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第四十四話:波恵の父

第四十四話

 ジングルな音楽が流れる街を執事姿で歩くのは少々、気が引けた。

「なんだあれ」

「サンタに対抗してんのか?」

「だったらトナカイだろ」

 そんな声を聞くのはとっくに慣れちゃいるが……やはり、隣のサンタと比べられるのは辛いものがある。

「どうかしましたか?」

「いえ、何故サンタなのかな、と」

「十二月ですから」

 解答になっていない答えをもらったらもう愛想笑いを浮かべるしかなかった。

 奏様が戻ってきて内輪でやるパーティーに出席するための道具を買いにやってきたのである。露出の少ないサンタの衣装を波恵さんが着用し、何故かそのまま街に出る蛮行……ではなく、勇気ある行動に出た。

 そして今に至る。クリスマス雰囲気になったものの、まだ本番じゃない。

「冬治さんもトナカイを切ればいいのに」

「いやぁ、さすがにそれはやばいです。警察が飛んできますよ」

 警察は飛んでこないだろうが更に笑われることになるだろう。執事、メイドの姿で来た時もちょっとした話題になっていたようだしな。

 屋敷に近づくにつれ、人が減ってきた。

 そんなとき、白衣を着た神経質そうな初老の男性が目の前を通る。

「やぁ、冬治君」

「あ、えっと……こんばんは」

 この人こそ青空グルーブの総帥、青空猛その人である。

 テレビでもほとんど露出がなく、秘書が対応している。奏様との折り合いがいまいち悪いらしく、ちょっと恐れているところもあるらしい。

 初めて会うわけではないものの、それなりにまだ抵抗がある。なにせ、大本の雇用主様なのだ。

「お父さん、また怪しい道具を追い求めていたのですか」

 俺がどうやってこの場を切りぬけようかと考えていたら隣に居た波恵さんが腰に手を当てて睨んでいた。

「相変わらず波恵は手厳しいね。あの人に似てきただけはある」

「もう、また刺されますよ」

 色々と聞きたい事はあるものの、穏便に話が終わるとは思えなかった。

「あ、冬治さんにはまだきちんと紹介していませんでしたね。父親です」

「どうも、改めまして青空猛です……波恵とは仲良くやれているかな」

 柔和そうな笑みを浮かべて握手を求められる。手袋をしているものの、それに応じてしまっていいのかわからないまま握手をしてしまう。

「えーっと、はい」

「そうか、それならいいんだ。僕の時はなかなか凪とうまくいかなくてね、波恵の存在がわかった時にはもう別れる事が決まってしまっていたんだよ。もうちょっと波恵の事を早く知れていたらなぁ」

「お父さん、いいんですよ」

 何やら突っ込まないほうがいい雰囲気である。空気が読める男を目指しているのでやめておこうかと考えるが、猛さんは話したがっていたようだった。

「波恵が生まれた時には奏がいたの、わかっていたからね。僕が悪いと未だに思っているけれど……」

「え? じゃ、じゃあ、奏様と波恵さんは……」

「そう言う事です」

 皆まで言わせず波恵さんが苦笑していた。

「冬治君が波恵の事をどう思っているかわからないけどね、もし君が波恵を幸せに出来なかったら社会的に抹殺するからね」

 それはそれはとても怖い父親の視線だった。

 視線を受けて俺は間抜けな顔で返答する。

「あ、えっと、赦してもらえてるんですかね?」

「え? ああ、この前面接もちゃんとしただろう?」

 そう言われて変な質問をされたのを思い出した。一週間前に面接があると言われて首をかしげ、行った先に居たのが猛さん。

「君は一人の女性を愛せる人間か?」

「愛する人間を守れるか?」

「トイレに行ったらちゃんと手を洗うか」

「寝る前にはちゃんと歯を磨くか」

 不真面目な質問もいくつか準備されていてプライベートに突っ込みすぎなのではないかと思ったのもそう言った理由からなのだろう。

 すべてを悟ってくれと言われても俺には毛先ほどしか理解できないに違いない。

「波恵をよろしくなんて無責任な事は言わないがせめて君たち二人は幸せになってくれよ」

「はい」

「あと、奏の事も頼むよ。せめて、君が今のままでいる間はね。どうやら君になついているようだしね」

 父親よりも君の方がいいのかなと苦笑していた。

 猛さんはそのまま屋敷の方へと引き返していった。それを追う感じで俺と波恵さんは歩き出す。

「冬治さんは何か聞きたい事、ありますか」

「え? ああ、ありますよ。代表なのにボディーガードとか秘書が一緒に歩いているんじゃないんですね」

「それは……まぁ、お父さんはいつもあんな感じですよ。いかにもお金、もってなさそうですからね」

 笑って波恵さんは続ける。

「どんな父親に見えましたか」

「……一見するとよさそうな父親、です。まだ二回目の俺には猛さんがどういった方なのかは判断できません」

 どう考えても逃げの言葉に波恵さんは責めるでもなく、呆れるでもなくただこちらを見つめていた。

「そうですか」

「はい」

 この短いやり取りの中で波恵さんが何を感じとったのかはわからない。だけど、それまで少し硬い表情から柔らかな笑顔に変わっていた。なんとなく、猛さんに似ているなと思ったのは彼女の父親に会ったからだろう。

「さ、早く帰って晩御飯を作ってくださいね」

「わかりました」

 雪が降ってくれたら少しぐらいいいムードになってくれただろう。ただただ寒い、風がふきぬけるだけだった。


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