第二十七話:金持ちに幸運を運ぶ下着
第二十七話
十月も終わりが近づいてきた。
一言で言うとあれだ、寒い。
「今年は早めに冷え込んでんなぁ」
「……寒いっ」
一緒に暮らしているのが普通になってきつつある青空の奴は既にこたつむしになっていた。十月の終わりの週、既に電気こたつが引っ張り出されている……つまり、地球はもうおしまいだっ。
「ここから地球破滅までのプロセスをどうやったら青空にわかりやすく説明できるだろうか」
「アホな事を言ってないで夢川も入ったら?」
「さすがに早いだろ」
足でこたつ布団をめくってくれるのは嬉しいですけど、パンツが丸見えですよ?
ああ、恥じらいをもっていた青空は一体どこに……なんて言っている状態じゃないんだよな。まだ青空の家の問題は解決しちゃいないのだ。
それでも、日常を送れるだけの精神安定は続いていて青空はここ最近笑顔を見せる事が多くなっていた。
「流行に疎いわけにはいかないわ」
「……先取りしすぎじゃないのか」
「いーのよ、人と同じじゃ意味がないもの」
「しかしね、青空。そういうのはあまり良くないと思うぞ」
「うっさいわねぇ。パパの会社を取り戻したら敷地内にあんたの家、建ててやるから黙ってなさいよ」
どこから調達してきたのか蜜柑の皮をむきながらそんなことをいう。相変わらず無茶苦茶言っちゃう子である。
「やれやれ……っと、そういえば宝くじの発表が今日だったな。一等とは言わないけどせめて一年分の生活費ぐらいは当たってくれないかなぁ」
そこで気がついた。そういえば宝くじは既に俺の手元には無いのだ。
「なぁ、青空」
「何」
「悪いんだけどこの前渡した宝くじ、貸してくれないか? 当選しているかどうか見るから」
「いいわよ」
何やら胸元に手を突っ込んでごそごそやっている。
「……」
小さい部類に入るからなぁ……谷間も見えないし、何となく二つの小さい山が確認できる程度だ。
「それでも見えたら背徳感あって超嬉しいんですけどね」
「いきなり何言ってるのよ」
「今晩のおかずは牛乳を入れたものにしようかと」
精一杯愛想笑いを浮かべてごまかしに走る俺。風呂上がりとか最初は警戒していたのに今じゃこっちが勘弁してくれと言う程の薄着だ。年頃の娘が……空パパが見たら何と言うんだろうか。雲隠れしてないで迎えに来いってんだ。
「チャウダーにしよう。お前には牛乳が足りてないんだっ」
「あたし、別に牛乳が嫌いってわけじゃないけど?」
「それで、宝くじは?」
「……ごめん、無くしちゃったみたい」
「……マジか」
だが、しかしてっ。ここで諦めるのはまだ早い。
「部屋に入ってもいいか」
「いいけど。普段使ってないのはあんたが良く知ってるでしょ」
寝る時もリビングで寝てるからなぁ。元は物置だったのに再び物置になるとは部屋も想像していなかった事だろう。
勉強道具や形だけの机が置かれている部屋に入る。箪笥ぐらいしか家具は見当たらない。いや、待てよ? さっき青空の奴はブラジャーの中から取り出そうとしていたのかもしれないな。つまり、最近のブラジャーにはポケット機能がついているのではないか?
