第二十三話:金持ちは一つ屋根の下心?
第二十三話
テスト一日目。
その日は騒がしくなり始めた携帯電話の着信音で目が覚めた。ごにょごにょと聞こえてくる誰かの言葉に寝たままで対応をしてしまう。
「……おはよう?」
『ゆ、夢川? あんた今どこに居るの?』
「どこって……俺の家。アパートの一室」
『一つ下よね?』
「んー? そうだよ」
良くわからないし面倒だったので適当に頷いていると勝手に電話が切れた。全く、お金持ちってやつは何を考えているのかよくわからんね。
まだアラームが鳴りだす時間まで余裕がある(二時間ばっかり)し、寝ようと体を横にする。
まどろみが俺を夢の世界に案内しようとしたところで現実世界の音が静かな寝室に鳴り響いた。
ぴんぽーん
「……くそっ、こんな朝早くに誰だよ。」
悪態をつきつつ足が動いてしまうのは性分か。
短い廊下を飛び越えて俺は玄関を少しだけ乱暴に開ける。
「誰……」
「夢川っ」
「だっ……」
確かに感じる軽い衝撃。俺の胸には一人の少女が顔を埋めていた。その背中には様々な道具が入りこんでいると思われる歪な形に膨らんだリュックサックが背負われていた。
「あ、青空? 何だその荷物は」
「わ、悪かったとは思ってるわよ? 本当は冗談で言ってたんだけどね。まさか夢川が一緒に住んでくれるなんて思いもしなかったから……必要だって思う道具だけもってきたの」
「えーと、どういう……」
そこでさっきの電話の内容がふっと頭に再現された
『ね、ねぇ、そっちに行っていい?』
「……ああ」
『お、おかねはないけどっ、親友だから一緒に住んでいいかしら?』
「……うん」
『本当! 嘘とか冗談じゃないわよね。嘘とか冗談だったら罰として一緒に住むからっ』
「……わかった」
『すぐにそっちに行くわっ』
「今頃思いだすなよ、俺」
「ねぇ、この部屋使っていいの?」
玄関先で佇んでいる俺なんて放って、部屋の中に入った青空は開かずの間を指差していた。
「そこはお化けが出るから辞めておいた方がいいぜ」
「そ、そう。それなら仕方がないわね、うん。別に幽霊が怖いってわけじゃないから」
こんにゃくが未だ尾を引いていると見えるな。
「そっちの部屋ならまだ物置みたいに使っているから大丈夫だ」
「じゃ、こっちを使わせてもらうわ」
しかし、青空の奴本当に俺と住む気なのか?
投げかけようにもさっきのやり取りを思いだして躊躇してしまう。何だか精神状態が不安定みたいだし、確認をとっただけで怒りだしてしまいそうだ。
健全な羽津学園男子生徒としては女子生徒と一緒に住むなんてどうかと思う。しかし、青空の状況を考えると悪くないかなと思う。
「……じゃ、こっちにするわ。お金あげるから……は、駄目ね。お掃除なんてした事無いんだけどどうすればいいのかしら」
「はぁ……それなら俺が教えてやるよ」
「え? 夢川が教えてくれるの? 授業料とか払えないわよ」
「気にするな。置いてあるものをいる、要らないでわけて要らないやつは捨てるんだよ。そうしたら次は床を拭いて終わりだな」
「そんなに簡単でいいの?」
「別にそこまで汚いわけでもないだろう……」
「そ、そんなものかしら」
「そうだよ」
簡単な荷物をリビングに持ってきてバケツと雑巾を渡す。
「何これ」
「掃除道具だよ。さすがに学園じゃ片づけてるだろ」
そこまで言っておきながら俺は考える。はて、青空が掃除をしているところを見た事があるだろうか?
