第四十話:メイドと師走
第四十話
波恵さんにされて一番嬉しい事はこれだ。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「……一日がやっと終わったと感じる言葉っすね」
たそがれるには少し遅い時間にこの言葉を聞ける。大人だったらビールを飲みながら今日もつかれたーと騒いでいる事だろう。
生憎、俺と波恵さんは未成年の為ビールは飲めない。
俺と波恵さんの間の空気が微妙に悪くなり、関係が回復した日から少し経っている。もう今年も残すところ一カ月……学園では期末テストに向けての勉強会等が行われており、奏様もお呼びがかかっている。
「冬治、あんたあたしの代わりに勉強しておいて」
「ええと?」
他人が勉強しても頭が良くなるわけでもない。しかし、此処で反論していても機嫌を損ねるだけなので頷くしかないのである。
「喜びなさい。作業効率を上げるために波恵もつけるわ。これで二倍のスピードで勉強出来るわね?」
「え?」
さすがの波恵さんもこれには面を喰らったようで驚いていた。
「最近何か悪いものでも食べましたか」
波恵さんが俺にこう聞いてきても首をかしげるしかなかった。
「いや……ないでしょう」
「そうですよね」
一体これはどういう事なのだろうと首をかしげて二人して勉強会へと向かう。その間、奏様のお守は凪さんが担当してくれている。
「失礼します」
「失礼します……青空奏様の代理で勉強会に出席します」
会議室が会場になっていたので執事服とメイド服のまま入る。今ではもう学園生が慣れてしまっていて普通の態度だ。
「馬鹿な……代理が立てられるだと?」
「金持ちってやつはやっぱり頭がいいんだ」
「くそっ、俺もかあちゃんに来てもらえば……」
ああ、そうだな。この勉強会に出席する奴らはアホな事をするんだったな……自分の関係者が呼ばれているのは非常に残念なことだが。
ため息をつく暇もなく、俺と波恵さんはとなり合って最後尾に座る。
「まー、んじゃとりあえず始めっか」
先生の開始の合図で勉強会がスタートしたのだった。
二学期始まってから最近までの範囲が出される為、かなり集中しなくてはならない。一学期期末は中間からの範囲だそうだが、気を引き締めるために敢えて難度をあげているそうだ。
最初は奏様の代理としてやってきたものの、こうして勉強してみればいかに自分が勉強していないか思い知らされた。
「んじゃ、ここらで辞めるがお前ら、ちゃんと放課後毎日来るんだぞ」
時刻は既に七時近い。
終わった時には数人が眠そうにしていた……寝ると黒板に問題を書いて実際に解かなくてはならない……が、疲れていると言った人はいなかった。
「まさかお菓子が出るなんてなぁ」
「そんじゃそこらで買えないようなお菓子出るなんてポイント高すぎ」
女子も男子も疲れたところに美味しい甘いものが出されたのは良かったらしい。かく言う俺も出されたお菓子に凄く感動していたりする。
「あの先生、元パティシエだったそうですよ」
「マジッすか」
人はみかけによらない者である小太りの中年男性がそんな要素を持ち合わせているとは……。
波恵さんと一緒に校門を出ると外は寒かった。
「執事服って意外と寒いんですね」
コートを上から羽織っても肩を抱いてしまうような寒さだ。メイド服の方が温かいのか、波恵さんは寒そうにしていない。
「こうすれば温かいですよ」
そういって俺の腕に波恵さん自身の腕を絡めてくる。ちょっとだけてれ臭かったが、わざわざ離れることもない。ただ、胸の感触が厚着のせいで……なんでもない。
「冬治さん」
「はい?」
本当にくっついているだけの距離だ。親密と言った雰囲気は流れておらず、必要だからそうしていると言うのが伝わってくる……残念なことに。
「クリスマスまでに結論を出してください」
何の事ですか、そんな言葉を返す事もない。俺はただ黙って頷くだけだった。
「わかりましたか?」
「あ、えーっと、はい」
どうやらこちらの顔を眺めていなかったようで俺は苦笑しつつ返事をしながら頷くのだった。
家に帰りついてやる事と言えば、夕食である。ここにやってきて凪さん監修の元色々な料理を叩きこまれた。
怒られながらも凪さんが何も言わずに料理を食べてくれた日、波恵さんが褒めてくれた日は忘れられない。
何と言うか、度胸とか自信を持たせてもらえたようなものだ。
「少々不安ですけど、この分なら冬治さんにクリスマス料理を作ってもらっても……やっぱりやめておきましょうか」
「あのー、そう言われるとせっかく自信を持ち始めたのに萎えそうです。ビールを飲んでごまかした……いたっ」
「その程度で萎えるのなら料理を作るのをやめてしまいなさい。酒を飲むのなら子の家から出て行ってもらって結構ですよ」
「……すみません」
仕事中にボケるのは辞めよう、改めてそう思った。ついでに、お酒で何か悪い思い出でもあるのだろうか。
聞こうか悩んでいたところで波恵さんが廊下から顔を出す。
「冬治さん、お風呂いいですよ」
「あ、はい」
お風呂から上がった波恵さんの姿を見て改めて思う。
うん、女の子の風呂上がりはいいねと。
「波恵そういえばきちんと奏様の代わりが出来ましたか?」
「はい。問題ありません」
波恵さんと凪さんが会話しているところを見ると親子なんだなぁと思う。そして、もう一つ考えることは凪さんの旦那さん、つまり波恵さんの父親の事だった。
「……ま、俺が知る必要もないかな」
今はまだやるべき事が沢山ある。波恵さんへの返事、奏様の期末、クリスマス料理とかだ。
俺が波恵さんの父親について話を聞いたのは期末、クリスマスが差し迫った日の事だった。
何が言いたいかと言うと四十話まで見てくれた人、ありがとうございます。終わる終わると言っていた気になるシリーズも新シリーズを考えている途中で毎回やってしまいますね。次は非日常的な話で……今回も非日常だとは突っ込まないでくださいな……魔法道具の話にしようかと。魔法の道具といったってあくまでオーバーテクノロジーの話。原始人がライター見れば原理がわからないから魔法のアイテムですよ。しかし、対抗馬としてネトリ系の話も準備していたりします。うむ、どっちにするか……。話は変わって百作目ぐらいで『気になるあの子とパラレル』という題名にしてこれまでの気になるシリーズに加筆修正した奴を一気に投稿していきたいなぁと。そのころには暇になっているだろうし。メイドの話もそろそろ終わりに近づいています。最後に、こういうことはたぶん活動報告でやるべきだったに違いない。




