第二十五話:アイドルに宣戦布告
第二十五話
なんだか学園祭で可愛い子ちゃんと出会えそうな予感がした。
「しかし、現実は厳しいな」
実際は天導時が今度隣町で歌うのでプラチナチケットをもらっただけだった。
「渡したからには絶対にこいっ。これでお前との関係はチャラだからっ」
胸倉掴まれてそう宣言された。どうやらこの前のお礼らしいな。やれやれ、不器用な性格の友人をもつと苦労する。
そういった経緯で中間テストが終わった週の日曜日、俺は電車に乗っていた。休日のため人が結構多く、殆ど身動きをとる事が出来ない。
「……あー、近くのおっさんのにほいがすげぇ」
動けたとしても数センチ程度である。
近くに立っている結構可愛いショートカットの女の子も先ほどから何やらもぞもぞしていた。
「ん?」
可愛いから良く見てみれば何と、お尻に誰かの手がくっついているではないか。てっきり俺の手が無造作のうちに桃尻を求めていたのかと思えば右手でしっかりと吊皮を握って、左手は携帯電話を握りしめている。
「つまり、これは……」
痴漢プレイって奴だろうか?
実際にここまで堂々としている奴なんているんだろうか……そういうプレイだったらどうしよう。
「っ……」
でも、女の子は嫌そうな感じだ。
また少しだけ位置をずらし、お尻から手を遠ざけようとするも手はお尻を求めてついていっていたのだ。
注意して違ったら面倒だし、痴漢だったとしても巻き込まれたら面倒だ。
見捨てようと思った矢先、泣きそうな女の子の表情を見て心変わりをしてしまう。
「……よし」
おそらく痴漢だ。というわけで俺も勇気を出して注意しよう。
痴漢犯がてっきりさっきのにおいのきついおっさんかと思えば二十代の男性に見えた。悪くない顔立ちをしている。下卑た笑みを浮かべ、ショートカットの女の子に気を取られている。足元がお留守だ。蹴りを入れさせてもらおうかな。ついでにケータイでムービーも撮っておこう。
「せいっ」
「んがっ」
駅に着くぎりぎり手前、思いっきり足をふんづけてやった。そして右手を掴んでお決まりの言葉を口にする。精一杯、女の子の声に聞こえるよう裏声で言ってやった。
「この人、痴漢です~ぅっ」
頭の中には猫を被った天導時が声を出す時のイメージ映像が流れている。
「何? 痴漢だと?」
「けしからんっ……」
後はまぁ不思議な事に俺の言葉を聞いた紳士たちが痴漢を確保。痴漢被害を受けていた女の子の手を引いてプラットホームに出てもらう。
「この人が犯人ですかっ」
走ってやってきた駅員さんが俺を指差した。
「違います。俺は捕まえたほうですよ。こっちです」
「失礼しました」
既に俺の手へ手が伸びていたところを見ると頭からきめつけていたようだった。ケータイの動画を見せたのと痴漢犯が自供したと言う事もあってあまり時間がとられることもない。
とりあえず俺だけ帰っていいということになり、出て行こうとすると声をかけられる。
「あの、ありがとうございました」
「いえいえ、気にしないで下さい」
「名前は何と言うんですか?」
「名乗る程でもありませんから」
男だったら一度は言ってみたいセリフを相手に投げて時計を確認する。
「げ、やばいっ」
次の電車を逃したら遅刻だ。しかも、入場できなくなるっ……。
「あのっ、待ってくださいっ」
「ごめん、俺もう時間がないからっ」
絶対に感想を聞いてくるだろう相手の怒った顔を想像して事務所から素早く飛び出てぶつかりながら電車に転がり込むのだった。
何とか乗り合わせて俺は天導時のライブに間に合わせる事が出来たのだ。感想、人がめっちゃ多かった……歌? よく覚えてないや。なんとなくよかったのはわかるよ。
「で、ライブの感想聞かせてもらえるかな?」
次の日、案の定天導時に感想を要求されるのだった。
「ら、ライブの感想? う、うん。若者受けしていいんじゃないの?」
アイドルの歌なんてよくわからないからなぁ……テレビから流れてくるのを耳が勝手にひろった奴が多かったりするし。
「正直に言ってくれていいんだよ? 怒らないから」
どうせ怒るんだろう……そう思いつつ、嘘はつかないほうがいいなと諦める。
「悪い、本当はよくわからなかったよ。天導時の歌がうまかったのはわかったけどさ」
「……うーん、ま、夢川君だったらしょうがないよね」
思ったより怒っていなかったので内心ほっとする。
「想像できてたからさ。あと、これ。よかったら聞いてね」
良かったら聞いてねと言う割には絶対に聞けと目で訴えかけているのは気のせいでしょうか。
「今度のライブもちゃんと感想聞くから。楽しみにしてるよ」
「ほほ笑む天導時がアイドルか何かに見えるぜ……ぐおっ」
周りに見えないところで拳が叩きこまれる。
「一言多いよ」
「……い、今のは確かに悪かった」
「わかればよろしいっ」
ここで終わればいつもの俺と天導時と言う話だったのかもしれない。学園祭からこっち、天導時と俺が話をしている時に他の生徒が話に加わってくる事はなかった。なんでも、凄く怖いオーラが出ていて近寄れないそうだ。
そしてそんな怖いオーラをものともしない友達も中にはいるわけで……。
「おーい、冬治」
「なんだい、千鶴たん」
「お前に客が来てるぜ」
「客?」
まさか父ちゃんか母ちゃんがこっちに来たのか?
