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第四十五話:空がアイドルを辞める日

第四十五話

 今は普通のクラスメートになってしまったアイドルもテレビに出れば話が違う。熱狂しているファン達が昼間から天導時空に向かって手を振っているようだ。

「あー、こたつに蜜柑、今死んでもいい……」

「冬治ー、お茶が無くなった」

「はいはい」

 期末以降、俺の部屋に入り浸るようになった亜子と千鶴たん……俺の両親がいないので好き勝手やりまくっている。

「へー、これがテレビに出ている時の天導時かぁ」

 渋茶を啜る姿は彼女の将来を暗示しているようだ。

 そんな千鶴たんの隣に座って時計を見る。

「四時半か」

「そろそろライブも終わりみたいだね」

 亜子がそう言うと同時にマイクをもった天導時がファン達に手を振っていた。どうやら、最後の歌が終わったらしい。

『みんなー、ありがとうっ。今日は私から重大発表がありまーすっ』

 サンタ衣装の天導時がそう言うと観客たちが騒いでいる。一体何が始まるのか、それはとてもいい報告のように聞こえているようだ。

 ただ、俺は胸騒ぎしかしていなかった。

『私っ、アイドルやめますっ』

 観客たちからどよめきが起こった。

『実は我儘な私にこれまでついてきてくれてありがとーっ。本当の私を受け止めてくれそうな人にこれから挑戦します』

 なんでアイドルやめるのっ。そんな声が静かになった会場に響き渡った。

『友達と約束してるの。私はそいつに負けたくないっ。たとえどんな犠牲を払ってもそいつを私は手に入れたいっ。』

「友達だってさ。一体、誰の事だろうね」

 亜子が苦笑して画面に向かって話しかけていた。勿論、その言葉は向こうに届く事なんてありえない。

『本当はこのままここで宣言してもいいんだけどね。今の私はアイドルしてる。だから、みんなにさよならだけ言わせてよ……じゃあ、耳かっぽじってよーく、聞いててねっ』

 そうやって最後の曲が流れだした。

「あー、お茶がうめぇ……ところで、天導時の奴は誰に挑戦するんだ? おれか?」

 首をかしげる千鶴たんに亜子は首を振っていた。

「うーん、ちがうかな。もうちょっと千鶴が早く気付けていればそうだったかもしれないけどね」

「え?」

 どういうことだと俺を見てきても何か言えるわけがない。

 首を振って笑っておくことにしよう。

 亜子がリモコンを手にとって電源を消した。

「あ、おい。何で消すんだよっ。今サビの部分だっただろ」

 憤慨した千鶴たんに亜子は凄みのある笑顔を向けて言った。

「さ、そろそろ帰ろうか。今日はイブだから」

「別にいいだろ? ここはお前の家じゃねぇよ」

「うん、千鶴たんの家でもないけどな」

「どうせ彼女がいないんだからおれたちがいてもいいじゃねぇかよ……って、おい、ひきずるなーっ」

「冬治くーん、今回は負けを認めとくよ」

 そのままずりずりと引きずられて出て行った。うむ、あの千鶴たんを引きずって連れて帰るなんて亜子も意外と力があるんだな。

「ん? 負け?」

 特にすることもないイブの夕方。晩御飯の買い物にでも行こうかと茶色のコートを纏って外に出る。

「さむっ」

 寒風が容赦なく俺を叩きつけて去っていく。

 そんな中を寂しく一人で歩いてスーパーへと向かう途中で電話が鳴った。

 誰か確認する必要もなかったので素早く出ると案の定、空からの電話だった。

「もしもし?」

『ライブテレビで見たんだろ? どうだった?』

 決めつけがない分だけ進歩したと褒めるべきか、それともせっついていることをからかうべきか……返答に困って俺は正直に答えることにした。

「悪い、最後まではちょっと見てない」

『あん? 何でだよ?』

「亜子が消した」

『亜子ってお前っ……亜子と一緒に居たのかよ……』

 一発で不機嫌になることは想像済みだったのでつい笑ってしまう。

「おいおい、何でそこでお前が不機嫌になるんだ」

『だって、亜子と一緒に居たんだろ?』

「それでお前の方は一体どうしたんだ?」

 あっという間に電話の向こうは意気消沈したようでもごもご何かを言っているのはわかるが、一体何を言っているのかは分からない。

 突いてみるのもいいけれど、蛇を出したら大変なので辛抱強く待つ事五分、ようやく声が聞きとれることになった。

『と、冬治に言いたい事があるんだよっ。学園で待ってろ』

「今言えばいいだろ」

『駄目だっ。ちゃんと学園じゃないと意味なんてねぇ。じゃーなっ』

 乱暴に電話を切られて俺はコートのポケットに携帯電話を突っ込んだ。

「……待ち合わせ時間は何時だ?」

 確認するためにかけ直すも、取る気は一切ないようで繋がらない。あのライブ会場はここから近かっただろうか。

