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第二十四話:未来の義母さんはメイドの可能性

第二十四話

 何故だか青空の執事としてバイトすることになった俺。雇い主に挨拶を終えた後、屋敷を出て目の前の小ぢんまりとした小屋に案内されたのだった。

「ネームプレートに夢川冬治って書いてありますね」

「ええ、ここが冬治さんの新しい住まいですから」

「よくないですけど、それはいいとして、その下に海原波恵、海原凪と書いてますけど……これは?」

 黙って二人の名前の隣を指差された。波恵さんの隣には(教育係)と書かれている。

「教育係というのはわかりますよ? 波恵さんが教えてくれるってことですよね」

「はい」

「じゃあ、この義母というのは?」

 海原凪(義母)と書かれている。

「実のところ、波恵は養子なんですよ」

「絶対に嘘だ……それに養子だとしてもわざわざ書かないでしょ」

 凪さんの事を妹だとか姉だとか従姉妹だとかと間違えていたのだ。それはない。

 何か言ってやろうかと考えていたら手で制された。

「そろそろ中に入りましょうか。仕事の話もしたいですから」

「あ、そうですね」

 突っ込みチャンスがここは制限されているのだろうか。

「仲は普通ですから安心してください」

「……なか? あ、ああ、住居の内装は普通って事ですね」

 波恵さんの部屋は洋風だったから此処もちょっとした屋敷みたいになっているのだろう。そう思って中に入ったらそうでもなかった。

「凄く異質だっ。中は普通じゃないでしょっ」

 ピンクを基調とした部屋だった。小ぢんまりとした玄関、短い廊下、その先が風呂場と簡単に想像できる廊下からちょっと見える脱衣所、そして冬治さんと波恵の愛の巣と書かれた寝室……。

「仲は今のところ普通ですね。ゴールがこんな感じになります」

 指差す先にはタキシードとウェディングドレスが壁に……。

「……墓場がゴールだと?」

「それは骨が見つかった人間だけのゴールですよ。では、順を追って説明しておきますね。ここが脱衣所です」

「思っていたより狭いですね」

 一人が何とか手足を振りまわせるスペースだ。洗濯機もあるために足は振り回せないかな。

「ラッキースケベに期待ですね」

「そ、そんなことしませんっ」

「そうですか。では次に浴室です」

 脱衣所に比べてこちらは大きかった。二人がゆったり入るスペースは確保されている。

「二人で洗いっこを予定しています」

「……次をお願いします」

「スル―ですか」

 波恵さんの背中を押して先を促す。

「ここがトイレですね。洋式です。鍵はちゃんとかかりますから安心してくださいね」

「……何故だろう、いつかここでトラブってる未来が見えます」

 俺の言葉を無視して、彼女は歩を進めた。

「ここがダイニングキッチンです。冬治さんは料理、出来ますか」

「はぁ、それなりには」

「では、冬治さんが料理担当ですね。それ以外の家事は全て波恵が請け負います」

「それでいいんですか?」

「はい」

 何か問題でもありますか、波恵さんはそんな顔をしている。

「あのぅ、それじゃ波恵さんの負担が大きくなるかと」

「世間は男女平等だと言います」

 てっきり俺の事を非難しているのかと身構えて聞いているとそうではないようだった。

「しかし、です。やはり、女性に料理スキルを求める男性は多いようです。『いいよいいよ、料理なんて最近できない女性多いし』そう言っていた方が三カ月後、離婚届に判を押して妻に渡した事実を波恵は知っています。冬治さんに捨てられたとなったら波恵は……その事実を学園中に書類で配布します」

「……俺が料理、やりますから」

「ありがとうございます」

 波恵さんを敵にまわすと言う事は、学園中の男子生徒を敵にまわすのと同義であろう。ここまで強引にやられてきたけど、波恵さんの方からこんな風にしてくれると言う事は……。