そんな事を考えながら教室の後ろ扉を見るとそこには痴漢の被害を受けていた女子生徒がたっていた。
その子の所へ行こうとすると向こうからこっちにやってきた。
「あの、昨日はありがとう。同じ学園で、隣のクラスだったんだね」
「え? あ、ああ……」
昨日とは打って違って元気そうな女の子だ。
「ごめん、名乗って無かったね。あたし、天田亜子。亜子って呼んで。冬治君」
「冬治、どんなことしたんだ?」
千鶴たんがそんな事を聞いてくる。しかし、女子にとって痴漢されてたなんてあまりいい話でもないだろう。
「う、うーん……答えていいものかどうか」
噂になったら困るんじゃないか、そんな気持ちがあって軽はずみに説明はできない。
「あたしが困っていたところを冬治君が助けてくれたんだよ」
実際に何があったかは言わず、亜子が千鶴に説明していた。
「へぇ、冬治が人助けかぁ。偉いな」
「夢川君は凄いんだね」
前者はどうやら心の底からの言葉、後者は外面の言葉だった。
「まさか転校生で、隣のクラスだったとは……運命、感じちゃうね?」
「え?」
そっと俺の手を掴んで近距離で微笑まれる。亜子の笑顔にどきっとしてしまった。
「う、運命だなんてなぁ……それなら転校した先の隣の席のやつに感じるものじゃないか?」
「せ、席替えした後の隣のアイドルじゃないの?」
顔をひきつらせた千鶴たんと天導時が俺の両肩を掴んでいた。
「あ、ちょ、痛い、痛いってばっ」
馬鹿をやっている俺たち三人を見て亜子はびっくりしていたがしきりに頷いている。
「やっぱり、アイドルがいるって噂は本当だったんだね……うーん、そして、そういうことかぁ」
そしてまじまじ千鶴たんと天導時を眺めると人差し指をつきつける。
「負けないからねっ」
「え?」
「は?」
「……勘違いしてるっ。 そういうわけじゃないっ」
天導時だけがどういう意味かわかったようで、抗議をしていた。
ちなみに、俺と千鶴たんは首をかしげているだけだった。
ここまで来てまさかの新キャラ。扱いに困るってもんじゃあない。扱いが凄く難しい人物ですね。実は、というか実際は冬治が転校してきて隣にいたはずの人物だったりします。千鶴と亜子が両脇を固めるというね、そんな感じ。男キャラが皆無で凄くハーレム状態じゃないかと思ってしまうので四季兄弟(気になる~の一作目に登場してました)の投入も考えましたがそこはそれ、やっかいなことになりそうだったので許嫁、金持ち、メイドでは登場しない予定の立ち位置に……。チケットの話と別にするつもりだったのですがね……「え? 天導時ってうたって踊れるの?」というボケを冬治にしてもらい、殴ってもらいたかった。まだ半分ぐらいですかね、許嫁とかはすぐに終わりそうな雰囲気がありますが。今作はせっかくなので二周目、いっちゃおうかと思ってます。さて、一通りいいわけし終えたので最後に一言。いつも読んでくれている人たち、ありがとうございます。




