第七話:金持ちが通る
第七話
金持ちが金持ちたる由縁……資金が潤沢である事。『貧乏な金持ち』という矛盾した存在はまだ見た事がないし。ケチな金持ちは結構見たことあるけどさ。
「そこのあんた、五百円上げるからジュース買ってきなさい。残りは小遣いにしていいわ」
「そこのあんた、この問題の答え教えなさい。二百円あげるから」
「そこのあんた、邪魔だから黒板の前に立たないで。どいたら三百円あげるわ」
生徒にとっては……特に、貧乏な人にとってはなかなかいい事だと思う。おそらく、大抵の人間が上記の命令を聞くだろう。
問題は、授業中に(二番目は小テスト中)教師に対して向けられた言葉だと言う事だろうな。
「今は授業中よ」
「小テスト中だから自分で解け」
「ご、ごめんなさいっ」
そして、これが受け答えだったりする。三番目である担任の四季先生にはぜひ頑張っていただきたい。
まぁ、結構前に出るタイプである青空奏はクラスメートから物珍しげな視線を集めつつある。
ちなみに彼女のメイドさんはいい人なのでご主人様とのギャップもあってか、かなり人気である。男子生徒全てを掌握してしまった。
彼女が転校してきて四日経ち、生態が判明しつつある。
とりあえず目があったら金の力を見せつけようとする。
とりあえず邪魔だと感じたら金の力を使う。
とりあえずお金が落ちていたら一円でも拾う。意外とケチ。
「おこぼれが欲しいと言う人間と、プライドの方が大事だって人間に分かれたか」
男子が半分、女子が半分で結構いい感じに分かれたようである。おそらく、プライドの方が大事だと言う人間もある程度の金を積めばころっと態度を変えるだろうな。
「冬治はどっちだ」
千鶴の言葉に首をすくめる。
「そらぁね、胸がもうちょいでかかったら取り巻きになってたわ」
「……」
「うそうそ冗談だってば。俺はどっちってわけでもない。千鶴は金に目がくらんだ口か?」
「おれはないね。金の力じゃねぇ、人間ってのは力尽くなんだよ」
可哀想に……千鶴たんは大人の力、イコール金をまだ知らないのか。
愛とか友情よりも人生お金が必要である。ただ、手段と目的を見失って金に走っちゃいけない。
「おい、なんだその目は」
「気にするな」
軽く優越感に浸っていると青空が教室へやってきた。
「あんなに嫌なやつなのに意外と嫌っている奴、少ないよな」
「ま、転校生は一人じゃないってことだよ」
特別視されているものの、このクラスは競争率が高いので(俺以外の転校生)視線が一気に向けられるわけでもない。
話している俺達の方へと向かってきた。大方、自分の席へ進むのだろう。
「どきなさい」
訂正、一直線に自分の席へ進むのだろう。
進行方向に俺たちがいたからか青空奏は足をとめてそんな事を言ってきた。
「ああ、悪い」
どこうとしたら俺の腕を千鶴が握りしめる。
「やん、みんなが見てる前でそんな大胆なっ……いたたたっ……」
「なんでどかなきゃいけないんだ。おれらが話してた所にお前が来たんだ。そっちが迂回すりゃいいだろ」
あからさまな喧嘩腰に青空の方も黙っちゃいなかった。こういう時に場を鎮めると思っていたメイドさんも動かず見守っているだけだ。
クラスメートたちも徐々に俺達の周りに集まり始める。
「何? あなたわたしのお金が羨ましくて邪魔してるの?」
「はぁ?」
万札を広げて仰ぎ始める。こんなのが日常になりつつある教室に転校してくるなんて一か月前の俺は知らなかった。知って居たら考え直していたかもしれない。
「んなわけあるかっ」
「じゃあ、一枚あげるからどいて」
「うっ……しょ、しょうがねぇな」
早速ユキチに目がくらんだ隣人を煽ってみることにした。
「ぷっ、散々でかい口叩いた割にはたった一枚で動くんだな」
てっきり『そんなわけあるかっ。いくら積まれたってどいてやるかっ』とでも言うのかと思えばさっさと一人のユキチをひったくって道を開けた。
「こ、今月は厳しいんだよっ。そんな目で見るんじゃねぇっ」
「……千鶴たんには失望した」
一生懸命いいわけする隣人を情けなく思う。
「それで、あなたはどうするの?」
勝ち誇った瞳で俺に問いかけてくる相手に首をすくめる。
「どくさ」
「お、お前だっておれと一緒じゃないかっ」
「俺は元からどくつもりだっただろ。いじわるしたって一銭の得にもならないし……それに、もう授業が始まるからな」
「受け取りなさい」
「別に要らないよ」
飛んできたユキチをメイドさんに渡して俺は席に着いたのだった。
「ほんと、千鶴たんはダメ人間だな」
「ぐっ……」
「お金を渡されれば何でもするんだろうなぁ……しょぼっ」
何の事は無い、さっき思いっきり腕を掴まれたお返しを隣人にしたいだけだったりする。




