第五話:屋根の上のアイドル
第五話
転校生が売り出し中のアイドルだから人だかりが出来るのは必然か。
少なくとも、何の変哲もない俺よりはアイドルが転校してきて人気が出るのは間違いないな。
「くそ、俺が転校してきたときより人が多い。そして、次の日には飽きられると思っていたのにまだ人が集まるだと……」
男子女子から支持を受けており、取り巻きが結構多かった。転校してきて三日経つと言うのに衰えを知らない。三日経てば転校生熱も収まると思ったのに。
廊下にはちらほらと下級生、上級生の姿も見受けられる。見に来たのは間違いないだろう……。
「アイドルに嫉妬しても始まらないだろ。そんなにいちゃいちゃされたいのかよ」
「あくまで俺は転校生として嫉妬しているだけだ」
あと、いちゃいちゃではなくちやほやだと思う。ボケたのだろうか?
「嫉妬なんてくだらねぇだろう。傍から見たら馬鹿だと思われてるぜ」
「まぁ、それもそうか」
隣の不良から指摘されて何となく恥ずかしくなってきた。
「つーかよ、昨日の放課後、あいつ告白されてたぜ?」
千鶴の言葉に俺は黙るしかない。
「マジかよ。もう突撃した勇者がいるのか。もしかしてあのアイドルが話題作りのために金を渡して誰かに『私に告白して』と言ったんじゃないのか。そろそろ転校生としての物珍しさが足りないかなとか思って」
俺の言葉に千鶴は凄く馬鹿を見るような目をしてきた。
「おまえ、そんなに転校生としての座を奪われたの悔しいのかよ」
「こちとら前の学園から爪弾きされたような生徒だからな。これでも特待生なんだぜ?」
胸を張ってみるけどいまいち効果がなかった。首をかしげられている。
お前みたいなやつでも特待生になれるのならおれもなれるなと思っていたりするのだろうか?
「特待生って何だ?」
「……もういいよ。それで、アイドルに告白した奴はどんな奴だ」
思っていた以上に隣人の脳内が酷いようなので話を進めることにした。
「アメフト部の主将だ。すごくもてる」
「……男から?」
「何で男なんだよ。女からだよ」
全く、女子の友達(一部除く)はこういう冗談が通じないから困るな。
「それで、結果は?」
「えーとだな……こほん、『ごめんなさいっ。私受ける方じゃなくて攻める女の子なのっ』くっだらねぇ」
千鶴のその言葉に俺は驚いていた。
「千鶴は凄く可愛い声だせるのな」
「あ?」
「さっきの声音で冬治きゅん大好きって言ってくれ。さぁ、早くっ」
返事はグーだった。
思った以上にクリーンヒットした一撃は俺の時間を夕方まで進めていたりする。
「……帰るか」
放課後、アパートに帰る近道を通っていると猫の威嚇する声が聞こえてきた。
「なんだなんだ雌猫の取り合いか?」
部活に入っていなければ勉強に明け暮れているわけでもない。猫の生活でも見て和むかと俺は声のするほうへと壁を超え、余所様の家の屋根を伝ってその場へと向かった。
「へっ、たかが餌を踏んだだけでぎゃーぎゃー騒ぐんじゃねぇよ」
声音はともかく、セリフだけを聞くと千鶴が屋根の上に居るんじゃないかと思ってしまった。
「あれは……」
下からは絶対に見られないような場所で転校生のアイドルが猫の餌を踏みにじっていたのだ。餌をぐちゃぐちゃにされた猫は全身の毛を逆立てて怒っている。
「そんなに餌が欲しいのか? ほぅら、とってこいよ」
そういって猫缶を蹴っ飛ばした。
猫は自分に缶が飛んでくるとでも思ったのか官が蹴られると同時に姿を消してしまっていた。
「あー、すっきりした……ん?」
すごくいい表情でアイドルはそう言うとようやく俺に気付いたらしい。
これはチャンスではないだろうか? 転校してきて調子に乗っているアイドルに対して『この事をバラされたくなかったら俺の言う事を聞くんだな……ぐへへへへ……』と言える絶好のチャンスのはずだ。
「……」
ほら、見てみろ。無言で彼女は俺に近づいてきた。これは助けてくれと望む者の……。
「あれ? 胸倉掴まれた」
「この事を誰かに喋ったら社会的に抹殺するぞ。いきなり押し倒してきたとか言ってな。わーったか」
「うぐっ」
腹部にいい感じのひざ蹴りをかまされ、放り投げられる。
屋根の上で投げられたために、危うく下に落ちるかと思った。
「ああ、思いだした。あんた、私がせっかく手を振ったのにシカトこいた奴じゃん」
口が悪い上に執念深い奴と来たか。
何だかこのままここに居たら屋根から落とされるんじゃないかと思えてきた。
「何とか言えよ」
こ、こえええ……千鶴より恐いんじゃないのか、これ。
綺麗な子が怒ったら怖いんだなぁ……。
目前まで迫ったアイドルに俺は逃げると言う選択肢を選んだ。
「ああーっ、あんなところにパパラッチがっ」
「何っ!」
振り向いた相手の隙を見逃さず近くの塀に飛び降りて逃げるのだった。
少々、情けなかったりもする。




