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22.始まりの日

 「これがお前の冒険者証だ」

 


 ソラに渡されたのは青色のライセンスにソラ・スフィアの名前とその横にランクが記された一枚のカードだ。



 そのカードを持ってソラは直立不動に固まる。そこには二つの理由があった。ようやく冒険者に慣れた感動とその冒険者証の色とそこに書かれていた文字のせいだ。



「あの、ダンテさん。このライセンス間違えてますよ。僕が合格したのはG級の試験です。なのにこのライセンスの色は僕の実力よりも二つも上のE級の青色ライセンスです」



「間違えてなんていねーよ。あの試験内容をみて贔屓一切なしに俺が判断したんだ。お前の実力はG級なんかじゃねぇってな。俺の権限で飛び級させられるのがE級までだからその色だが、お前がもしまだその実力を隠してるならもしかするとさらに上のD級クラスまではあったかもな。なんにせよそのライセンスは間違いなくお前の物だよ」



 その言葉に思わず固まる。震える声で言葉を絞る。そして



「……僕が青色冒険者。~~~~ッッつつ、やったぁあああああああ」



 その場でライセンスを抱きしめ歓喜の声を上げる。



「おめでとうございますソラさん。ソラさんをそんなに喜ばすなんて熊男もなかなか見どころありますね」



「てめぇ、また俺のことを熊男って言いやがったな。いや、もういい。確かに姉ちゃんの言うとおりだった。俺の見る目がなかった。ソラすまん。この通りだ」



 そう言ってダンテはその額は床つけた。



 その姿にギルド中が騒然とする。それも当たり前だギルドの長が新人(ルーキー)に土下座しているのだから。



「やめてください! ダンテさん。みんな見てますよ。それに僕はそんな細かいこと気にしてません」



「いや、俺は自分の勝手な想いでお前の人生を台無しにするところだったんだ。これくらいは当然だ」



「ちょっと待ってください。もし僕のことを思ってしてくれてるんでしたら今すぐに頭を上げてください。その方が断然僕のためになりますから!!」



 そういってダンテの肩を無理やりひっぱり、頭を起こさせる。



「ダンテさんはこのナイトランドのギルド長なんですからそんなに簡単に頭を下げないでください。それに僕を冒険者から遠ざけようとしてたのは、僕が無茶して死なないように気遣ってくれてたからですよね。そんな人に頭なんて下げさせることはできません」



「おまえ気づいてたのか」



「何回ダンテさんに命を無駄にするなって叱られたと思ってるんですか。流石に気づきますよ。それでも僕は冒険者になることだけは諦めきれなかったんです。だからダンテさんの優しさに気づきながらもずっとこのギルドの門を叩いてしまったんです。こちらこそダンテさんの優しさに応えられなくてごめんなさい」



 そう言って頭を下げた。



「やめろ。なんでお前が頭を下げるんだよ。まったく調子が狂うぜ。俺の経験則だが二色以上の冒険者に上がる奴はみんないい意味で周りの評価を裏切るんだよ。今日のお前はまさにそうだ。完全に俺らの度肝を抜いた。本当にお前ならシエルさんと同じ三色を目指せるかもな」



 そう言ってソラの頭をわしゃわしゃと撫でた。



「ダンテさん」



 その言葉に嬉しそうに言葉を漏らす。



 二人の間になんとも言えない空気が流れるなか、申し訳なさそうな声でルナが口を開く。



「あの~ソラさん。お取込み中のところ申し訳ないのですが、先ほどからおっしゃってる二色とか三色とはなんなのですか?」



「なんだ、姉ちゃんは冒険者じゃないのか。いいか冒険者にはS~Gランクのクラスがある。そしてそのクラスごとにライセンスの色が変わるのさ。ほらここにちょうど見本がある」



 そう言ってダンテは机の上から一枚の羊皮紙をルナに渡した。



 そこには各階級とそれに対応するライセンスの色が記されていた。



冒険者ランク   ライセンス色

Sランク     金+銀+赤

Aランク     金+銀

Bランク     金

Cランク     銀

Dランク     銅

Eランク     青

Fランク     緑

Gランク     赤




「その表見て貰ったらわかるように二色ってのはAランク、三色ってのがSランクだ。基本的にAランク以上の冒険者は化け物ばっかだ。Sランクまで行くと英雄って呼ばれ出すような連中だな」



「ではソラさんの青色は下から三番目なのですね」



「そんな顔するなよ。普通は一番下から始めるんだ。初っ端からEランクってのは冒険者目指してる奴からしたら十分快挙だよ。それにさっきの戦闘を見る限りだとDランクまではわりとすぐ上がれるさ。ただDランクとCランクの間には少し壁があるけどな」



