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第三十四話:許嫁と彼女の記憶

第三十四話

 京都に行ってする事って何だろうな。行く場所だと修学旅行で大体候補に上がるけどさ……最近は海外も多いみたいだけど。

「寺とか仏像を見て歴史の重さと雅な文化に触れる事か? どう思う?」

「むむっ、くせやつ……手裏剣を喰らえっ」

「何のっ」

 しかし、俺の班(俺、鈴蘭、千鶴、四季先生)はさっきからアホな事ばっかりやっていた。真面目にしようとしてもそれを拒むのだ。

「夢川君これおいしいよー」

 そして、四季先生はこのメンツなら好き勝手していいとか思っていたようで早速合流してきやがった。

 合流してきて早々、俺に耳打ちした言葉をまだ忘れられない。



「山野さんと地藤さんは夢川君の言う事、聞くでしょ? つまり、リーダー。そして夢川君は先生に結構優しくしてくれるし、少しぐらいの我がままなら聞いてくれるかな―って」



 先生の目論見はバッチリ当たっている。寺とか仏像とか一応見に行っているけれど、ろくに見ていないために最長滞在時間でも十五分だ。その十五分も鈴蘭が迷子になって三人で探しまわったからかかっただけである。

 その後は四季先生にミスリードされつつ、甘いものを食べ歩くだけの修学旅行になりつつあった。

「あの、感想文とかは?」

「適当に仏像とかお寺のパンフレット見ながら書けばオーケーだから」

「感想文が怖くてっ」

「京都で木刀が振り回せるか―っ」

 其処の二人、いい加減やめないと警察が飛んでくるぞ。

 木刀を買って何だか修学旅行生が暴力事件を起こしたとか文句をつけられて長い木刀は売ってもらえず、短いものしか手元にはない。

 それでも鈴蘭と千鶴は大喜びでチャンバラなんかに興じている。

「ただ食べるだけじゃ楽しくないし、二人が飽きるまでは夢川君をうまくつかえるね」

「Oh……Beautiful」

 海外からの旅行客もそんな二人のチャンバラを喜んでいるようだった。

「もう好きにしてくれ」

 某所のロールケーキを口にしながら俺は天を仰ぐのであった。

 紅葉舞い散るお寺と仏像の古い都、京都が俺の目の前で甘さとチャンバラの場所になりつつある二日目は無駄になりつつある。

 夕方、宿泊施設である旅館に辿り着いて俺はある事に気がついた。

「あれ? もう明日で終わりか」

「あ、本当だ」

「いやー、楽しい時間はあっという間に終わっちまうなぁ」

 千鶴、鈴蘭も今更気がついたようでそれぞれが感慨にふけっている。一日目は俺のクラスほとんどがバス酔いのために行動不能に陥っていたからほぼ旅館内ですごしてしまった。

 昨日の分を発散するためなのか、俺のクラスが一番帰ってきていないようだ。

「ねぇねぇ、冬治君」

「ん?」

「ちょっと一緒に行きたい場所があるんだけど付いてきてくれると嬉しいな」

 決して着いてきてほしいと言えないのか、言わないのかは知らないけれど上目遣いで見てくるとはあざとい奴でだ。

「……そうだな、鈴蘭一人じゃ迷子になりそうで怖いから付いて行くかな」

「二人で迷子になれば安心だねっ」

「それでもばらけて迷子になりそうで俺は怖いよ」

「大丈夫、わたしがついているから。迷子になっても泣かないでね」

「それは俺のセリフだっ」

 まったく……一緒に住んでいるって言うのに何を考えているのかわからないやつだ。

 二人で旅館を出て歩く事三十分、河川敷についた。

「ここは?」

「河川敷。ここでね、溺れたんだよ」

「……」

 ふっ、と淡く頭の中に浮かぶ映像はいつかのプールで味わった苦い思い出だ。

「なぁ、鈴蘭」

「ん?」

 絶対に届くはずはない距離から石を投げ始めた鈴蘭に俺は声をかける。

「下のサイクリングロードを走っている自転車に当たりそうだからやめてくれ」

「あ、ごめんなさい」

 そして、投げた一石が軽くロードバイクに乗っていた兄ちゃんに当たったのを見てしまった。彼は気付かなかったようで、内心ほっとする。

「えーと、ここで何があったのか話してくれるか?」

「うん、いいよ」

 夕焼けに照らされた鈴蘭の顔は大人びておらず、年齢が退化したかのように見えてしまった。

「あの日はプールが清掃中でね。まだあまり泳げなかった冬治君にわたしが泳ぎを教えようとしたんだ」

 鈴蘭の話を要約するとこうだった。

 市民プールからここまで走ってきた鈴蘭は俺を驚かせるためにそのまま坂道を走りぬけて川に飛び込んだらしい。しかし、運の悪い事に飛び込んだ場所が深かったようでびっくりし、足を吊らせて溺れてしまったそうだ。

「気を失う瞬間の光景が怯えた目で私を見ている冬治君だったよ」

 その言葉に首をかしげてしまう。

「あれ? 俺がお前を助けたわけじゃないのか?」

「ううん、助けたんだよ。わたしが気を失ってすぐに冬治君はわたしを引っ張り上げたんだよっ。それで見よう見まねで人工呼吸をしようとして裸にして色々としちゃったんだよ、きっと」

「曖昧だな」

「気絶してたもん」

 困ったように笑う鈴蘭に俺は違和感を覚えてしまう。

 本当に鈴蘭の言う通りなのだろうか……。違うような気がしてならなかった。おそらく、あの写真がある以上俺が鈴蘭に対して人工呼吸をしたのは間違いないのだろう。大切なのは、過程だ。

「じゃあ、帰ろうよ。お腹すいちゃったからさ」

「ん、ああ……」

 鈴蘭に促され、少し寒くなった土手沿いを二人で並んで歩く。数歩歩いて鈴蘭はいつものように俺の腕に手を回してきた。

「えへへ、今日はさすがに四季先生とか居たから我慢してたよ」

「……そうか」

「ねぇ、冬治君。この場所にはわたしが居てもいいんだよね?」

 更にひっついてこようとする

「ごめん、鈴蘭。何だかまだ忘れている気がするんだ。だから、あの時の記憶が戻ったらちゃんと返事する……一週間、ううん、五日だけ待っててくれ」

「うん」

 少しでも不満そうな顔をすると思った俺はまだ鈴蘭の事をよく知っちゃいない。

 だから、後五日間のうちに俺と鈴蘭の原点を知らなくちゃいけない。

 明日は修学旅行最終日だ。最後の一日は自由時間(今日も自由時間だった気がする)、その日のうちに俺は記憶を取り戻したかった。


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