起きるはずだろう? さっきは何も起きなかったじゃないか。現にアンタが止めなかったら私の拳はお嬢ちゃんの腹を貫いてたよ」



 そう言うミルを横目にダンテが無言でソラを指差す。



 するとソラが倒れてる床にうっすらと緑色の魔法陣が出現していた。



「なっ、あれは防御術式の結界!? あの状況で自分じゃなくて坊やの方に魔法をかけたってのかい!」



「ああ、おそらくは自分がお前にやられてもソラには危害を加えられないようにするためだ。しかもあの結界は相当強力だぞ。もしアレを自分に使っていたとしたらなんの加護も発動させずに殴りかかったお前の右手はどうなっただろうな」



 ダンテの言葉に自分の右手を重ねて見る。



「ははっ! あの短時間であのレベルの魔法を発動させて仲間を守るか。なんだいあながちナイトランドの未来にも光はあるじゃないかい。気に入った。早くあの嬢ちゃんの話しを聞きたくなったよ」



 大きく笑ったあとルナを興味深そうにまじまじと見つめる。



 その視線を嫌そうに避けながらルナもまた2人の正面に座った。


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