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幕間 グリードと暗闇の祭壇

「いてぇ。クソがっふざけやがって。なんでこの俺様がこんな目に合わなくちゃいけないんだ。ああ、腹減ったな」



 灯り一つない暗闇の中、人相の悪い男が怒りの形相で歩みを進める。



「これも全部役立たずのパーティーのせいだ。ウスノロは囮にしかならないし、ミギブは戦闘では火力がない。あいつらがもっとしっかりしてれば魔物に追われることもなかったし、あんな落とし穴に落ちることもなかった。咄嗟に『身体強化』の加護を使ってなかったら死んでたぞ。ちくしょうがっ!」



 男の名はグリード。グリード・アシュラム。ソラ達と供に格上のダンジョンに挑み、トラップに引っ掛かり既に死んだとされた男だ。



 だが彼は生きていた。底なしの落とし穴に落ちた時、咄嗟に身体強化の加護を発動しDEFを上げ、穴の途中にあった木の枝にぶつかり落下の勢いが落ちたことで奇跡的に命を取り留めたのだ。



 グリードが落ちた先は光のない通路が永遠と続く一本道だった。落とし穴の深さを考えると元いたところによじ登るのは不可能だと判断し、グリードは永遠と続くこの道を進むことを決めた。



「にしても、なんなんだよここは。丸一日歩いてるのに何も見つからねえ。それどころか魔物の一匹にさえ出会わねえ。何か不思議な力で守られてるのか? それとも魔物でさえ近寄りたくないヤバイものでもあるのか?」





 冷たい風が吹くほかに特に何もない一本道。それが逆にグリードを不安にさせる。本来ダンジョンならばこれだけ歩けば多少なりとも魔物に遭遇するはずだし、何かしらのトラップもあっていい。



 それに暗闇でほとんど周りは見えないがグリードの歩いている道は少しの凹凸もなく舗装されていた。落とし穴に落ちる前のダンジョンは岩場や大地が剥きだしになっており、こんな綺麗な地面ではなかった。



 ブーツの踵で地面を打つとカンカンっと小気味よい金属音が何もない空間に響く。ここは本当にダンジョンなのか不安になってくる。そんな不安定な精神状態のまま後戻りすることも出来ずただただ前に進んでいく。



そして一体どれくらい時間が経過しただろうか。空腹なんてものはとっくに過ぎ、カラカラに乾いた喉に空気が通るたびに痛みを感じる。汗さえ流れることはできない。そんな極限の状態でとうとう一本道の終わりに辿り着く。



 そこにあったのは一枚の大きな壁画だった。



 描かれているのはおぞましい姿の怪鳥がその翼を広げ世界を蹂躙する姿だ。



「これは5年前にナイトランドを襲ったあの死を呼ぶ鳥か? なんでそんなものがここにあるんだよ。そんなことよりこれで終わりか? 嘘だろ。出口は、出口はどこなんだよ。もう来た道を戻る体力なんてねぇぞ!! ここで飢えて死ねっていうのかよ。こんなクソみたいな鳥の絵の前が俺の墓場だってのかよ!!!」



 怒りに任せて最後の力で思いっきり壁画を蹴り上げた。



 すると壁画に描かれた怪鳥の瞳が突如として輝いた。それに呼応するように今まで光一つなかったダンジョンの壁に均等に赤い炎が灯り、一本道を照らし上げる。



「なんだ!? 何が起きてんだよ!!」



 混乱するグリードを置き去りに、ダンジョンはその姿を変えていく。暗闇で見えていなかったが、グリードが立っていた場所は一本道を舗装する無機質な灰色の材質とは違い、明らかに希少な鉱物を使った黒い床だった。そしてそこには『目』をモチーフにした不気味な紋様が所せましと描かれていた。



「なんなんだよ。コレ……」



 あまりの気味悪さに思わず弱音を口にしたときだった。丁度黒の床の中心、グリードの目の前の床が突如せりあがった。



 そしてそのせり上がった床はよくよく見ると台座になっており、それが完全に姿を現すと、一本道を照らしていた炎が突如として暗紫(あんし)色にその姿を変えた。



 おそるおそる台座の中心に目を向けると、そこには干からびた小さな生き物の死骸が横たわっていた。



「なんだよこれ、鳥のミイラ……なのか? でもなんでそれがこんな神でも祀るような仕掛けの中心から出てくるんだよ。それにさっきまでは暗くてわかんなかったけどよ、ここは祭壇なのか? この鳥を祀り上げてるのか」



 グリードの言うように炎に照らされたこの一本道は全てこの黒の一角に導くように道を示しており、黒の床の四隅には古びた鏡と漆黒の勾玉が皿型の燭台の上に置かれていた。蹴った壁画の両角にも過去に捧げられたものなのか腐った果物が置かれていた。



 それはまさに神を祀り崇める祭壇だった。



「ってことは、この黒い鳥がかつて神として崇められてた存在なのかよ。こんな干からびた鳥を手の凝った仕掛けまでして隠して信仰を捧げるなんて密教か何かか? でもこの小さな鳥なんか見たことあるんだよな」



そう言って鳥の亡骸に手を伸ばしその身体に触れた瞬間、グリードの身体は脱力する。



「え?」



 何が起きたかわからず自分の手を見ると、その手は細く干からび無数のしわが刻まれていた。



 さらにそのまま視線を動かすと手だけでなくその足、腰、すべてが干からびたミイラになっていた。



 そして身体を支えることが出来なくなった身体が重力に逆らえず仰向けに倒れた時、その眼に壁に描かれた壁画が飛び込む。



(ああ、そうだ。あの干からびた鳥は壁に描かれた鳥にそっくりなんだ。てことはサイズこそ違うけどあれは怪鳥クライフの雛なのか? 死んだ雛を祀っていたのか? なんのために?)



 絶命する寸前、台座を見るとミイラの鳥と目があった。するとその雛の目がギョロリと動いた。



「あっ、あっ、あ、」



 叫ぶ力さえ残さていなかったグリードはその喉を鳴らし死に絶えた。その死の表情は恐怖と自分はとんでもないことをしてしまったという悔恨に染まっていた。



「ギィィィぇえええええええエエエエっ!!!!!!」



 この日ダンジョンにこの世のものとは思えぬ不気味な鳥の鳴き声が響き渡った。


感想いただきありがとうございます。物語のターニングポイントになる回でした。それにしてもグリードは流石のしぶとさでしたね。

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