「そうだよなぁ、空はアイドルだし、車で直行だろうな」

 待っても数十分だろう。そう思って晩御飯は後回しにすることにした。

 そして待つ事数時間……。

「うー、さぶっ。あいつ、一体何時に学園のどこで待ち合わせだと思ってんだ」

 講堂や体育館の方からは人の声が聞こえてくる。そういえば今日はイブのパーティーだった。

 だからといってさすがに部屋着の上にコートを着ただけの恰好じゃ恥ずかしいしなぁ……まぁ、アイドルを待つ身分でもないか。

 そろそろパーティーも終わるんじゃないかと言う時間帯、ようやく待ち人が姿を見せてくれた。

「遅刻せずに来たんだな。意外だった」

 顔を真っ赤にして近づいてきたアホにどんな言葉をかけてやろうか非常に迷った末、言ってやった。

「おい、今度から待ち合わせするときは待ち合わせ場所と時間を決めような」

 そういうとどうやら俺の言いたい事がわかったようで顔を更に真っ赤に染めた。

「ちっ、何だよ、ちょっとしたミスだろ」

「……あのな、お前この寒空に数時間突っ立ってろよ。腹がたつだろ」

「冬治をぼこりたくなる。私だったら帰ってるわ」

「さよなら、お前の話はもう二度と聞きたくない」

 手を振って帰ろうとしたかなり乱暴に腕を掴まれる。

「何すんだよっ」

「甘えてんだよっ」

「はぁ?」

 いきなりこいつは何を言い出したのかさっぱり分からなかった。

「こうして勢いがないと告白も出来ない臆病で自分を必死に形作っている人間なんだよっ、私はっ。でも、我儘な私に嫌がりつつ一緒に居てくれたじゃねぇかっ。勘違いしたのは私でも、勘違いさせたのはお前だよっ。冬治っ、好きだからもっと私の我がまま、聞いてくれっ」

 胸倉掴まれて告白されるなんて生まれて初めて……告白自体初めてだと言うのは内緒だ。

「とりあえず、手を離せよ」

「……わりぃ」

 顔を真っ赤に染めたまま、下を向いたアイドルになんて声をかけてやればいいのかわからなかったが……彼女の足元にボイスレコーダーが転がっていた。

「……」

 空は両手を必死に握りしめてうつむき、目を閉じているようだ。気付いている感じではない。

 拾って再生ボタンを押してみた。

『えっと、これはこうでいいのか? 録音、されてるな……よし、冬治好きだから付き合え……うん、これでいいかな。っと、すでにまわってるじゃねぇか。あー、こほん……アイドル風の方がいいか? 冬治君、私は君の事が好きだからつきあって。このボイスレコーダーが二人の思い出になるといいなっ……』

「消せーっ。今すぐそいつを寄こせーっ」

「おっと」

 俺の腕をもぎ取るような軌道で動いた空の右手を避け、走る体勢へ……そんな中でもボイスレコーダーは動いている。

『駄目だーっ。こんなの恥ずかしくて死んじまうっ。冬治が聞いたらぜってぇ、腹押えて笑い死ぬっ。うう、で、でも、これで好きだって言ってくれたら……』

「このっ!」

「アイドルが回し蹴りすんなっつーのっ」

 奪い取るのは無理とわかって壊すつもりなのか的確な攻撃が先ほどから続いている。素人の俺は防戦一方、そろそろ取り返されそうだ。

 せめて、最後まで聞いてあげていたい。

『……あー、なんで冬治の事を考えると幸せになるんだろうなぁ。安い幸せだよなぁ……でも、冬治の傍に』

 そこで録音は終わってしまったようだった。

「っと……」

「はーっ……はーっ……」

 とうとう取り返されてボイスレコーダーは空の手に収まった。

「なぁ、最後はなんて言おうとしたんだ」

「う、うるせーよ、ばかっ。これはちげぇよっ」

「大切な事だ。空、お前の声で直接聞きたい。機械じゃ駄目だ、お前が言ってくれ」

「……冬治の傍に居させろよっ。好きだからっ」

 足元にボイスレコーダーが落ちているわけでもない。真っ赤になって動かなくなった空と対照的に俺は冷静だ。

 いや、もう少しだけ焦らしたほうがいいかもしれない。

「……待たせようなんて考えてたら蹴りあげるからな」

「俺もお前の事が好きだっ」

 何のひねりもない告白しやがって。そんな言葉をこの後すぐに投げかけられたのは後になればいい思い出……だろうか。


これで空編が終了……でいいのかな。もうちょっと我儘でやりたい放題させてあげたかった。まぁ、今後予定している総集編で暴れてもらいましょうかね。一番目のヒロインはメインと言う考えではあるものの、アクセス数だけをみるに許嫁を投稿した日のほうがアクセスう多い気がします。おそらく、気のせい。さて残りは許嫁、金持ち、メイドですか、許嫁は既に終わったも同然ですからねぇ……これまた扱いが難しそうだぁ。空編を読んでくれたあなた、ありがとうございました。

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