第六話:許嫁、動く
第六話
転校生三号、つまりは自称許嫁を取り扱うのは非常に難しい。
間違いなく、突いたら蛇が出るだろうし、爆発するかもしれない。
そう言うわけでこれまで放置していた。自称許嫁が転校してきて次の日の放課後、しびれを切らしたのかとうとう行動に移ったようだった。
「冬治君、一緒に帰ろ?」
舌ったらずな口調で近づいてきた。そんな自称許嫁に俺は右手で待ったをかける。
「何が狙いだ」
「え?」
「俺の身体か? それとも金か?」
実は俺が天下の青空グループの影の実力者の息子だった。もしくは、俺の両親がびっくりするほどの金持ちで既成事実をでっちあげてその財産を狙っていた。
うん、自分で考えておいて申し訳ないけどさすがにこの設定はないな。
「やっぱり、からかってるだけなんだろ。適当に『わたしぃ、誰々の許嫁なんですぅ』とかいっときゃ人気が出るとか思ったら大間違いだ」
「え? 違うよ?」
「俺には君みたいな可愛い許嫁なんていないぞ」
「みんながいる前で可愛いだなんて……」
ぽっと照れている許嫁に俺は断言する。
「ともかく、俺は君が許嫁だなんて信じなっ……」
「うっ……うええっ。そ、そんなっ、ひどいよーっ」
いきなり泣き出した。
まだ多くのクラスメートがいるのに遠慮なく泣いている。俺が何か言葉を発するよりも周囲からの視線が刺さる刺さる……磁石に群がる砂鉄のようだ。
「え? 何で鈴蘭ちゃん泣いてるの?」
「旦那が泣かしたらしいぜ?」
「マジか。それなら旦那埋めるか」
「おう」
この時点でとび蹴りとか飛んできてる。奇跡的に五発避けた俺を誰か褒めてほしい。
そして、女子からもそれなりの言葉をいただいている。
「うっそ、自分の許嫁泣かせるとかマジひどくない?」
「ああいう男、ないわ」
「うちもそう思う」
四面楚歌とはこういう事か。
身をもって四文字熟語を思い知った俺は今後のことを考えるしかない。
つまり、保身だ。転校生にホームなんて場所は文字通り自宅しかないので慣れ親しんでいないクラスはアウェーなのだ。
「お、俺が悪かったよ。ちょっとびっくりしただけだからさ。ほら、一緒に帰ろうぜ?」
「ううっ……ほんと?」
「ほんとほんと。冬治、嘘つかない」
何度も首を動かして素早く地藤の手を掴む。たったそれだけのことで彼女はぱっと笑顔になった。
そのまま逃げるように廊下へと場所を移す。
「ったく……何なんだ一体。ほら、手を放してくれよ」
手を放すとすぐ顔がゆがめられる。
「え、何で手を放すの?」
涙がセットされているではないか。
「あ、ちょっと手が汚れてたからな。うん、ちょっと拭かせてくれ」
「そうなんだ」
にこにこしながら俺の手を見ている。仕方がないのでハンカチで手を拭こうとハンカチを探すも、そんなものポケットに入れているわけがない。
「おかしいな」
「ハンカチがないの? はい、貸してあげるね」
差し出されたアニメの(ア○○ンマン……)ハンカチをしげしげと眺める。
「色んな意味で凄いな」
「あれ? 手を拭かないの?」
すでに不安そうな顔をしている。一瞬のうちに涙が眼の淵へ再びセットされていた。
「借りる借りる。悪いな」
「ううん、気にしないで。許嫁だから」
「その事なんだけどさっ」
ハンカチを押し返すような形で渡して言葉を切りこませる。
「俺には許嫁の話が来てないみたいなんだけど詳しく教えてくれないかな」
「え? そうなの?」
きょとんとされてほっとする。
既に泣き叫ぶ姿がトラウマものになりつつある……俺の心、凄く弱いな。
「じゃあさ、冬治君の部屋に連れて行ってよ。そうしたら詳しく教えてあげられるよ」
「何で俺の部屋なんだ」
「ダメ、なの?」
「あああっ……わかったよっ。だから泣くんじゃないっ」
あれだ、四面楚歌に続く……泣く子はなまはげに勝てない、じゃないな。
泣く子と鈴蘭には敵わないだな。




