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第四十二話:至って普通の鈴蘭と冬治

第四十二話

 もし、鈴蘭がふとした時に鋭い表情や大人びた視線を俺に投げかけていたら普段の彼女を訝しんでいただろう。

「冬治……君」

 病院のベッドに何故か鈴蘭は寝そべっていた。おまけにシャツのボタンがはだけて魅惑の黒いブラジャーが顔をのぞかせている。

「……鈴蘭、セクシーポーズしているところ悪いけどさ、そのブラジャーぶかぶかすぎ」

「え、えっと、見えてる?」

「見えてないから……あと、今すぐ居住まいを正しなさい。これから真面目な話をします」

「えへへ、わかったよ」

 おっかしいなぁ、こんなポーズ取られたら間違いなく押し倒されているはずなのにと呟いていた。

「危なかった……これがスポーツブラだったら押し倒していた」

「え? 嘘……」

「冗談はともかく、思いだしたんだ」

 それまでの少しふざけた空気を一蹴して俺は鈴蘭を引き寄せた。

「悪い、鈴蘭。俺はお前の気を引く為に川に飛び込んだっぽい」

「……どういう事?」

「どうも小さい頃の俺は鈴蘭の事が好きだったみたいなんだ」

「うん、それは知ってるよ?」

「そうなのか? まぁ、そう言う事。その後、鈴蘭に泳げなかったという事をちゃんと伝えたくて戻ろうとして……事故を起こしちまったんだ」

 俺が原因の事故だった。

 両親ともども健在なので今回この話は置いておこうと思う。

 こんな俺の事を鈴蘭はどう思うんだろうか。

 二学期最初、転校してきて許嫁だなんて言われた時は困惑したし、面倒だと思っていたけれど今は全然違う。

 嫌われたくないし、離れて行って欲しくなかった。

 鈴蘭の答えを待つため、真剣な表情で彼女の顔を見ると実に不思議な顔をしているではないか。

「それで?」

「え、それでって?」

「冬治君は記憶を思い出したんだよね?」

「ああ、思いだしたぞ」

「この前言った事を覚えてる?」

「俺が記憶を思いだしたら返事する……だよな」

「そうだよ」

 よく出来ましたと手を叩く。決して馬鹿にしているわけではなく、真面目に手を叩いているのだろう。

「だからわたしはそっちを知りたい。冬治君の小さい頃はよく知ってるから……冬治君が小さい頃の私を好きだったとしても今のわたしを好きになってくれないと意味がないから」

「……そうだな」

 小さい頃の鈴蘭がいいとかとんだロリコンだよ。

「鈴蘭、俺はお前の事が好きだ」

 一気に引き寄せ抱きしめる。

「と、冬治君……」

「こんな俺でもいいんならお前の彼氏にしてくれ。一生、幸せにしてみせるよ」

「あ、あのっ、冬治君?」

「なんだ? もしかして駄目なのか?」

「ううん、そうじゃなくて……その、部屋の外で四季先生達が待ってるから」

 鈴蘭の言葉よりも先に扉が開いて四季先生と千鶴たんが頬を染めて入ってきた。勿論、俺は鈴蘭を抱きしめている状態だ。

「……こほん、何だか出ちゃいけない雰囲気があったけど我慢できなくなっちゃった」

「ったく、ここをどこだと思ってんだ……しかし、冬治の奴も言うときは言うんだなぁ」

 今の俺は二人が現れてもめげない。

「鈴蘭、返事を聞かせてほしい」

「え……勿論だよっ」

 こうして、俺と鈴蘭の話は幕を閉じたのだった。



 だったらよかった。

「え、えーっと、実は川に少女が浮いてまして……え? あ、いや、そのー……溺れているんじゃないかと思って飛び込んだんです」

 異様に長く感じられた修学旅行が終わり、戻ってきたら何故飛び込んだのか学園側から何度も聞かれた。

 四季先生も現場に居合わせたので数度呼ばれてその時の俺の様子を語る必要があった。そして、俺を守るために鈴蘭が横から説明し始めて更に面倒な事になった。

「冬治君はわたしのために飛び込んだんです」

「……つまり、溺れていたのは地藤さんと言う事ですか?」

「ううん、わたしはあとで飛び込みました」

「は?」

「以上です」

 この連中は何か隠ぺいしているんじゃないか……学園側からそう思われた矢先、千鶴たんが現れてこんな事を言いだした。

「冬治はおれが落としたんだ」

 ここは任せろみたいな表情でこっちを見る。

 いや、任せなくていいから。有難迷惑だから。

 最終的な結論としては俺が猫を助けるために飛び込んだということになった。学園側、俺たちもいまいち何でこんなことになったのか理解しちゃいない。

 その後は新聞部から取材を申し込まれた。何故かマネージャーだと言いだした千鶴たんがインタビューを受け、俺と鈴蘭が付き合い始めたと言う記事が沢山刷られたのである。

 ただ、元から許嫁だと鈴蘭が言っていたためもあっていまいちパンチ力にかけていたようで新聞部の予定とはかなり少ない数しか受け取ってもらえなかったそうな。

 一般人のカップルが新たに誕生した割には少しばかり大きな事柄になったとは思う。


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