「そんなものは全部波恵がやってるから。逆に手を出すと烈火のごとく怒るのよ」
「……あー、それは見た事があるかも」
波恵さんの掃除に協力を申し出ると基本的にはっきりと必要ないと言われるからなぁ。彼女なりのプライドとかあるんだろう。
「ともかく、今日からここがお前の寝室ならちゃんと綺麗にしないと駄目だろう」
「そ、そうね」
掃除を教えること三十分、殆ど俺がしたようなものでようやく家具が運ばれる。
「といっても、蜜柑箱を裏にしただけの机と布団だけか……もう十一月になるし、さすがに寒いよなぁ……いつもより早い時間に起きたし、とりあえず帰ってから考えるか」
「……すー」
リビングのソファーで寝息を立てている青空を眺めて思う。
「普通だったらむらむらでもするんだろうなぁ……何故だろう、ぴくりともしないぞ」
寝顔をまじまじと観察する。今この瞬間、青空が目を覚ましたら大変な事になるだろう。
「これは問題だな。青空に色気がないのか俺のマグナムが不能なのか……」
寝顔を眺めるのをやめ、二人分の朝食を準備することにしよう。数十分後、出来たところで青空を起こす。
二人で朝食を食べている間、ニュースが流れた。
そしてコマーシャルになると青空がこっちを見てきた。
「ねぇ、夢川」
「ん」
味付けが濃いとか文句をつけられるのだろうか。
「もし、パパがまた会社のトップに戻れたらマンション、買ってあげるわよ」
「……これまた大きく出たねぇ」
苦笑したのは思ったよりコーヒーが苦いからだ。まさか、場を和ませようと青空が冗談を言う事もあるまい。
「本当よっ。あたしは嘘をつかないわっ」
あっという間に激昂してテーブルを乱暴に叩いた。
「落ちつけよ。わかってるからさ……まずは今日のテストを乗り越える事を考えるべきだろ。そろそろ学園に行く時間だ」
「……そうね」
食器ぐらい洗ってもらおうかと考えてやめた。
「絶対に割る」
気に言っている茶碗なので青空にはテレビを見てもらって二人で学園へと向かうのだった。
「おはよう千鶴たん」
「おはよーさん。ん? 今日は珍しく金持ちと一緒に来たのか」
「金持ちじゃないわ」
そういって自分の席へ向かう青空に千鶴たんは頭に疑問符を浮かべている。
「あいつどうしたんだ?」
「さぁ? 何か悪いもんでも食べたんじゃないのか」
「きっと朝食が気に食わなかったんだろうなぁ……どんなもの食ってんだろ」
「今日の朝食は目玉焼きとウインナー、ご飯だったぞ」
朝食の話で盛り上がったのかと聞いてくる千鶴たんに曖昧に頷いておいた。あぶねぇあぶねぇ、一緒に住み始めたなんて聞いたら大変な事になるな。
「冬治さんおはようございます」
「あ、波恵さん」
既に来ていたのか俺が鞄を置いたところで話しかけられた。
「波恵っ」
「奏お嬢様……」
少しだけつらそうな顔をして波恵さんは顔を伏せた。
「頑張ってくださいませ、奏様。今の波恵には何も言うなと言われております」
「そう、よね。でも大丈夫。きっとパパが何とかしてくれるわ」
「え? 何だこれ……」
千鶴が首をかしげて俺に聞いてくる。
「さぁ? 主従の麗しい愛なんじゃね。そんな事より英単語でも眺めておいた方がテストでいい点数採れるぜ」
「……テストなんて不良には関係ねぇよ」
今更不良っぽくしても駄目だ。既にお前は俺の中でちょっと頭が可哀想な女子生徒として認識されております。
テストでなかなかの手ごたえを感じた俺は学園祭に向かうことなく青空と一緒にホームセンターにやってきていた。
「カーペットを買っとこうぜ」
「あたし、お金無いって言ってるでしょ」
「俺が出すよ」
「屈辱だわ……他人にお金を出されるなんて」
いまいち価値観がわからないのは俺が貧乏で、青空が元金持ちだからだろうな。文句を垂れつつ、高そうなカーペットを選ぶ青空にため息をつくしかない。
「さすがに出すと言ってもそんな金額は無理だ。これを機に一般人の金銭感覚を養うんだな」
「む、むぅ……じゃ、じゃあ一番安いこれ」
指差したカーペットに俺は首を振る。
「甘いな。ただ安いからという理由だけで物を買っちゃあいけない。このカーペットはこの前酷い品質だとテレビであってたからな」
「わかるわけないわよっ」
「というわけで、こっちからここまでが俺の買える範囲だな」
俺の態度に不満そうな顔をしつつ、青空はカーペットを選ぶのだった。
全く、一緒に学園祭を楽しんだ方が良かったのかもしれないな。
「青空」
「何?」
帰り道、カーペットを担いで帰る俺の同居人に一枚の紙を手渡した。
「何これ」
「夢を買うための紙きれさ。要は宝くじだな」
「宝くじ? もらっていいの?」
「ああ、大切に持っておいてくれよ」
「わかったわ」
いまいち理解していないようだったけれど、大切そうに仕舞ってくれたのだった。