「次は冬治さん期待の寝室ですよ」

「ちょっと、いいですか?」

「はい、何でしょう」

 気付けば喉はからっから、なのに舌はべたついてちょっとした言葉を吐くのにも苦労する。

「……波恵さんは、俺の事を……」

「好きですよ」

 よっしゃ、そんな気持ちを押さえつける。

「それって、友達として?」

 ここで幾度となく男子生徒がぬかよろこびして散っていったのだ。

「……いいえ、男性として好きです」

 そのほほ笑みは女神の微笑み。俺は照れて鼻の頭を掻きながら近づこうとして……。

「あらあら、ここでわたしの出番と言うわけですね」

「わぷっ」

 静かに俺と波恵さんの間に割り込む。そのせいで俺は凪さんの胸に顔をぶつけていた。

「まぁ、義母の胸に顔を埋めるなんていやらしい事をしますね」

 後頭部をがっちりホールドされて柔らかい胸に翻弄される俺。お、おちつけぇ、年齢的にはおばさんなんだっ。

 脳内で悪魔と天使が降臨し、話し合いを始める

「……年齢が何だ、身体が全てじゃないか?」

 天使の言葉に悪魔が頷く。

「年齢で全てを否定するのは愚者のすることです。年齢差のあるカップルや夫婦に対して差別的な言葉ですね」

 すごく正論をぶつけられた気がする。

「……このまま時間が許すまでおっぱいに埋もれていよう」

「駄目ですっ」

 腰に手を回されて凪さんから離されてしまう。

「はっ、俺は何をっ」

「あらあら、残念ですね」

 凪さんが笑いながら俺たち二人を見ていた。

「母さん、ちゃんと冬治さんに説明してあげてください」

「わかりました。夢川様……いいえ、冬治君。わたしはまだあなたのことを波恵の伴侶として認めるわけにはいきません。ですので、ねちっこい小姑としてあなたのことを監視します」

「つまり、義母と書いてお目付け役と読めばいいと?」

「そうですね。頑張りますのでよろしくお願いします」

「こ、こちらこそ……」

 ねちっこい小姑かぁ……くそっ、こっちに誘惑されたら簡単に落とされそうだ。

「仕事については明日から実際に教えて行きますので今日はまず料理を作ってもらうところから始めてみましょうか」

「あの、教育係は波恵さんなのでは?」

「料理が出来ない人が他人に教えられるわけがありませんよ」

 視えない棘が刺さったようで波恵さんは胸を押さえてうずくまってしまった。

「そうですね、まずは……肉じゃがから作ってもらいましょうか」

 手取り足とり教えてくれるのかと思えばそうではなかった。皮むきが遅い、投入するタイミングが間違っていると……結構厳しい言葉が飛んできた。

「……とりあえず出来たわけですが」

 色々と怒られながら肉じゃがを完成させ、凪さんに食べてもらった。ちゃんと味見もしたし、肉じゃがを作れない程俺の料理スキルは低くないはずだ。まぁ、最近の男子生徒は大抵料理が出来るから自慢にもならないが……。

「豚の餌以下ですね」

「凄く辛辣な言葉がっ」

「じゃあ、一口食べて箸を置いて帰るレベルです」

「それはそれで厳しいっ」

 凪さんの評価を聞きながら波恵さんは箸を肉じゃがに持っていった。俺は既に自分の味覚を疑問視していたりする。

「あれ? 普通においしいですよ」

「本当ですかっ。ありがとうございますっ」

 波恵さんの両手を掴んで上下に振ると波恵さんは恥ずかしそうにしていた。

「何を言っているんですか。そんな言葉、貴女を籠絡するためのおべっかですよ」

「……」

「そ、そんなんじゃありません」

 波恵さんから距離をとると両手を振って抗議される。

「母さんの常套手段ですっ。引っかからないで下さいっ」

「……もうやだ、この場所」

 誘惑されたかと思えば料理のチェックをされ、あまつさえ人間不信に陥らせようとするなんて……夢だと思いたい。

「あらあら、私が悪者にされていますね」

「だって、そうでしょうっ」

 波恵さんがああやって取りみだし、噛みつく姿も珍しいと言えば珍しいな。

「……二人ってやっぱり家族なんですねぇ」

 ため息をつく俺に二人は首をかしげているだけだった。


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