41.怪鳥クライフ
「なんなの今の声! 魔物?。でもあんな不気味な大声出す魔物なんてCランクで聞いた事ないよ!?」
「今の声は、まさか……」
「知ってる。今の鳴き声を僕は知ってる。忘れたくても、忘れられるはずがない。でも、なんでこんなところで……」
三者三様、響いた怪音に反応する。
そして地をつんざくような不気味な声は奈落の底、深淵の淵、闇のさらに深い闇の穴の中から響きわたる。
「ね、ねえ。ソラ君。なんかあの鳴き声近づいてきてない?」
ヨルが不安に押し潰されそうになりながら声を振り絞る。不安にかられて、ソラの服の裾をつまむ。しかしつかんだその服はカタカタと小さく震えていた。
「……ソラ君」
小さくそう溢した時だ。平地の真ん中に空いた穴から強烈な風が天高く吹き上がった。
そして一匹の巨大な漆黒の鳥が空に飛翔し悠然と羽ばたき3人を黄金の瞳で睨みつける。
その翼には不気味な目の紋様が無数に刻まれている。
それを見たルナが憎悪を込めた眼差しで怪鳥を睨み返す。
「……ついに現れましたね。世界を蝕むニーズヘッグが一匹【怪鳥クライフ】!」
「ギィェェエエエエエエええええ!!!」
かすれた高音で怪鳥が鳴く。大地が揺れ、空気が割れる。
「ね、ねぇ。なんか呼吸がしずらい気がするんだけど気のせいかな」
ヨルが苦しそうに喉に手を当てる。
「いけません。クライフの瘴気が大気を汚染してます。一旦距離をとりましょう。ソラさんもこの場から離れてください」
クライフに視線を合わせて立ち尽くすソラにルナが声をかける。しかしその声に反応する事なく、ソラは立ち尽くす。
「ソラさん?」
不思議に思ったルナがソラの肩に手を置くと、そのままペタリと地面に座り込んだ。その身体はガタガタと震えていた。
「か、身体が、身体が上手く動かない。だってアイツは母さんを殺した魔物。あの時母さんが追い払ってくれたのに。なんで、なんでそれがここにいるの? なんで僕の前に現れるの? また僕を殺そうとするの? また僕から大切なものを奪うの? なんで? どうして? なんでなんだよ!!」
混乱したように奇声に近い声で叫び声を上げる。その顔色は蒼白という言葉以外表現しようがないほど歪なものとなっていた。
震える身体はおさまらず、地面から立つことさえできない。まるで昔のソラが戻ってきてしまったかのようだ。いや、昔のソラ以上に今のソラは魔物に、クライフに怯えていた。
悲痛、悲惨、同情。今の姿を見た人間ならばそんな感情が自然と湧き出るほどに惨めな姿。どんな暴力を振う人間でも一瞬躊躇うほどに憐れでみすぼらしい存在。
だが魔物は非情で冷酷で冷血だ。その力を振り下ろすことに躊躇うことなどない。自らの前でへたり込み、涙を流す存在は玩具であり餌だ。
大きなその翼を羽ばたかせると、その身体を縮ませ獲物を啄むための嘴を光らせ心臓目掛けて一気に急降下する。
「え?」
今の状況ををソラは理解することさえ出来ず飛んでくるクライフをただただ見つめ子供のように疑問の言葉を漏らすだけだった。
野生の強者は準備する時間さえ与えない。




