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11.ソラと美女と加護

 舌の上に残った甘酸っぱい魅惑の官能に意識が朦朧とする中、美女の言葉を必死に理解しようとする。



 だがその意味はおそらく正常な意識の下でも理解することは出来なかっただろう。



 疑問はすぐに腹の底から甘い舌を滑って溢れでる。



「え? 準備? それに反撃ってどういうことですか!?」



 優しく微笑む美女に早口に疑問を投げかける。それもそうだ今のこの状況は一刻の猶予もないのだ。



 いつ狼の群れが自分達に襲いかかってきてもおかしくないそんな状況の中、美女は再びソラをギュッと強く抱きしめ、耳元でソッと身体の中をくすぐるように囁く。



「その答えはもうソラさんの中にありますよ。ほら、新たな力の芽生えを感じるでしょ?」



「……力の芽生?」



 ソラがそう繰り返した時、獲物が固まったのをチャンスと見た狼達が一斉に飛びかかる。



「いけない! 離れて! あなただけでも逃げてください!!」



 ソラは美女だけでもこの場から長そうとその柔らかな胸を思い切り押すが、美女はその華奢な腕を首に回し、さらに強く抱きしめる。



「優しいソラさんなら私だけでも逃がそうとして、そうされると思ってました。でも絶対に離しません。だって私ソラさんから離れたら死んじゃいますから。そんなことより、さあ新しい力を使ってください。それはもうソラさんのものです」



「いったい何を言ってるんですか!? 新しい力ってそんなもの……」



 そう言いかけた時、再びソラの頭に透明な声が響く。



ーーー加護『俊足』を使用しますか?



「え!? 『俊足』ってブラックウルフの加護の? それに使用するしますかって、それってまさか、でも、……いや、やるしかない! 【俊足】!! 」



 瞬間、ソラの両足が淡く輝く。そして大地を思い切り蹴るとその身体は一瞬のうちに狼達から遥か遠くに運ばれていた。



 にわかには信じることは出来ない。まさか他人の、それも魔物の加護を自分が使ったなんて常識の遥か外、異常以外の言葉が見つからない程の破格の出来事だ。



「ソラさんボーッとしてはいけませんよ。【俊足】はソラさんだけでなくブラックウルフも使うことが出来るのですから。それよりチャンスです。今の俊足で狼達はソラさんを見失ってます。まずはあの群からはずれているアイスウルフを倒しましょう! そしたらまた私とさっきの続きですよ」



 お姫様抱っこのような形で抱かれる美女の言葉にソラは赤い顔で頷く。



「【俊足】!! せいっ!!」



 黒色の刃に赤が混じる。



 完全な死角から急所の首を深く削られたアイスウルフが断末魔を上げその場に倒れる。



「流石ですソラさん! あんっ、経験値がやってきました♡ ソラさん、残りの狼たちが来る前に急いでキスしましょう!!」



「えっ、あ、は、はい!」



 その言葉に思わず舌を噛む。



 すると美女がソラの蒼い瞳を真っすぐと見つめる。吸い込まれそうな程、透き通ったエメラルドグリーンが蒼に映る。思わずドギマギとし、視線を外そうとするが美女はそれを許さず、ソラの頬にそっと手を当て唇を重ねる。



 恥ずかしさに目をギュッと瞑ると、キスをしたまま美女が口を開く。



「ふぉふぁはん(ソラさん)。ふぇんとーふうふぇすよ(戦闘中ですよ)。ふぇふぉあふぇふぇふははい(目を開けてください)」



「あっわわわわわ~」



 口の中に舌を入れたまま発せられた言葉が空気となって身体の内側をゾクゾクと撫であげる。



 くすぐったくてこしょばい快感。



 開いた瞳にはそんなソラを見て面白そうに微笑み、さらに激しく舌を絡ませる美女が映っていた。



「ンんんんんんーーーーーーっッッツ!?!?!?!?!?」



 美女の舌が複雑に深く、絡まるにつれて、今まで感じたことのない感覚が下半身から脳髄までせりあがり思わず大きく声を出した。



 そんなソラを見て、蜂蜜のように甘くとろける刺激と快感をソラに残し満足そうにゆっくりと美女は唇を離す。



「これでまた新しい力が宿りました。さあソラさん戦いましょう!」



「い、今から戦い? お腹の底のほうがゾクゾクして体ににうまく力が入らないんですが……」



「大丈夫です。ソラさんならあんなイヌっころ達なんて楽勝です! ほらまた襲い掛かってきますよ」



 美女の言う通りソラ達の姿を捉えた狼達が再び威嚇の声を上げてこちらを睨みつけている。



「うう、やるしかないのか」



「そうです。やるしかありません! さあ心の声に耳を向けてください」



 ゆっくりと自分の心に耳を傾ける。すると再びあの声が聞こえてくる。



ーーー加護『氷針柱(アイスニードル)』を使用しますか?



