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第三十七話:アイドルと定番の阻止

第三十七話

 天導時空はアイドルであり、転校生で俺の隣人でもある。

 仲のよさはどうかと聞かれればいたって普通と言ってもいいだろう。勿論、これは俺の見解であり客観的な意見は不明だ。

「まさか、俺がなぁ……」

 猫を被ったアイドル(この前先生に注意されたぐらいで教室の机をちゃぶ台返ししやがった……勿論、俺以外がいない放課後だ)の事が最近かなり気になってしまっていた。

 ちらっと見てしまう事もたまにある。

 その度、優越感に浸った目で俺の事を見てくるのだ。ばっちり目があうのは何故だろう。

「もしかして冬治君もとうとう私のファンになってくれるのかな? だったら、嬉しいな」

 授業中だと言うのに小さな声で話しかけてくるのだ。

「目が、覚めたわ。ありがとう」

「え?」

 猫の天導時のおかげで俺は現実に戻され、凄く白けた表情を彼女に向けて授業に復帰するのだ。

 そんな事が続いて早二週間。

 気付けば十二月も近い……これがどういう事かと言うと期末テストが近いって事だ。学園側主催のちょっとしたクリスマス会も行われるそうだがそんなものは犬にでも食わせておけばいい。自由参加でしょぼそうだしな。

 四季先生が教えてくれた情報によると、この学園は期末テストは結構難しくする傾向にあるそうで休み前に引き締めを図るためらしい。

「十二月だ」

「そうだな」

「うん、そうだね」

「本当一年って早いよねっ」

 千鶴の言葉に俺と亜子、そして天導時が頷く。

「というわけで、お前らおれの為に勉強を教えてくれーっ。今度の期末でやばかったら進級が危ういっ」

 千鶴が俺の両手を握りしめて珍しい事に頭を下げてきた。

「俺は別にいいけど?」

「持つべきものは友達、友人、親友だなぁっ。亜子と空はどうだ?」

 苦笑している亜子は首を振っていた。

「あのさ、山野さんは不良でしょ? 不良なら馬鹿でも大丈夫」

 親指を立てている亜子にきょとんとした表情で千鶴たんが答える。

「え? いや、違うけど?」

「違うの?」

 驚く亜子に俺は正確な説明をすることにした。

「千鶴たんはあれだ。中学から勉強よりも娯楽なんかを優先してきた結果の典型的な落ちこぼれだな。何となく不良っぽく髪の毛とか染めているけど立ちまわりが苦手なのか意外と交友関係が狭い」

 そもそもこのクラスに……学園に不良が少ない。そりゃそうか、簡単には入れないところだからなぁ。しかも、いても一世代前の古い不良ばかりである男は長ランにリーゼント、女はパンチパーマにロングスカート……。

「おれが頭悪いって言うのは色々と反論したいがとりあえず期末が終わってからだ。亜子はダメみたいだし、空はどうだ? おれの勉強手伝ってくれるのか?」

 一見すると空は満面の笑みを浮かべているようだった。

「ごめーん、ちょっと期末前はこっちのイベントでクリスマス会があるから色々と準備があるの」

「学園のクリスマス会?」

「ううん」

 亜子からの質問に首を振って一枚のチラシを出してきた。

「へぇ、クリスマスコンサートかぁ……」

「うん、去年もやってたんだけどね。まだ名前があまり売れていなかったから今ほど規模は大きくなかったけどさ」

 つまり、駄目なようだ。

「千鶴たん、お前の期末テストは全て俺の手腕にかかっているみたいだな……出会いがしらのパンチ、キックの数々をお前は覚えているか?」

 千鶴たんの朝の挨拶は結構ハードである。今では慣れたもののたまにうざい。

「え? そうなのか? てっきり冬治は喜んでいたものだと……」

「お前の期末は真っ赤な結末だ。悔い改めて地獄に堕ちろっ……クリスマスを真っ赤に染めるがいいっ」

「こ、今後は残念だけどやめるっ。辞めるから助けてっ」

「ほらほら、近づきすぎ。冬治君が困ってる」

「そうだよ、山野さんも女の子なんだから。冬治君が何するかわからないよっ」

 すがりついてくる千鶴たんを俺が引きはがすよりも先に亜子と天導時が引き離した。

「んだよー、こんなの軽いスキンシップだろ」

「全くだな」

 何かおかしなことでもしたのかと二人を見る俺と千鶴。

「それでおれはどうすればいいんだ?」

 首をかしげる千鶴たんに俺は告げる。

「千鶴たんの頭じゃ今からやらないと駄目だな。つまり、今日から放課後は俺と一緒に勉強か」

「えーっ」

「あのな、千鶴にあわせて俺も勉強しないといけないんだぞ?」

「冬治の事情なんか知るかよ」

「お前の所為で俺の放課後がつぶれるって事だ、アホ」

「いたっ、何すんだよっ」

「おっとっ」

 チョップを喰らわせたらパンチが返ってくる俺と千鶴の仲を見て二人はため息をついていた。

「……ま、これなら放っておいても大丈夫かな」

「そだね、天導時さんの見解とわたしも一緒」

 勉強会の話もそろそろ終わるだろうと思っていたが、大切な事を思い出す。

「そう言えばどこでするんだ?」

「んー、図書館は何だか嫌だし、そうだ、冬治の部屋でしようぜ? 散らかしたって怒られないしな」

「お前な……勉強でどんなことをしたら散らかすんだ」

「そりゃ、本棚から教科書引っ張り出したり探して居たら自然に散らかる」

「俺の部屋だと思って……しょうがねぇなぁ。じゃ、みっちり七時ぐらいまでは教えてやるから覚悟しろよ」

「うへへ、お願いしますぜ」

 そして放課後……。

「何で空と亜子まで俺達についてくるんだ?」

「……こういうのって定番だから」

「本当、定番だよね」

「定番?」

 首をかしげる千鶴たんと俺。一体何の定番なのだろう。


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