第二十六話:許嫁との同居は秘密
第二十六話
一日経てば怒っていたのも忘れるならば、一週間もすれば学園差の事も忘れていたりする。
「鈴蘭、この前の学園祭の事なんだが……」
「え? 何の事? たこ焼き屋台?」
十月に入ってまた怒りだすんじゃないかと思い、俺はまだ鈴蘭にプールの事を聞けずじまいだ……というか、記憶力の問題かな。
「十月って特に何もないよな」
俺、千鶴たん、鈴蘭で昼食をとっていたら千鶴たんがそんなことを言いだした。
「そうなのか?」
「転校生だからいまいちわからないよ」
転校生である俺達の顔を見て納得した。
「そうだったな。この学園、学園祭が終わったらあとは期末テストがあるだけだ」
「そうなのか」
「……あれ? 今年から修学旅行が十一月に入りこんだよって四季先生が言っていたよ?」
鈴蘭がそう言うと千鶴が首を振る。
「確かにそうだけどお前ら二人は修学旅行分の積み立てが足りないだろ」
「……そういえばそうか」
いけない人、行かない人はまとめて補習扱いになる。二泊三日、京都で遊んでいる間に勉強を続けねばならない……職員室の片隅で。
「俺行けない人だわ……」
ウィンナーをつまんで口に放り込む。
「大丈夫。そこはわたしの方で準備してあるよ」
同じようにウィンナーを口に入れる鈴蘭がそんなことを言いだした。
「そうなのか?」
「うん、家賃払う時に聞いてないの?」
「誰からだよ」
「お義父さんから」
あれ? 今変換おかしくなかった?
「父ちゃんからかぁ……そういえば言われていた気もするなぁ」
「だから気にしなくて大丈夫だよ」
そうか、修学旅行の事も忘れていたけど、料金が既に支払われているなんて誰が気付くのだろう。
嬉しい結果に鈴蘭が一生懸命作ってくれた不細工なお弁当も美味しくなってくる。
「……なぁ、お前らいいか?」
「なんだ? もしかして千鶴たんはお金を払ってなかったのか」
「違う。弁当だよ、弁当」
「弁当?」
「えっと、千鶴ちゃんのお弁当の中にはそんなに変なおかずは入ってないよ?」
鈴蘭の言葉に俺は千鶴たんの弁当を覗きこむ。
「……馬鹿な、子供向けアニメ番組のキャラが千鶴たんのお弁当箱の中でピクニックスペシャルやってるだと」
「お、おれの弁当の中身はいいんだよっ」
「え? これもしかして千鶴ちゃんが作ったの?」
瞳をきらきらさせながら(まんま子供だ)千鶴たんに迫る。
「い、いや、これはおれが作ったもんじゃないぞ」
「……だよなぁ、千鶴たんがこれ作ったら俺、眼科か脳外科受診するわ」
「さすがに無理だ。これは双子の妹が作ったんだよ。おれは別にいいっていったんだけどよぉ、起きた時には既に準備されてるし」
「一つもらっていい?」
「メイン以外ならいいぜ」
「わーい」
千鶴たんの言葉を聞かずさっそくミニハンバーグ(栗の形に作られている)に手を出した。
「うわ、すっごくおいしっ」
「ったく、しょうがねぇ奴だな」
俺だったら確実に邪魔していただろうに千鶴たんは先ほどからご機嫌だった。
「機嫌がいいな」
「まーな……って、それはどうでもいいんだよ。弁当だよ、弁当っ。何でお前と、鈴蘭の弁当の中身が全く一緒なんだよ」
人差し指をびしっと俺に突きつけて千鶴たんは犯人を追いつめる名探偵の表情になる。
「つまり、これは……」
「名探偵」
「何だい」
鈴蘭に名探偵と呼ばれて自慢げにそっちの方へ顔を向ける。
「確認のしようがないよ?」
「はは、何言ってんだ。冬治と鈴蘭の弁当の中身を確認すれば一発……だろ?」
既にさっきの話の間に俺の弁当は空っぽになっていた。
「証拠隠滅をはかりやがったなっ」
「はぁ?」
「くっそー絶対に尻尾を掴んでやるぞっ」
どうでもいいけどさ、千鶴たん……お前ん所のお弁当が大変な事になってるぞ。
「これもおいしーっ。冬治君、今度はキャラ弁作ってみるねっ」
「あぁ? 今度はおれの弁当が消えやがったっ」
その後、鈴蘭にチョップが天罰として降ってきて、俺には拳が飛んできた。
「いたーいっ」
「自業自得だろっ」
「待った、じゃあ、俺が殴られたのは?」
「……お前、こいつの許嫁なんだろ。責任取れよっ」
千鶴たんの言葉に俺は頷く。
「責任とってもらってるよ? 許嫁だし、小さい頃に……」
「うわーおっ」
後ろから抱きしめるように鈴蘭の口をふさぐ。むーむー言っている鈴蘭の声の上から俺は続ける。
「そうだな、そうだよな。うん、許嫁だししょうがないよな」
「……何だかやましいところでも?」
「あるわけないだろう……はは、鈴蘭、ちょっと校舎内デートでもしようかっ」
「むーっ」
何やら言葉を吐いている鈴蘭を引っ張って俺は教室から逃げ出すのだった。クラスメートたちが後日、愛の逃避行だと言っていた。