「あらそうなんですか?」



「ああ、基本的にF、Gランクは冒険者としてはひよっこだ。で、D、Eランクになると一人前~中級者になる。まあ普通に安全な地域で冒険者をやるならDランクまでいってれば十分だ。だがCランク以上は意味が違ってくる」



「意味?」



「そうだ。Cランク以上は上級者とみなされる。その成果報酬はDランクと比べものにならないし、普通は入れないような遺跡や地域に入れる権限も手に入る。その一方で有力者が出す特別なクエストを受注する義務が出てくる」



「ふ~んそれは必ず受けなくてはいけないんですか?」



「いや相応のペナルティを払えば問題ない。大体の場合は金が多いが内容によっては厳罰に処されたり、場合によっては冒険者証の停止、剥奪までされることがある」



「それはまた厄介ですね」



「まあな。だが本当に厄介なのはここからだ。もちろんクエストを発注する側は冒険者が依頼を達成したら報酬を払わなければならない。だが依頼する冒険者のランクが高いほど報酬は高額になる。だから依頼者たちはC級の冒険者に無茶な依頼を押し付けることが多いのさ。そういった事情もあって冒険者の中で駆け出しのG級に次いでC級が一番死亡率が高いクラスになっている」



「なるほど。つまりギルドが無能という話ですね。依頼者の権力に尻尾を振って冒険者に無理難題を押し付けていると」



「たしかに否定はできねぇ。俺らもあまりにランクにあってない依頼を下位の冒険者に押し付けようとしてきたら突っぱねるさ。だけど依頼者側もあの手この手で依頼の難易度を偽る手段を打ってくるのさ。だから俺たちはD級からC級への昇給条件を厳しく設定している。ギルドにもよるがここだったらB級以上の魔物を討伐ってな具合にな」



「だいたいわかりました。ソラさんならきっとすぐB級の魔物ぐらい討伐してしまいますわ」



 その言葉にダンテの顔が曇る。



「あんたがソラのなんなのかはわからないが、もしB級の魔物を甘く見てるようなら今すぐ認識を改めろ。B級以上の魔物はC級の魔物とは別格だ。B級以上の魔物はそのランクの中でも『B -』『B』『B +』と階級が分かれる。その1番下の『B -』でさえC 級でパーティーを組むなら最低20人は欲しい。それでもパーティーの何人かは死んじまうかもしれねぇ」



 そしてダンテはソラの方に顔を向ける。



「おいソラ。お前もそこら辺はわかってんだよな。俺はお前をみすみす殺すために冒険者にしたんじゃねえぞ」



「わかってます。僕は確かにSランクを目指します。でもそれは自分の命を捨てたいからじゃない。大切な人の命を守りたいからです。だから僕は大切な人達を守るために簡単に無茶なことをしませんよ」



「ふんっ、ちょっとみないうちにいっぱしの口をきくようになったじゃねぇか。どうだ姉ちゃん他に聞きたいことはあるか」



「クエストはどうやって受けるのですか?」



「ああ、それならそこにクエストボードがあるからそこから自分のランクに合ったものをこなせばいい。護衛とか人数が集まったら即クエスト募集締め切りの類の依頼はクエスト開始前に受付で手続きをとる必要があるし、逆に採取クエストなんかは物を手に入れてからクエストボードと照らし合わせて該当のクエストがあれば物を持って受付に行ってくれれば、特に開始前に受付する必要もない。ま、ここら辺はソラがよく知ってるよ」



「うん。任せてルナさん」



「とりあえず説明はこんなところだな。ほかに質問はないか」



「ええ、大丈夫です」



「そうか、ならお前の未来が輝くものになることを俺もギルド長として願ってる。がんばれよ」



「はいっ!!」



 元気よく純粋な瞳で返事をしたソラの背中をダンテが叩く。そしてそれに押されるようにギルドの出口へと足を進める。



 そう全ての始まり、輝かしい未来、美しい光景。これがその歩みを始める一日だ。そしてそれをソラはルナと一緒に歩み始める。そしてふとルナの方に目をやるとなぜかルナはソラについてこずダンテの横で立ち止まっていた。



「あれ? なんで立ち止まってるんですか? 帰らないんですか?」



「いえ、私はまだ熊男との約束が残ってますのでそれを見てから帰ろうかと思って♪」



 その言葉にダンテの肩がビクッと震える。



「熊男、私とした約束は土下座の他にもう一個ありましたよね」



 笑顔でそういうルナにその場にいた冒険者全員の心が一つになる。



(((この美女鬼畜が過ぎる!!)))