そう思って箪笥の中の下着が入っているところを開けてみる。色とりどりの布地が俺の訪問を歓迎してくれているようだった。
「……ついてないなぁ」
どうやら最近のブラジャーにはそういう機能が付いているわけではなさそうだな。
「なにしてんのよっ」
「いたっ」
後頭部を小突かれて後ろを振り返る。其処には腰に両手をあてて怒っている青空の姿が……。
「な、何って。宝くじを探してるんだよっ」
「そんなところに在るわけないでしょっ」
「……いや、ほらだってさっき胸元に手を突っ込んでただろ? だからブラジャーの中に何かを入れるポケットがあるかもと思って」
俺の言葉にどうやら勘違いしたらしい。
「ゆ、夢川あんた……あたしの胸に何か詰め物でもして大きく見せてるって思ってるの? これは、天然ものよっ」
「勘違い、かっこわるい」
胸を張られてもそこまで自慢できるほどのものじゃあない。
勘違いしている奴を相手にしていても時間の無駄である。
「はっ、もしかしてパンティーの方に特別な機能が?」
「勘違いしているのはお前の方だっ」
小気味よい音をたてて俺の頭が再び叩かれるのであった。
「結論、青空の箪笥の中に宝くじはありませんでしたっ」
「あったりまえよっ」
「でもすけすけの勝負下着は入っていましたっ」
「あ、あれは……最近買ったものなんだからっ」
ということは青空にはあれを見せたい男がいると言う事か。女性の勝負下着ってどのくらいの値段なんだろうな。下手すると数万の下着もあるらしい。
「まぁ、そんなことより宝くじだ。どこにいったんだろうなぁ」
「夢川の部屋なんじゃないの。あたしもたまに部屋に行くでしょ。そこで落としたのかも」
「む、確かにそうだ」
二人で俺の部屋に行くと少し狭い。普段は三つ折りにした布団をソファー代わりにしているのでそこを重点的に探してもらう。
俺はどこを探そうかと考えていると横から宝くじが視界に入ってくる。
「ほら、あったわよ」
「そうかい」
「お返しにあんたの下着を見てやろうかと思ったわ。でも辞めておいたから感謝しておいてよね」
色々と突っ込んだら面倒だし、黙っておいた。
「さーて、ちょっと遠回りしちゃったけど確認の時間だな……」
もしかしたら青空のブラジャー、勝負下着を見たご利益でもあるかもしれないな。
くだらない事を考えつつ、当選番号を確認することにしよう。
「……?」
もう一度番号を確認する。
「うん? これは……もしかしてイットゥートゥーセンではないのだろうか」
一等は……まさかの四億。何度も確認してぴしゃりの数字をじーっと眺めてしまう。
「四億とかバイトしてりゃぼーっとしてても暮らせる額じゃね?」
妄想が脳内を駆け廻る。
「あいたっ。何すんだ冬治っ」
「へへ、千鶴た~ん。これ見てそんな事言えるの?」
「ひゃ、百万円……」
「これで何か奉仕してよ」
「え、えーっと、お帰りなさいませご主人様」
「駄目だね。でもそんな駄メイドには百万ぐらい必要だろうねぇ。ほら、無様に拾いなよ」
「で、どうだったの?」
コーヒーを入れてきた青空がまずそうにすすっている。その顔を見て万札をびらびらさせながら遊んでいる顔が一発で吹き飛んだ。
「……なぁ、青空っ」
青空の両肩をがっちりと掴んで気付けば詰め寄っていた。
「な、何よ。どうしたのよ……いきなり、びっくりするじゃない。き、キスされるのかと思ったわっ」
「そんなもんするわけないし、している場合でもない。四億……四億あったらお前の父ちゃんの会社、取り戻せるんじゃないのか?」
「はぁ?」
「当たったんだよっ。四億っ。ほらっ」
確認させるとさして驚いた様子もなく頷いていた。
「そうね、当たってるわね」
「だろ? これだけあれば大丈夫だろ」
「……四億じゃ足りないわよ」
寂しそうな顔してコーヒーを飲みほした。
「マジかよ。どんだけ資産があるんだ」
四億あればちょっとでもどうにかできると考えていた俺はどうやら甘かったようだ。一気に落胆し、こうなったら派手に遊んで散ってやろうかと考えてしまう。
「……ん、いや、でもちょっと待って……夢川、携帯貸しなさい」
「え? あ、ああ」
携帯電話を手渡すと素早く何処かに連絡を入れる。英語のやり取りが何度か続いて通話が切られた。
「どこに電話したんだ?」
「パパの友達よ……そんなことより、その四億、もらっていいの? 庶民がそのぐらい持っていれば遊んで暮らせるんじゃない?」
遊んで暮らすのは無理ながら、バイトしながらでも十分生活できる金額であるのは確かだ。
「……お前にやるよ」
「本当にいいの? 後で返せって言われても……会社を奪い返すまでは返せないわよ?」
「返す予定あるのかよ」
すげぇな。
「ま、お前にやった宝くじだからな。所有権はお前にあるよ。俺が持っているより青空が使ったほうがいいだろ? 会社、もしかしたら取り戻せるみたいだしな」
「……うん」
頷いて青空はしばらく唸っていた。
青空が唸っている間、俺はふと考えていたりする。
「……もしかしてあの勝負下着が宝くじを当てたのでは? あれを所有していたらすごく運に好かれるとか」
今度宝くじを買うとき、もう一度だけ拝ませてもらおうかな。