 その言葉に即頷き、美女をその場にそっとおろし、両手を前にかざす。



「【氷針柱(アイスニードル)】!!」




 ピキピキピキッと空間が凍る音が響く。掲げた両手の前に二柱の鋭利な突針部を持った氷の塊が浮かびあがる。



 そしてソラは狼全体を視野に捉え、この一撃が一番効果的であろう場所に向かって照準を合わせ、時間差で射出する。



 しかし氷柱の一本は、狼達の群れの手前に突き刺さりもう一本は遥か上空へと姿を消した。



 一本目の氷柱が外れたのを見て狼達は嬉しそうに禍々しくその喉を鳴らし、ブラックウルフは『俊足』を発動させ、アイスウルフはその場で『氷針柱』を創り始める。



 延べ18本の氷の柱が形成される、そして9匹のブラックウルフがソラに狙いを定める。



 まさに絶対絶命の状況。



「ああ、やっぱりこうなると思ってたよ。【俊足】」



 ソラは一言そう漏らすと、狼達と距離をとるように後方に飛ぶ。それを追撃しようと狼達が大地を蹴ろうとしたときだった。



 遥か上空より巨大な岩盤が狼達の群れに落下してきた。



「グルォォォおおおおおおおおお!?!?!?!?!?」



 完全にソラに意識が向いていた狼達は上空からの予想外の落盤に成すすべなく潰れいていく。



 その様子を見て、美女が心底嬉しそうにとろけきった顔で口を開く。



「ああ、すばらしい。すばらしいです。ソラさん。一本目の氷針柱は狼達をその場に足止めさせて、なおかつ落盤が起きた時に氷柱自体が敵の動きを阻害する位置に撃つ。

さらに俊足を使って真後ろに飛ぶことで狼達の意識を自分に向けさせることで落盤に気づかせないようにする。この戦術センスもすばらしいですが、何よりもすごいのは……」



 崩れた落盤の中から一匹の狼が猛スピードでソラの元へと襲い掛かってくる。俊足を発動していて辛くも落盤から逃れることができた個体は、仲間を殺された怒り全てをその牙に込めて、『俊足』を使い、思い切り大地を蹴り、ソラに飛び掛かる。



「ああ、君たちこの『俊足』のスキルだけど使うときはあまり大きく飛ばない方がいい。脚力が強化される分、一歩で進む距離があまりに大きくなりすぎてタイミングを計られたら簡単にカウンターをくらっちゃうよ? こんな風にね」



 そう言ってソラは黒色のナイフを思い切り振り抜いた。



 ブラックウルフの猛スピードと刃の軌跡が完璧なタイミングで重なる。



 ほどなくして黒の刃の軌跡になぞりゴトリという音をたて最後の狼の首がソラの後ろに落ちた。



「何よりも凄いのは加護に対する理解力! たった今自分の加護になったばかりなのにそれをオリジナル以上に使いこなすその圧倒的センス!! ああ、ほんとにほんとに素敵ですソラさん。あなたが私のご主人様(マスター)で本当に嬉しいです」



 うっとりとした目でソラを見つめる美女を尻目にソラは今までの緊張と疲れを吐き出すように大きく息を吐いた後、今まで感じたことのない充実感とともにその場に座り込み、そのまま仰向けに寝転んだ。



 今日ようやく5年間の呪縛から解放されたその瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。


加護は大きく分けると三種類の系統があります。



魔法系統:いろいろと応用が利き術者の練度次第でその力を大きく変える。ただし発動には詠唱が必要となる

例)エルザの赤魔導士など


スキル系統:詠唱は不要だが。あまり応用性はなく、基本的に効果は発動するかしないかの二択

例)ミギブの嗅覚強化。ウルフの俊足、氷針柱


ユニーク系統:上記いずれにも属さず謎の多い系統。ものによってスキルよりだったり魔法よりだったりするがあまりにも謎の多い加護。一点ものの加護であることが多い

例)ソラの授かる者

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