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第八話:√メイドを立ててみたい

第八話

「おはよう」

「おはようっ」

 最近、俺達2-Bのメンツは朝が早い。

「お水ですよ」

 メイドの波恵さんが教室に置かれている食虫植物に水をやっている光景を見るだけでいい気分になれるからだ。食虫植物に水を毎回やるのが正しい事なのか、そもそもあれは食虫植物なのかは不明だ。

「今日も一日頑張りましょうね」

 微笑みを見てため息をつく者も多い。最近では隣のクラスから男子生徒が来たりもする。

「ああ、癒されるなぁ」

「心が満たされる」

 男子全員でその光景を眺めている。おまけのご主人様と一緒に転校してきて五日経ち、これが朝の日課になっていた。

 何せ、最後には俺たちにも手を振ってくれるからな。あんな笑顔を向けられたら男なんてイチコロリだ。

 今日は珍しくメイド服ではなくここの学園の女子制服を着ていた。

「神々しいな」

「いいな、メイド」

「おれ、将来は金持ちになるわ」

「ぼくは科学者になってメイドロボ作る」

 日課が終わると現実で出来そうな範囲でメイドを手に入れる方法を話しあっていた。

「アホくさ」

 そして俺の隣人はこんな事を言う人間だったりする。

「メイドのどこがいいんだか」

「千鶴はわかってないな。男は誰だって世話されたいものさ……」

 世話やき女房希望……どこら辺の子を射止めればそうなれるんだろうか。

「なんだ、お前はおれに世話されたいのか」

「いや、別に。ああいう優しい子にされたいだけ」

 俺らの会話に他のクラスメートも入ってくる。

「山野にはお世話されたくないな」

「あれだ、余計なお世話ってやつだな」

「意外とドジっ子かもしれないよ?」

「仕事できない、可愛くない、頭悪い、口悪いかぁ……駄メイドだな」

「あはははっ」

 男子一同がそんな感じで笑った。

「お前ら、いい度胸してるな。きっちり、仕事が出来るところを見せてやる……覚悟してくださいね、ご主人様方」

 そして、五分後には悲鳴に変わっていた。

 変な事を言った男子が悪いと言う結果に落ち着き、クラスの男子の半数が保健室に送られていったのだった。

「あの、大丈夫ですか?」

「ああ、俺ですか。俺は大丈夫ですよ」

 唯一無傷で生き残った俺は波恵さんにほほ笑んでおく。

「そうですか。波恵のことで男子の方々が山野さんと喧嘩されているようでしたので……」

 波恵さんは自分のことを名前で呼んでいる珍しいタイプの人だった。

 それは別にいいとして、男子に話しかけてくるなんて初めてではないだろうか。

 もしかして俺は特別なのでは? そんな淡い期待を心の片隅に置いて平常心を保つ。

「今日はメイド服じゃないんですね」

「ええ、風邪をひいて奏様はお休みされていますから」

 ご主人さまをほっぽり出して学園なんかに来ていいのかと思っていたらどうやら顔に出ていたらしい。

「家では別のメイドが奏様のお世話をしています。今日の波恵は留年した一歳年上の同級生ですよ。普段は仕事で学園に在籍していますが、お嬢様が何らかの事情で学園に来られない場合はメイドではありません」

「そうなんですか」

「はい、同級生ですから敬語を使わなくていいですよ」

 微笑まれて俺のハートは高鳴った。

「い、いや、でもやっぱり年上ですからね」

「うっ、やっぱり年上に見えますか」

 そういえばこの人年増に見られる事を嫌がってたな。

「でも、俺、年上好きですよ。波恵さんとか俺の好みにどんぴしゃです」

「え?」

「あ……えーと」

 何だろうか、誤解されるような言い方をしてしまった気がする。

 俺が更に墓穴を掘る前に波恵さんがほほ笑んでくれた。

「ありがとうございます。私も冬治さんのような方、嫌いじゃありませんよ。ですから、波恵が生徒の時は積極的に話しかけてきてくださいね。仕事の時はあまり私語ができませんから」

 どうやら誤解される事は無く、いい方向へ向かっているらしい。

「はい」

「ところで冬治さんはどこに住んでいるのですか」

「この近くのアパートの一室です。一人暮らしをしているんですがね……その部屋、俺の寝室のすぐ隣の部屋が開かずの部屋なんですよ。鍵があって入れないし……お化けが出るとか何とか」

「こ、怖いですね」

「まだ幽霊は見かけてないですけどね。見たら報告します」

「しなくていいですっ」

 その後は彼女の主人である青空の話になったり、波恵さんの仕事の話をして昼休みを過ごした。

 男子連中がボロボロになって帰ってきて恨めしげな視線を向けてきたって気にしない。


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