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第三十話:許嫁と普通の修学旅行

第三十話

 部屋を出て扉を閉め、鍵をかける。

「行ってきます」

 俺の隣に鈴蘭がいるのもおかしいことではないと思い始めた今日この頃。許嫁と言う事を少しだけ意識し始めていた俺とは逆にあまり許嫁と言う言葉を使わなくなってきた気がする。

「行ってきまーす」

 そんな許嫁の女の子と一緒に暮らしているんだから何かしらときめいたっていいはずだ。

 でも、今日から修学旅行なのでときめいている場合でもないな。

「鹿とかいるんだよねっ」

「そうだな。きっと虫歯がないか追いかけてくるぜ?」

「え?」

「ボケにボケを振っても駄目だわな。俺が悪かったよ」

「えーと、京都、久しぶりだよね?」

「え?」

「きょうと明日、京都に行きます……なんてね」

 やれやれ、二つ分のバックは重いな。

 鈴蘭と一緒に集合場所である校庭へと向かうと既に結構な人数が揃っていた。アイドルの周りにはそれなりの人数、金持ちの姿は見えず、ともすれば波恵さんの姿もない。

「よっ、お二人さん」

「千鶴たんじゃないか」

「おはよー、千鶴ちゃん」

 趣味の悪いどくろのバックを見せつけるように担いでいる友人が寄ってくる。その割にはクマさんパンツを履いていたのを見た事があるし、俺の近くには変なのしかいないよなぁ。

「なぁ、青空は?」

「金持ち? そんなら出発する時間が遅いとか言って飛んでったぜ」

「ヘリで?」

「ああ」

 自家用ヘリまで持ってるのか。

 冗談で言ったつもりの事が現実に起こるから金持ちは怖いな。

「何と言うか、お金の無駄遣いだな」

「だよなぁ」

「今度乗せてもらおうよ、冬治君」

「……タダで乗せてくれるかね?」

「千円ぐらい出せば乗せてくれるよ」

「千五百円なら乗せてくれるだろ」

 そのぐらいで乗せてくれるかどうか微妙である。

 三人でくだらない会話をしていると集合時間になり、クラス順で並んでいく。学園長の有難くて長い話が終わると次は校長の長い話……そしてそれらを原稿用紙三行にまとめた素晴らしい教頭の話を聞いて出発予定の二時間遅れでバスが動き出した。

 内訳は学園長一時間三十分、校長二十八分、教頭二分である。

「えへへー、冬治君の隣の席、ゲットー」

「なんだ鈴蘭ちゃんか」

「鈴蘭ちゃんなら仕方がないな」

 男子のはずが気付けば鈴蘭が指定されていた俺の隣の席に座っている。男子の川下君の姿は無く、予備の席に座っていた。

「窓際に座っていい?」

「好きにしてくれ」

「じゃあ、おれは通路に座るぜ」

 そういって通路の席に千鶴たんがすわった。お菓子を置こうと思っていたもんだから注意するしかない。

「お前に言ったわけじゃないぞ」

「え? 窓際駄目なの?」

 そして反応するのは鈴蘭の方だった。

「いや、いいって」

「じゃあ、失礼して……

「もう好きにしてくれ」

「わーい」

「っしゃ、トランプしようぜー」

 本当、自由奔放な連中だ。

「両手に花だよなぁ」

「……やめてくれよ」

 男子生徒から冷やかされながらバスは出発。

 そして三十分後、俺の両脇の花は枯れていた。

「うぇっぷ」

「おえ……」

 バスガイドがつくのは京都についてから。きっと今居たら『右隣をみてくださーい、はい、酔っている方がいますね? では、左隣を見てください。はい、こちらにも酔っている方がいます』と言ってくれるだろうな。

「と、冬治君背中……摩ってくれない?」

「ああ、こうか?」

「あ、ありがと……」

 普段が元気だからこんな姿を見ると素直に摩ってしまう。男子生徒からにやにやした視線が投げられないのは連中も酔っているからだ。

「冬治、背中摩ってくれない?」

「お前の場合は自業自得だからな」

「ど、どこが自業自得なんだよっ」

「車内で目つぶって十回周る奴が悪いんだろ」

「それはババ抜きの罰ゲームじゃねぇかよっ」

「罰ゲーム決めたの、お前だ」

「……おえっぷ」

 黙ってこらえる作業に入る友人を見て思う。

「……俺以外全員バス酔いってどういうこったい」

「わたしもよっていませんよ?」

 バスの運転手さんが車内マイクで会話に参加してくる。

「そうですか」

「ああ、いえ。酔ってます」

「え? あの、運転は大丈夫なんでしょうか?」

 バスの運転手が酔うなんて事故フラグまっしぐらなんじゃないのか。

「大丈夫です。自分に酔っているだけですから」

「……そっちのほうが事故率高い気がします」

 ホテルにちゃんと着いたのは間違いなく、このクラスの日ごろの行いが良かったからだろうか?

「おえっぷ……じゃ、じゃあわたしについてきてくださいね。二時までお昼の休憩です。はい、解散」

 解散して早速その場にへたり込む四季先生。飲み物を買いに行った鈴蘭と千鶴を待つ間、話すことにする。

「四季先生もつらそうだなぁ……バス酔いですか?」

「二日酔いです」

「……それもまぁ、自業自得ってやつですね」

 千鶴と鈴蘭が戻ってきて少し遅めの昼食をとることにする。

「おい、死んだ目でこっちを見るな」

「……お前は酔ってないからいいよな」

「うう、まだ少し気持ち悪い」

 バス酔いなんて酔い止め飲んでおけば余裕だろうに。

 弁当を開けると凄く寄っていた。リンゴのウサギが海老チリに飛び込んでいるから大変だ。

「……オチ、弱ぇ……」

「は? まだ着いたばかりだぞ」

 不安が高まる一方だ。


やったね、みんなのおかげで三十回突破だよ。まぁ、それはともかく……収拾つきそうなのがアイドルと許嫁、金持ちでどんどん話がわけわからなくなっているのがメイドですね。くそぅ、転校してきた風紀委員長の南山葵にしとけばよかったぜい……。今後どうなるかわかりませんが、よろしくお願い致します。

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