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第三十九話:奏と初めて

第三十九話

 俺と青空……ではなく、奏と一緒に生活し始めて三日目が経った。

 今のところ、特別に何かが変化したわけではなく、一緒に生活していた時とあまり変わらない日々が続いていた。

 場所は本当に青空の屋敷の敷地内でアパートの一室を再現した小屋である。

 電気もガスもきっちり通っており、豪華な朝食が出るかと思えば俺が買い物に行って調理を担当している。

 問題があるとすれば奏が毎朝俺の布団に侵入を試みる事だろうか。

「だって波恵がいったんだもの。こうしたら喜ばれるって」

 本当に喜ぶのだろうか。

 少なくとも、俺は喜んじゃいない。

 そんなこんなで四日目の朝……。

「おはよう」

「おはようっ」

 とうとう布団の中に侵入を許してしまった事にため息をつく。

「喜んだかしら?」

「いや、特には……」

「おかしいわね。あとは流れで何とかなるって言われているんだけど」

 ぶつくさいう奏を自ら刺激する必要もない。さっさと布団から出てきて学生服に袖を通す。

「あたしもここで着替えていい?」

「あのな、奏の部屋はあっちだろ」

「でも、いいじゃん。冬治はあたしがいる前で脱いだんだから」

 あった、問題が。

 やたら脱ぎたがるのだ。

 文句を考えていたら既に脱ぎ始めていた。下着に包まれたそれなりの胸を俺に惜しげもなく晒している。

「どう? 興奮した」

「……はぁ」

 ちらりと見えるのがいいもので、こうやって見せつけてくる人はどうかと思うんだ。

 まぁ、それでも気になって仕方がないのは確かだけどな。

「それで、こっちも流れで何とかなるって言われているんだけど?」

「そう言うところがあれだな。残念仕様だよ」

 セリフが仕込まれていると言うのなら更になえるわけだ。

 くだらないことで時間を過ごすほど無益な事はない……そう思いながら朝食を作る作業に取り掛かる。

「たまには作ってみるか?」

「努力しておいしいのが出来るのなら冬治の料理が食べたい。作ってくれないのなら美味しい料理をお金出して食べるわ」

 奏はそうだろうなぁ……努力はお金で買えると考えている節がある。今のところ、彼女の言葉が間違っていた事はあるっちゃあるが、本人はそう考えていない。

 このまま一緒に生活していたところで特に何も変わらないと思い始めていた。

 スクランブルエッグを突いていたら奏がとある事を言いだした。

「ねぇ、キスしてみたいんだけど」

「は?」

「だから、キス」

 また台本通りに事を進めようとしているのか。ため息をついてどうやって話そうかと考える。

「あのな、奏」

「何?」

「キスというのはな、場所とかムードとかお互いの気持ちがこう、色々とよくなって初めてできるもんだ」

「あ、冬治あれみて」

「ったく、今度は何だ」

 テレビを指差されてそちらへ視線を向ける。アザラシがどぶ川に迷い込んだと報道されていた。

「どうでもいいことで……んっ」

「キス、出来たよ? 卵の味がした」

 奏の笑顔を見てため息をつくしかない。

「はぁ、奏がそれでいいって言うのなら別にいいけどさ」

 平静を装っていても頭の中は完全にパニック。

 俺、今キスしたんだよな……一瞬だったとはいえ、唇をくっつけたんだし……ふわっとした奏の匂いも嗅いだわけだし。

「冬治は嫌だった?」

「そういうわけじゃない。奏がいいっていうのなら……」

「あたしは冬治に喜んでもらいたいから」

 少しだけ強い口調でそう言われて俺は黙る。

「冬治はお金を受け取らないでしょ? だから、冬治に喜んでもらうには……」

 少しだけ首を傾げた後、手を叩いた。

「あたしの身体を代償にしようかと」

「ストップ、言い方が悪い。言いなおしてくれ」

「そうなの? 仕方ないわね」

 しばらく悩んだ末にぽんと手を叩く。

「奏様、冬治さん、そろそろ学園に行く……」

「冬治があたしの体を散々弄んでくれればいいのよ」

「奏様っ! 何と言う言葉をお使いになられるのですかっ」

 この後、俺と奏は一緒に波恵さんから怒られた。恐ろしい程の剣幕で、もう二度と波恵さんを怒らすまいと奏と深く誓ったのだった。


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