 ルナの言葉に錆びついた機械のようにギ、ギ、ギとダンテが振り向く。



「……もう一つの約束?」



 額に脂汗を浮かべながら懇願の表情で許してくれないかという声色でそう言葉を繰り返す。



 その表情を見てルナは人差し指を立て数字の1を示しそれを自分の唇に当てる。



「そうもう一つです。もちろん忘れてないですよね ハ・ダ・カ・踊り♪ 私約束は覚えてるたちなんです。絶対に忘れませんよ」



 そういうと自ら立てた人差し指にキスした後、エメラルドグリーンの瞳でウインクしてみせた。



 その姿を見て、ダンテの顔が完全な蒼白になる。絶対にこの女は許してくれない。ドSだ。間違いなくこの女はドSだ。しかも質の悪いドSだ。ダンテの心に『ドS』の二文字が所せましとひしめき合う。



 そんな最中、ルナとダンテの視線がガッツリと合う。ダンテの表情が強張っているのに対しルナはニコーッとした笑みを浮かべ続ける。無言の決闘の勝敗は瞬時に下される。ルナの圧勝である。



 観念したようにダンテが叫ぶ。



「わかった! 俺がした約束だ。そもそも反故にしようとすること自体がおかしかった。いいだろう。やってやろおじゃねぇか裸踊り!! てめえら目ん玉かっぽじってよーく見てろ!!」



 そう言って勢いよく上着を脱ぎ棄て、その手を麻地のズボンの縁に置いた。



「「「ギルド長!?」」」



 その姿を見てギルドのスタッフたちがダンテにズボンをおろさせまいと必死でその手にしがみつく。



 冒険者たちは自分達はこれから何を見せられるんだと気分の悪そうな顔を皆一様に見せる。



「ダメです。ギルド長。ギルド長がギルド内で全裸になるなんて前代未聞です!! 下手したらギルド本部にまで連絡がいきますよ!?」



「うるせぇおまえら離せ。あの女は絶対にこの俺が裸で踊るまで許さない。そういう女だ。そうだろ!!」



 その言葉に職員たちがルナの方をみるがルナはびっくりするほど綺麗な笑顔で



「はい。許しません♪」



 とほほ笑んでいた。



 その笑顔をみて職員たちも思う。誰もこの女性を止めることはできないと。その天性の美しさかからなのかまるで人間ではないような逆らうことのできないオーラを感じ取った。そして職員達の手は自然とダンテが降ろしかけていたズボンから離れた。



 残す布はその股間を覆う縞々のパンツ一枚となったダンテがとうとうその最後の城壁を自ら破ろうと、両手をバリスタが如く勢いよくパンツの縁に突っ込んだ。



 そうだこの場は全てあの絶世の美女に支配されているのだ。下民は従うことしかできない。誰も逆らうことなんかはできないのだ。誰もがそう思い、ダンテが断腸の思いでバリスタを射出しようとしたとき



「ルナさん」



 この支配を打ち破るような涼しげな声が響いた。それは今日冒険者になったルーキーのものだった。ギルドにいた者たちは皆思う。やめろ女王に逆らうなと、しかしこの結末は意外な方向に転がり始める。



「はい♪ なんですかソラさん」



「もしダンテさんに本当に裸踊りなんかさせたら僕本気で怒るよ?」



 ルーキーが少しトーンを落としていった短い言葉。そんなことを言ったら女王がお怒りになられお前も裸踊りをさせられるぞと誰もが思った。



しかしこの一言に表情を大きく崩したのは女王の方だった。何をやってもあの笑顔は崩れないと思ったが子ウサギのような少年の一言であっけなくその牙城は崩れ去った。



「ふぇっ!? ソラさんに嫌われる!? じょ、冗談ですよ。冗談に決まってるじゃないですか。裸踊りなんてさせるわけないじゃないですか。さ、早く帰りましょソラさん♪」



 女王が明らかに取り乱し、ルーキーに嫌われないように必死に取り繕い尻尾を振っていた。そんな女王に対してルーキーは何やら文句を言いながらも一緒に冒険者ギルドを出ていく。



 その一部始終を見ていた者たちは二度とソラのことを『ウスノロ』と呼ぶことはなく影で『女王を従えし者(エリザベステイマー)』と呼ぶようになったという。



 そんな二人の姿を見送ってダンテは深いため息を零したあと思わず笑みを浮かべた。



「まったくとんでもない女だ。でもなんだかんだ良い相棒を持ったなソラ。お前がそんなに誰かと対等に楽しそうに話してるところあの日以来初めて見たよ。さあお前ら(・・・)いい冒険者になってくれよ」



 まだ騒然としているギルドのなか、二人が出ていった冒険者ギルドのドアの向こうには無限の青空が広がっていた。


ナイトランドにいる現役の冒険者の最高ランクはBランクです。ナイトランド自体が8大国の中で最も安全といわれているため昔グリードが言ってたことはあながち嘘じゃなかったりします。

ただ安全が故、強い冒険者がおらず5年前の大災害では大きな被害を受けてしまったのですが……

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